8日の東アジアE-1サッカー選手権2025 ホンコン・チャイナ代表戦で6−1と圧勝し、日本代表は連覇に向けて好発進を切った。12日の中国代表戦も連勝が必須の一戦となるが、森保一監督はメンバー総入れ替えを考えている様子だ。
10日のトレーニングで行われたゲーム形式の戦術練習では、次戦が初キャップとなる予定の早川友基、綱島悠斗、宇野禅斗、追加招集組の原大智、田中聡の5人も主力組でプレー。今回もまたフレッシュな陣容で戦うことになりそうだ。

 ワールドカップ経験者の長友佑都と植田直通が後方からチームを統率すると見られるが、攻撃の組み立ては若い面々に託される。特にボランチは宇野と田中の“デュエル系”が揃うだけに、やや不安も拭えないのは確かだ。「守備はお互いできると思うので、そこは自分らの良さ出していきますけど、攻撃のところが自分は比較的苦手。禅斗とコミュニケーションを取りながら、試合までしっかり連携を深めたいと思います」と田中は真摯に課題と向き合っていく構えだという。

 今季ユース時代から長く過ごした湘南ベルマーレを離れ、サンフレッチェ広島に赴いた。ミヒャエル・スキッベ監督から高い評価を受け、始動時から川辺駿とともに主軸ボランチの一人として位置づけられていた。しかしながら、移籍後初の古巣対決となった5月7日の湘南戦で負傷。そこから2カ月間の長期離脱を強いられ、7月5日のファジアーノ岡山戦でようやく復帰。何とかこの大会に間に合った格好だ。

「追加招集は予感もしていなかったんで、ビックリしました。
本当にフルでやっていないし、45分やっただけ。それでも呼んでいただけたのは有難い。コンディションは100%ではないと思いますけど、それを言い訳にせず、全てを出してチームに貢献したいと思います」と本人も千載一遇のチャンスをモノにしようと闘志を燃やしている。

 鈴木彩艶、三戸舜介らとともに2019年のU-17ワールドカップに出場したレフティボランチは、その後のU-20、U-23日本代表にも順調にステップアップすると見られていた。しかし、彼らが参戦するはずだった2021年のU-20ワールドカップはコロナ禍で中止。彼自身は2022年8月にベルギー1部・コルトレイクへ赴いたが、1年でJリーグに戻ってきたこと作用してか、2024年のパリ五輪日本代表からはギリギリのところで落選の憂き目に遭った。

 その五輪の大舞台に立った藤田譲瑠チマが今季からザンクトパウリ、川﨑颯太もマインツへ行きが決定。欧州5大リーグへの挑戦権を得た。彼らより一足先に欧州に赴いたものの、一度Jリーグに戻ることになった田中にしてみれば、同世代ボランチの躍進ぶりを目の当たりにして焦燥感を抱くこともあるだろう。「よく自分も比べちゃいますけど、あんまり比較しすぎてもいいことはない。他人も気になりますけど、自分のペースでやるべきことをしっかりやっていけば、チャンスが見えてくると思うので、焦らずやっていきたいと思います」と冷静にコメント。このE-1選手権を新たな一歩にしたいところだ。


 そのためにも、中国戦では攻守両面での安定感を発揮し、自身のストロングであるボール奪取力や対人守備、左足の強烈なシュートをを見せていく必要がある。中国は香港に比べると前からプレスに来るという分析もあるため、田中と宇野が強度の高いデュエルを見せて高い位置で奪い、素速い攻めを繰り出していければ理想的だ。「(相手が前がかりで来たら)プレスを剥がしながら中盤で落ち着かせることが大事ですし、引いてくれば自分たちのゲームができると思う。そこはボランチ(の舵取り)がすごい大事になってくるので、意識していきたいです」と本人もやるべきことを明確にして、ピッチに立つつもりだ。

 湘南育ちのボランチという点で、彼は以前から「遠藤航のようになってほしい」という期待を背負っている。自身も「憧れの選手は航さん」と口癖のように話している。その遠藤もA代表デビューは2015年のE-1選手権。当時は22歳で、ボランチだけでなく、右サイドバックでも起用されていた。2016年に浦和レッズに移籍した後も3バックの一角として起用され、ボランチを主戦場にしていた代表とのギャップを感じながらのプレーだった。そういった時期を乗り越え、20代後半で攻守両面でインパクトを残せる万能型ボランチへと進化を遂げていったのだから、田中にもできるはず。同じ年齢でのA代表デビューを成長の糧にするしかないのだ。

 もう一つ、付け加えると、田中は長野県出身の数少ないA代表選手の一人。
中国戦で初キャップとなれば、2006年のオシムジャパン時代に1試合に出場した田中隼磨以来ということになる。「今回は初招集の選手がいっぱいいるので、自分の中ではそこまで緊張もないですし、意外と冷静にいられている。いつも通りのプレーをしたいなと思います。長野県出身の最高点? そうですね、頑張ります」と笑顔を見せた若武者の大躍進を心待ちにしたいものである。

取材・文=元川悦子
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