ジャーナリストの森田浩之氏は、今季の本塁打急増をきっかけに再燃した「飛ぶボール」論争について、単なる疑惑ではなく、ファンが毎年のように参加する“観戦文化”の一部になっているとみる。そして、このねじれがある限り「飛ぶボール」論争は終わらないと指摘する。(以下、森田氏による寄稿)。
ホームラン急増で再燃。「飛ぶボール」疑惑の現在地
今季のプロ野球は、様子が違う。ホームランが出すぎている。開幕から3カードを終えた時点で、1試合当たりの本塁打数は1.55本と、ここ5年間で最多。シーズン換算では1327本となり、昨季から約21%増える計算だ。なかでも日本ハムは、開幕から9試合連続で本塁打を放った。4月6日時点で計22本と、昨季の本数(129本)の2割近くを打っている。
こうなると、流れは決まってくる。
もちろん、日本野球機構(NPB)はこれをきっぱり否定した。しかし、ファンは釈然としない。何年も「投高打低」の試合を見せられてきた後に、ここまで急激に変われば、本当に同じ条件なのかと疑うほうが自然だろう。
「飛ぶ」「飛ばない」はもはやプロ野球の恒例行事だ
この構図は、いまに始まった話ではない。プロ野球では’11年に統一球が導入されて以降、本塁打数が大きく上下してきた。’11年には900本台まで落ち込み、それまでの水準から約4割減。’21年に1400本台に戻ったかと思えば、’24年になって再び1000本を下回り、’25年には持ち直した。決定的だったのは、’13年の「反発係数変更スキャンダル」だ。NPBが統一球の反発係数を引き上げて「飛ぶボール」にしていたのに、公表していなかった一件である。これによって「ボールは調整できるものだ」という認識が一般に共有され、以後は「飛ぶ」「飛ばない」という声が毎年のように繰り返されている。
NPBは一貫して変更を否定するが、数字は揺れ、現場の実感も揺れる。証拠はない。だが、疑う理由は常にある。
いまでは、この疑念そのものが一つの娯楽になっている。SNSでは「今年はこんな打球でもホームランになる」といった検証めいた動画が拡散される。真偽より、疑うこと自体が楽しまれている。
プロ野球は競技であると同時に、興行でもある。ホームランが増えれば試合は派手になり、観客は沸く。だが派手さが際立つほど、「調整されているのではないか」という疑いも強くなる。競技としての公正さと興行性は、必ずしも同じ方向を向かない。
運営側は変わっていないと言い、ファンは変わったのではないかと疑う。このねじれがある限り、「飛ぶボール」論争は終わらない。
【森田浩之】
もりたひろゆき●ジャーナリスト NHK記者、ニューズウィーク日本版副編集長を経て、ロンドンの大学院でメディア学修士を取得。帰国後にフリーランスとなり、スポーツ、メディアなどを中心テーマとして執筆している。著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』など
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