「人生に物語がない」と自認する
インタビューのなかでSuzukaさんが放った言葉に印象的なものがある。「私には物語がなかったんです」。すべての行動が線で繋がらず、脈絡のない人生を生きてきた、という自認からくる言葉だ。確かに彼女の行動は予測がつかない。たとえば名門進学校を出たのち、国立大学へ進学すると、すぐに性風俗店で働き始め、大学の5年間を費やした。かと思えば大学に1年間余分に通ってでもアメリカ留学を敢行している。性風俗店勤務はそのための食い扶持だったのだろう。
「大学時代に読んだ書籍の著者に会いたくなって、アメリカに渡りました」
その言葉に聞き覚えがあった。Suzukaさんが進学先の大学を決めるときの指針だ。「高校時代に図書館で読んだ書籍の著者が教鞭を執っていたから」。
母校に頻繁に顔を出す同級生たち
「自分がやりたいことに熱中するタイプの子がとても多く、高校時代の昼休みはみんなで科学室にこもって実験しながらご飯食べたりしてて。それが大学に進学すると、同級生たちがお昼にさわやかにテニスしたりしてるわけですよ。全然馴染めなくて。それで母校に遊びに行ったりしていました。あるとき、担任の先生が『去年、遊びにきた卒業生の人数をカウントしたら、平均1日1人は来校していた』と教えてくれて(笑)。みんな大学で馴染めなくて母校に帰ってきちゃうんだなと」
結びつきは現在でも非常に強固だ。たとえばこんなエピソードも、名門私学校らしい。
「母校で数学の教員になった同級生と飲んでいるときに、『今何してるの?』みたいな話になって。当時はSMの女王様をやっていたので隠さず答えたんです。
Suzukaさんが中学受験を志したのは小学校6年生と遅い。地元公立小学校では休み時間に図書室で読書をしているのを「みんなと外で遊べ」と教員から咎められた。友人関係に不安はなかったが、「当時やや浮いている自覚があった」Suzukaさんは、同様に吹きこぼれた子たちが中学受験をすることに気づいて参戦することになったという。「私もそっちに行かないと死ぬと思って、1日10時間くらい勉強したら何とか届きました」と話す彼女は、母校での生活を振り返って「入学できてよかったと思う」と笑った。
失踪癖がある父と連絡がつかなくなり…
Suzukaさんが育った環境は一言で表現しづらい。大学時代に家業から期間限定で解放された母親が、父親と出会って結婚。父親は一カ所に留まれない性質で、いくつもの職業を転々とした。経済的には母親の実家に依拠する面も多分にあった。「父はもともとうつ病を患っていて、10年に1回くらいのペースで失踪騒ぎを起こすような人でした。あとから母に聞いた話では、母の妊娠中にもウイスキーを瓶で一気飲みして救急搬送されたようです。ただ、元気なときは元気で、手先も器用なので何かを作ることに熱中している時期もありました」
前述のとおり名門進学校へ入学を果たしたSuzukaさんだが、父の失踪癖に翻弄され、通学が危ぶまれる場面もあった。
「入学直後に父が失踪して、しかも戻ってきたときに『会社を辞めてきた』と言って家族を驚かせました。経済的に傾くことが予想されたので『学校を辞めなければならないかも』と不安でした。
大学卒業前後の父の失踪もまた、Suzukaさんの人生を大きく揺らす。
「ブライダルカメラマンとして生きようかとも思いましたが、父がまた失踪したため、実家から通える就職先を探して3ヶ月間だけ勤務しました。その後、また映像制作の会社に戻って勤務しましたが土日勤務が多いため、平日に性風俗店で働いて時間を埋めることにしたんですね」
紆余曲折あれど概ね生活が安定してきた矢先、事件が起きた。
「その日は父以外の家族が別々で旅行に出ていて、誰もいなくて。母から『お父さんと連絡がつかないから見に行ってほしい』と言われて。それで見に行ったら、ベランダにぶら下がっていました。『助けてあげられなかった』と思いました。『連れて行かれちゃったな……』って」
Suzukaさんが部屋に入ったとき、朝食の準備がなされ、風呂場にはカビ取り剤が撒かれたばかりだったという。「もう1分待てば抑えられた衝動だったはずなんですよね」とSuzukaさんは俯いた。
女王様として働き、人生の軸が見つかった
自らの顧客にM寄りの性癖を持つ人が多いことから、女王様として活動し始めたSuzukaさん。そこでなかったはずの“物語”を再獲得したと話す。「昔は、ある程度高い水準の教育を受けた自分、カメラマンとしての自分、性風俗店で働く自分のそれぞれがまったくバラバラでした。けれども女王様をやったときに、『ベッドのうえでこれまでの経験が輝いている』と思えました」
それはなぜか。
「お客さんがどのような人生を経てこの場所に来てくれるかが理解できるんです。だからこそ、どんな向き合い方をすればいいのかがわかって」
SMというとどうしても「痛い・苦しい」イメージが伴うが、それは一面的な捉え方に過ぎない。
「本当に物理的にムチで叩かれるだけなら、誰にされても同じはずです。けれども、Mの人たちがもともと痛みを抱えているからこそ、どんな人にされるかが重要なのではないでしょうか」
「相撲を取ってください」と頼んできた男性客
「顔立ちが強面で、ガタイもよく、ひと目見て『キックか総合格闘技出身だな』とわかりました。対面するなり、私に『相撲を取ってください』と言ってきたんです。最初は勝てないから無理だと断りました。けれども、彼が『プレイしなくていいから本気で闘ってほしい』というので応じたんです。当然、最初は負けます。けれどもだんだん要領を掴めてきて、10回目には彼をベッドに押し倒すことができました。その場で、彼は泣き始めたんです。
彼は地元志向の両親から将来を嘱望され、すでに結婚する人も決められていることを話してくれました。そのなかで何がしたいのか自身でもわからなくなっているのだと感じました。おそらく『男らしくあらねばならない』というジェンダーロールの押し付けによって、彼もまた苦しんでいたのだと思います。残り時間、ずっと頭を撫でて時間終了を迎えました」
ままならない日常を生きる人々の抱えきれない思いを受け取ることで、Suzukaさんは自らの人生もまた再び構築することができたのだという。
父親の死をきっかけとして、大きく塞ぎ込んだSuzukaさんは、現在対面での接客は行っていない。筋肉女子のインフルエンサーとしてその人気を博し、「ありがたいことに生活はしていけています」と話す。
今後はストリッパーとしてゼロから修行の道へ入る。繋ぎ止めては離れてを繰り返すSuzukaさんの身体と精神は休まることがない。けれどもきっと、その眩しい笑顔で客の前に立つ日がくるだろう。そしてそのパフォーマンスは人生の一部を欠損した人たちを埋め合わせてくれるに違いない。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。
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