4月、新入社員が今年もやってきました。そこで「すぐ辞めた新入社員」の記事の中から、反響の大きかったトップ10を発表。
第3位の記事はこちら!(初公開2023年5月20日 集計期間は2018年4月~2023年12月まで 記事は取材時の状況) *  *  *

 この時期、就職や転職で新たなスタートを切っている人も多いかもしれない。そんな中、だれもが知る金融大手に新卒で入社したにもかかわらず、すぐに退職した女性に出会った。

自称“顔採用”で大手企業に入社、わずか3か月で退職した女性新...の画像はこちら >>
「昨年、入社した会社を3か月で退職しました。今は時給1000円の事務で働いています」

 現在、アルバイトで生計を立てる茜さん(23歳・仮名)。アイドルの吉田朱里似の美女だ。入社してから理想と現実のギャップに悩む新入社員も少なくないだろうが、何があったのだろうか?

男性と対等に働く女性社員に憧れて…

 大学時代、初めての就活にドキドキしながら、就職イベントを訪れた茜さん。どこよりも大きなブースを構えていた大手金融会社に目を惹かれた。
そして、そこで出会った美人でイキイキとした人事女性に憧れを抱き、「とてもカッコいい」と思ったそうだ。

「他の会社は男性の人事で、唯一、その会社は女性の人事だったんです。その女性人事に『私は大学のとき勉強をしていなかったから、いつも単位はギリギリだったのよ……』と聞かされ、『私も入社できるかも!』と思ったんです」

 茜さんは大学時代、勉強をする気がおきず、当時つき合っていた彼氏の家に入り浸り、学校にはあまり行かなかったそうだ。そのため、単位はいつもギリギリだったという。イベントで落ちこぼれ時代の話を聞いて共感をもった。

 また、“男性と対等の立場で働く女性”に憧れていたので、その人事の女性がまさに理想像だったのだ。


合計9回の面接で“顔採用”だった!?

 茜さんは「自分でいうのもアレですが、能力よりも顔採用だったのかもしれません」と肩を落とす。入社試験では、なんと1日に3回の面接を受け、3次面接まで合計9回も面接を行なったという。

「最終面接で、見た目も名前もアイドルのようだね、と言われたのを覚えています。面接に関係ないのに……と思いましたが」

 たしかに、大手と呼ばれる企業で働く女性社員の中には、モデルやアイドルさながらのルックスの人も多い気がするが……真相はわからない。しかし前述のように、茜さんの大学時代の成績は決して誇れるようなものではなかった。心当たりがあるとすれば、面接で容姿を褒められたことしかなかったのである。

自称“顔採用”で大手企業に入社、わずか3か月で退職した女性新入社員の言い分――大人気記事・すぐ辞めた新入社員トップ10
なんと面接は9回も行われた。手応えはまったくなかったが、合格した心当たりは「容姿を褒められたこと」だという。※写真はイメージです
 ともあれ、たとえ顔採用だったとしても、茜さんがだれもが羨む大手企業に受かったことは事実。
その後、4月1日に入社式を終えると、新人600人の合同研修がスタート。研修では、仕事に必要なビジネスマナーや経済の見方、会社の歴史などを学習した。歴史では、会社の理念を強く押し付けるような内容だったと記憶しているそうだ。

会社にとって必要なのは人格よりも風習を継ぐこと

 研修後は、都内からほど近い支店に勤務することになった。ここでの環境が、茜さんの心に変化をもたらすことになる。たしかに、金融業界で歴史ある同社。そこには時代錯誤とも呼べる、よくわからない風習も数多く残されていたのだ。


 朝3時に起き、新聞を読んでから出社するのが新人の勤め。出勤してからは、新聞の読み合わせや大量に渡される資料の理解、先輩の補助など、休む隙もない、めまぐるしい日々……。

 指導の方針は、決まったことだけ身につけ、個々の人格はいらない、と思わされるようなものだった。

 先輩に対しては、仕事だけでなく私生活のことまで、とにかくおだてなければならない。飲み会のときには、新人が先輩に対してお酒を注ぎに回り続ける。そんな昔からの風習に従わなければ、あからさまな嫌みを言われることも多かった。


 当然、今であればパワハラと呼べるようなものだろう。しかし、先輩社員にとっては「当たり前のこと」として済まされていたのだ。

自称“顔採用”で大手企業に入社、わずか3か月で退職した女性新入社員の言い分――大人気記事・すぐ辞めた新入社員トップ10
多くの社員は古いしきたりを「当たり前のこと」として捉え、おかしなことでも疑問にさえ思っていなかったという
 茜さんは「この人たちのように、ここには染まりたくない」と思うようになり、入社わずかで退職を決意したという。

「インターンシップやイベントでは、本当にキラキラした企業に見えたんです。上辺だけで選んだら失敗しました。中身は、古いしきたりが強くて、人格を尊重することのない環境でした。
会社全体としてそうなのだから、私個人の意見など聞いてもらえるはずがない。次第に、私という人格まで無視されているように思えてきて」

大手企業を辞めて、その後…

 こうして3か月で金融大手を退職した茜さん。古い風習があるからこそ、大手企業として生き残り続けているということも理解しているが、ついていけなかったという。

「今はアルバイトですが、前よりぜんぜん楽しいですね」

 現在は、社員登用制度のある会社で事務のアルバイトをしている茜さん。いつか社員になれることを夢に、お金よりも、尊敬できる先輩と自分という人格を尊重してくれる環境がそこにはあるという。

すぐ辞めてしまう原因は会社側にも…

――人事担当者は会社の良い側面ばかりを言うことだろう。インターンシップや就職イベントに参加しても、実情まではわからないことが多いかもしれない。新入社員も大きな期待を抱いて入社してきたはずだ。そんな新入社員に対して、「最近の若者は我慢が足りない」「すぐ辞めてしまう」とはよく言う言葉。

 会社の風習だからと、古い価値観を押し付けてはいないか。時代や感覚の違いを、現場レベルでも共有しておかないと、すぐに辞められてしまうのかもしれない……。

<取材・文/南沙織>

【南沙織】
渋谷系ギャル雑誌編集部を経て、フリーランスとして主に雑誌・ WEB の編集や執筆、広告のクリエイティブディレクターとして活躍。日韓クォーター・韓国語留学経験を活かした執筆も手掛ける。Instagram:@happycandybox