三菱UFJ銀行、プルデンシャル生命、ビッグモーター――。名だたる企業で不祥事が相次ぐ背景には、単なる個人のモラル低下では片づけられない“会社組織の病”があるという。
成果主義の浸透で会社への帰属意識が薄れ、「自分さえよければいい」と組織を利用する“令和型不良社員”が増殖。一流企業だからこそ不正に走りやすいという皮肉な構造まで生まれている。なぜ有名企業で人的災害が止まらないのか、その深層を追った。

人的災害ともいえる有名企業の不祥事

三菱UFJ、プルデンシャル…なぜ一流企業で「3億円窃盗」や「...の画像はこちら >>
昨今、人的災害ともいえる有名企業の不祥事が後を絶たない――。

’25年には、三菱UFJ銀行の行員がFXや競馬の損失を補塡するため、貸金庫から顧客の金塊や現金計約3億9000万円相当を盗んで逮捕された。今年1月には、プルデンシャル生命の社員107人が顧客から約31億円を詐取していたことが発覚、大問題に発展したのは記憶に新しい。

不正に手を染める会社員は昔からいたが、コンプライアンスが厳格化した現在でも、なぜ悪質な不良社員が次々に生まれるのか。人事管理に詳しい同志社大学名誉教授の太田肇氏が背景を語る。

「企業不祥事は時代とともに変質しています。これまでの“昭和型”の不祥事は、仕事ができる熱血社員の暴走が原因でした。しかし“令和型”は会社にぶら下がりつつも、『自分さえ良ければいい』と組織を利用して自己利益を追求する、いわば『冷めた合理主義』が暴走した格好です。プルデンシャル生命のケースは、まさに令和型不良社員による不祥事の典型でしょう」

冷めた合理主義に染まった結果…

そうして冷めた合理主義に染まった結果、一部の社員に“闇落ち”して不正に手を伸ばす者が出てくるという。物価高による生活苦や、社内環境の変化もそれに拍車をかけている。太田氏が続ける。


「冷めた合理主義の社員が増えた背景として、成果主義の導入が大きいです。昔は会社員の大半が高い役職を目指し、会社側の人事評価も社員の人間性や人格を重視していたので、不祥事を防ぐ抑止力になっていました。ところが、成果主義の導入によって人間性など数値で測れない部分が顧みられなくなったうえに、多くの企業では社内のポストが足りず、頑張っても報われない状態が拡大した。

会社との距離が遠のいた社員はドライになり、会社への愛着や帰属意識は薄れ、不祥事を生む温床になっている。昭和の会社員は自分の会社を守ろうとしたが、愛社精神を持たない令和型不良社員には『会社のため』などというブレーキは存在しません」

一流企業だからこそ社員が不正に走りやすい

三菱UFJ、プルデンシャル…なぜ一流企業で「3億円窃盗」や「31億円詐取」が続くのか?エリートが“闇落ち”する「一流ゆえの免罪符」
写真はイメージ
それにしても、名だたる一流企業で不祥事が相次ぐのはなぜなのか。甲南大学文学部教授の阿部真大氏が解説する。

「不祥事が起きると『一流企業なのになぜ?』という声が上がるが、実は一流企業の社員だからこそ不正に走りやすい。というのも、人は『正しいことをした』『立派な仕事を成し遂げた』と自覚すると、その後に行った不正行為を『これくらいはいいだろう』と正当化する傾向があるためです。これをモラル信任効果と呼びます。この効果は社会的評価の高い企業や職業の人ほど生じやすい。『一流企業で働いていること』が免罪符になってしまうのです」

また、令和型不良社員が生まれる背景には「SNSの普及による承認欲求の暴走」や過度な目標設定が与えるプレッシャー」という要因もある。

「SNSの普及によって、個人のプライベートな欲望を職場で満たそうとした結果、バイトテロや不適切な投稿を行う不良社員が増えている。さらに現場の能力を超えた目標やノルマも、達成するために不正に走る不良社員を生み出す」(太田氏)

過度に締めつけを厳しくすると…

企業がそうした不良社員を管理するのも容易ではない。過度に締めつけを厳しくすると、今度は別の不正を生む恐れがあるからだ。


「厳格な成果主義に基づく人事管理は、短期的には効果があるが、長期的には弊害のほうが大きい。過剰に管理された社員は上を忖度するようになり、社会正義に反していても上司が喜ぶなら不正に手を染めてしまうことがあるからです。’23年に発覚したビッグモーターの不正がまさにこれ。

また、管理のためのルールが多すぎると今度は社員の自発性が薄れていきます。『どうせ会社は自分を信頼してない』と、ただルールに従うだけで自ら考えて判断する力が奪われてしまいます。高い目標設定自体は悪いことではないですが、設計の仕方を間違えると組織が壊れてしまう。プルデンシャル生命のような極端な成果主義は米国では機能するかもしれないが、日本企業に合っているか疑問です」(阿部氏)

令和型不良社員による不祥事の続発は、現代の会社組織が抱える病巣とも言える。

闇落ち社員が関連する主な事件

三菱UFJ、プルデンシャル…なぜ一流企業で「3億円窃盗」や「31億円詐取」が続くのか?エリートが“闇落ち”する「一流ゆえの免罪符」
[闇落ち社員]の生態
’23年7月 ビッグモーター不正請求事件

中古車販売大手ビッグモーターが保険金を組織的に水増し請求。社長が引責辞任し、金融庁の行政処分にも発展した事件。

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[闇落ち社員]の生態
’25年1月 三菱UFJ貸金庫窃盗事件

三菱UFJ銀行の行員が、顧客の貸金庫から金塊や現金など約3億9000万円相当を長期にわたり窃盗したことで、逮捕された事件。

三菱UFJ、プルデンシャル…なぜ一流企業で「3億円窃盗」や「31億円詐取」が続くのか?エリートが“闇落ち”する「一流ゆえの免罪符」
[闇落ち社員]の生態
’26年1月 プルデンシャル生命詐取事件

外資系生保プルデンシャル生命で、社員・元社員ら107人が架空の投資話で約500人の顧客から総額約31億円を詐取した事件

©産経新聞社

【同志社大学名誉教授 太田肇氏】
専門は組織論、組織社会学。自律的な働き方を提唱する。
『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』(集英社)ほか著書多数
三菱UFJ、プルデンシャル…なぜ一流企業で「3億円窃盗」や「31億円詐取」が続くのか?エリートが“闇落ち”する「一流ゆえの免罪符」
同志社大学名誉教授の太田肇氏
【甲南大学文学部教授 阿部真大氏】
専門は労働社会学、家族社会学。『会社のなかの「仕事」社会のなかの「仕事」』(光文社新書)ほか著書多数。メディア出演多数
三菱UFJ、プルデンシャル…なぜ一流企業で「3億円窃盗」や「31億円詐取」が続くのか?エリートが“闇落ち”する「一流ゆえの免罪符」
甲南大学文学部教授の阿部真大氏
※2026年4月21日号より

取材・文/週刊SPA!編集部 イラスト/藤波俊

―[[闇落ち社員]の生態]―
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