こうした中、森保一監督もすでに語っていた通り、アメリカ戦のスタメンは大幅な入れ替えを明言。メキシコ戦先発組の中では、リヴァプールでの出場時間が短いキャプテン遠藤航の連続出場が有力視されるが、それ以外はほぼ変更となるだろう。つまり、攻撃陣は顔ぶれがガラリと変化するということだ。特にシャドーは南野拓実、鎌田大地、久保建英の主軸3人の先発回避が確実視されるだけに、まだまだキャップ数の少ない鈴木唯人や佐野航大が並ぶ可能性も高まってきた。フレッシュな面々が新たな風を吹かせられるのか否か……。そこは大きな注目点と言っていい。
「まずはチームとしてトライするべきことをやる中で、自分をどこまで表現できるかが大事だと思います。“自分の色”をもちろん出さなければいけないですね。メキシコ戦で途中から出てきたメンバーが、スタートから出たメンバーと同じクオリティを出せていれば、後半の最後ももっと圧倒的な試合を進められたのかなと。自分たち出られない組が成長することが必要なのかなと思っています」と今季から欧州5大リーグにステップアップした23歳のファンタジスタ鈴木は自戒を込めて語っていた。
清水エスパルスでプロ1年目を過ごした翌2021年1月の日本代表候補合宿に呼ばれるなど、10代の頃から多彩なアイディアとひらめき、高度な技術を森保監督から高く評価されてきた。だが、初キャップはそこから約2年半後の2023年6月のアジア2次予選・ミャンマー代表戦(ヤンゴン)までズレこんだ。
2025年に入って6月のオーストラリア戦、9月のメキシコ戦2試合出場と着実に出番を増やしてはいるものの、南野や久保らの牙城は高い。そこで生き残りを図るには、本人も言うように、チーム戦術を確実にこなしつつも、“自分の色”を要所要所で出していくことが重要。独特の得点感覚とシュートセンスを発揮してくれれば理想的だ。
「メキシコ戦でもみんながチームとしてやろうとしていたことがすごく綺麗に出ていたと思います。ああいうふうにやりたいことを統一できれば、いい形を生み出せると外から見ていて分かっていた。なので、自分が無理に色を出すことを考えるよりも『どこで武器を発揮するか』が大事。ゴール前のところでそれができればいいと思います」と自身のストロングを出すタイミングを見定めて、一気呵成にゴールに迫っていく構えだ。
アメリカという相手は「ボールをつなぐスタイルを好んでくる」と伊東純也も話した通り、丁寧な組み立てを重視する傾向が強い。となれば、2列目のアタッカー陣は南野や久保がメキシコ戦でやっていたように、高い位置から相手を追いかけてボールを奪いに行き、即時奪回からカウンターを果敢に仕掛ける姿勢を押し出すことが第一だ。ハードワークを続けている中で、敵の守備に綻びが生じた瞬間を見逃すことなく、最後の一刺しに行くのが、鈴木に託された大きな仕事。
改めて考えてみると、同い年の久保建英も2019年6月の初キャップから初ゴールを奪うまでに約3年もの時間を要した。そのことを本人にぶつけると「点取れる時は取れると思いますし、取れない時は取れない。ただ、それだけだと思うんで、特別考えることはないですけどね」と淡々とした回答が返ってきた。そのうえで「できないことを無理やりやろうとしてもできないですし、今できる限りの100%が出せればいい」と鈴木はあくまで自然体を強調。普段通りの自分を出すことが、成功への近道だと考えているのだ。
こうやって常に動じることなく、堂々と振舞えるのが彼の良さ。その姿勢を貫いて、アメリカ戦で何らかの爪痕を残せれば、9カ月後の世界舞台が見えてくるかもしれない。このアメリカ戦で布石を打たなければ、10月以降のパラグアイ代表戦、ブラジル代表戦といった強豪国相手への挑戦権を得られない。そこには危機感を持って臨んでいくべきだ。
同じポジションを競うアタッカー陣の軌跡を振り返っても、南野は20歳の代表デビューから定着まで約3年かかったし、久保もレギュラーをつかむまで約4年近く要している。鈴木が今、もがいているのは決して不思議なことではないし、どこかで必ず現状を抜け出せるチャンスが訪れる。
取材・文=元川悦子