すると、もともとの地元住民とタワマン住民の間で摩擦が生じることも……。
今回は十数年前、自身が小学生のころ、突然家にやってきたタワマン住民少女にマウンティングされた苦い思い出があるというメグミさん(23歳・仮名)が、当時のエピソードを語ってくれた。
“タワマン組”上層階の女の子の来訪
メグミさんの自宅は下町の一軒家だったそうだが、近隣にタワーマンションが建ったことで、日常が少しずつ悪い方向へ変化していったという。「そのタワマンに住む家族の子どもたちが、うちの学校に編入してきたんです。おしゃれな文房具を持っていたり、英語を習っていたりして、“地元組”とはまるで違う雰囲気で。なんとなく話も合わないし、どこか見下されているような感覚がありました。
ある日、そんな“タワマン組”の女の子の一人が、突然うちにやってきたんです。
同じクラスの、タワマンの上層階に住んでいる子で、学校でもひときわ目立つ存在でした。でも、私はそれほど親しく話したこともなくて、もちろんその日も遊ぶ約束なんてしていませんでした」
挨拶は形だけ…我が物顔でやりたい放題
当時、メグミさんは趣味でピアノを楽しんでおり、その日はリビングで一人黙々と鍵盤に向き合って練習していたそうだ。ところが突然鳴り響いたインターホンが、その心地よいひとときを不意に打ち破る。
「母は夕飯を作っている最中だったので私が玄関まで行きました。チャイムを鳴らしていたのはタワマンの子。驚きましたよ。特別親しいわけでもない同級生が立っているんですから。
でもその子は、私の戸惑いなどお構いなしに『あなた、ピアノ弾いてるの?』と聞いてきました。
あたふたしているメグミさんが答える間もなく、女の子は「私も弾いてるよ!」と続け、そのまま靴を脱いでずんずんと家の中に入って来たという。慌てて後を追うと、すでにピアノの前に座っていたのだとか。
「一応、母には礼儀正しく『お邪魔します』って挨拶はするんですよね。でも定型文の挨拶をしただけって感じで愛想が良いわけではないし、そもそも招いてもいないよその子が許可もしてないのに家にあがってきたので、母もだいぶ戸惑っていました。そして困惑する私と母を尻目に、勝手に演奏を始めました(苦笑)。
最初は母も『上手だね~』と大人の対応をしていたのですが、その子は社交辞令を真に受けた様子でした。『こんなの全然大したことない。今の曲は簡単すぎるから、次は子犬のワルツを弾いてあげるね!』と返すその子の偉そうな態度に、母の笑顔もだんだん引きつっていきました」
“独奏会”が終わるころには、メグミさん親子はすっかりくたびれてしまっていたという。他人の家に上がり込み、我が物顔でやりたい放題──。女の子が帰ったあと「家の空気は変な感じだった」とメグミさんは振り返る。
純粋にピアノを弾きたかったというより…
「うちはもともとこの町に住んでいる家族でしたから近隣はみんな顔見知り。それでも“親しき仲にも礼儀あり”です。突然来て許可もしていないのに家に上がり込んで、しかも勝手にピアノを弾き出すなんて、どんな教育を受けてきたんだろうって。表面的な礼儀作法はそれなりに身についているのに、中身は空っぽというか常識が欠如していたんですよ。『いきなりごめんね。お邪魔していいですか?』『ピアノ、私もちょっと弾いてみていいですか?』ぐらいの一言はあるべきですよね。
そんな言葉もなく、こちらの迷惑も考えられないなんて、親から本当に大事なことを教えてもらっていないからだったのではないでしょうか」
余談だが、メグミさんからすると、その子は純粋にピアノを弾きたかったというよりも、マウントを取りたかっただけなのではないかと感じていたそう。
「『子犬のワルツ』って、その年齢だとかなり難しい曲なんです。私が弾いていたのはもっと簡単な曲だったので、『自分はこんな難しい曲が弾けるんだ』っていうアピールで、完全にマウンティングだったように思います。……いま思い出しても不快ですね」
ナチュラルに身についた“上から目線”
タワマンの上層階という住環境も、何かしら影響しているのではないかとメグミさんは推し量る。「後で聞いたんですが、そのタワマンもご多分に漏れず、上層階は富裕層、下層階は一般市民といった感じで、階数の高低によってヒエラルキーがあったみたいなんです。上層階の住民の感覚からすれば、下町の一軒家なんて、タワマン下層階よりもさらにランクが下だと思われていたのかも。
そういう親たちの選民意識がそのまま子どもに受け継がれていて、自分たちが“上”だから礼を欠いた言動も許されるって、無意識で思っていたんじゃないでしょうか。あのときの女の子の行動と態度を見て、そう感じずにはいられませんでした」
“下界に住む下々の民”に対し、何から何まで許可を取る必要はない、好き勝手振る舞ってもかまわない──ということか。
「確かにあの年齢にしてはピアノ上手だったと思いますよ。
きらびやかなタワマンの高層階から見下ろしているのは、夜景だけではないのかもしれない。
ナチュラルに身についた“上から目線”は、子どもたちの振る舞いにもそのまま表れてしまうのか。とはいえ、いきなり現れ、勝手に見下された側からしたら、たまったものではないだろう。
<取材・文=森田浩明/A4studio>
【森田浩明】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。
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