インタビュー前編では、DAZNが全試合を無料ライブ配信するFIFAクラブワールドカップの反響や手応えについて聞いた。
取材・文=三島大輔(サッカーキング編集部)
写真=兼子愼一郎
――笹本CEOは浦和レッズ対インテルをスタジアムでご覧になったそうですが、現地アメリカで感じたFIFAクラブワールドカップに対する熱量はいかがでしたか?
笹本 まず入場前のスタジアム周辺から、浦和サポーターの熱量を感じました。これは本当にすごかったです。今大会におけるナンバーワンサポーターなのではないかと思います。FIFAは浦和に感謝したいくらいなのではないでしょうか(笑)。それくらいすごかったですね。また現地で話を聞く限り、MLS(メジャーリーグサッカー)は除々に地元に根付いてきているそうですが、まだアメリカという国におけるサッカーに対する熱量にはまだまだポテンシャルがあるようです。FIFAとしてはアメリカ国内におけるサッカー熱を上げたいという意図があったと思いますし、来年のFIFAワールドカップに向けた地盤はできたのではないでしょうか。
――DAZNはFIFAクラブワールドカップ全63試合を独占無料ライブ配信しています。ここまでの手応えや反響についてはいかがでしょうか?
笹本 DAZN全体では、ここまで(グループステージを終えて)1億5000万人を超える方々にご覧いただけています。当初想定していた数値を上回っていますし、この時点ですでに大きな反響があると感じています。また今大会では審判視点のカメラ導入といったテクノロジーの進化、つまり視聴体験を進化させたいと思っていました。
――視聴体験の進化という意味では、前述の審判カメラ導入や臨場感あるピッチレポート、また関連コンテンツもたくさんありますね。
笹本 個人的には今、OTT(※インターネット回線を通じて動画・音楽・SNSなどのコンテンツを提供するサービス)全体が、分岐点に立っているのではないかと思っています。スポーツなどのライブコンテンツ、映画やドラマを視聴することは一般的になってきました。では、ここからOTTは現状維持のまま衰退していくのか、それともさらなる進化を果たして加速していくのか。近年はAIの発展もあり、イノベーションを起こせるのかどうかで勝敗がはっきりと出る世界だと思っています。そういった意味では、我々DAZNは思い切って投資をするタイミングが来ているのだと感じています。
――また全試合日本語実況という部分もこだわったポイントの一つだと思います。
笹本 そこはこだわったポイントです。熱量や没入感、試合に対する感情移入も変わってくると思います。DAZNが“ホームオブフットボール”であることを伝え続けていくためにも、ある意味必要不可欠なポイントではありました。
――いよいよ1年後には同じくアメリカを舞台にFIFAワールドカップが行われます。
笹本 我々も期待しています……(笑)。DAZNはFIFAと直接的な関係を築くことができましたし、時差もある中で全試合をライブ配信することによって多くの学びがありました。そういった意味では今大会の学びを最も生かせるのはDAZNだと思うので、これから頑張りたいです。
――2024年2月にDAZN Japanの最高経営責任者(CEO)兼アジア事業開発に就任されました。改めてここまでを振り返っていかがでしょうか?
笹本 約8年間、DAZNが日本で事業を続けてきて、そこから受け継がせていただきました。大きなナタを振るう必要性があったわけでないものの、選択と集中を意識してここまでやってきました。
――今やDAZNは日本のスポーツにおいて欠かせない存在になりました。この8年間で定着した中、少しずつコンテンツや料金の部分で変化もありましたが、笹本CEOが考えるDAZNのこれからについてお聞かせいただけますでしょうか。
笹本 これからは3つの大きな体験を充実させていこうと考えています。まず一つ目は見る体験です。今回のFIFAクラブワールドカップをきっかけにイノベーションを起こしたい。
またコンテンツについては、サッカーと野球に加えて、今秋からバスケットボール(Bリーグ)の配信がスタートします。当初はほぼサッカーのみでスタートしたので、日本の三大プロスポーツを配信させていただけることに成長を感じています。コンテンツの充実だけではなく、ビジネス面での加速度も上げる必要があるので、メディア事業やプロダクト開発といった体制強化にも取り組んでいます。料金については現在月額4,200円というところで、様々な理由からサービス開始当時よりも値上がっています。そこからある意味“逆転の発想”といいますか、今年はドコモさんとご一緒して「ドコモ MAX」「ドコモ ポイ活 MAX」に契約すると追加料金0円で見放題となるプランを発表しました。何か問題提起を掲げて、ソリューションを行う。料金にまつわることに関しても、より多くの方にDAZNを楽しんでいただけるような改善を引き続き行って参ります。