「ハンドルを握るのが、こんなに怖いことだったとは――」。長距離ドライブ中、突然背後にぴたりとついてくる車。
クラクション、パッシング、執拗な車間距離――そんな“あおり運転”の被害は、ニュースの中だけの話ではありません。
警察庁が実施したアンケートによれば、回答した運転者の35%、3人に1人が過去1年間にあおり運転の被害経験ありと答えています(出典:政府広報オンライン)。「自分には関係ない」と言える話ではなくなっているのが、今のドライブ事情なのかもしれません。

黒塗りのアルファードにあおり運転された男性が「極限状態で思い...の画像はこちら >>
今回は、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードから、運転免許を取得して間もない若手ドライバーが、夜の県道で黒塗りアルファードに執拗にあおられたケースを振り返ります。片側一車線の逃げ場のない状況で、彼が“極限状態で思いついた”対抗策とは――。

さらに記事の後半では、2020年に創設された“妨害運転罪”の罰則の重さと、加害者が失うことになる“意外なほど大きな代償”についても紹介します。

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片側一車線、背後に迫る黒塗りの影

 免許取得から間もない西田さん(仮名・25歳)が、休日に隣町までドライブしていたところ、片側一車線の県道で黒塗りのアルファードに執拗にあおられるという恐怖に遭遇。しかし、愛車のドラレコの緊急通報ボタンが彼を間一髪から救ってくれたそうです。

 西田さんは運転初心者。休日に一人でのんびりと隣町までドライブするのが楽しみだったそうです。そんな中、ある夜に街灯の少ない県道を制限速度で走行中、バックミラーに煌々と光るヘッドライトが映り込んだといいます。

「最初は普通の車だと思ったんです。でも、だんだん光が大きくなって、後ろにピッタリくっついてきたんです。
たぶん車種は黒塗りのアルファードだったと推測します」と西田さん。恐怖に怯えながらも、ハンドルをしっかり握り、制限速度を守って走り続けました。

 後ろの黒塗りアルファードは、徐々に距離を詰め、まるで追い詰めるように走行。「このままじゃ、ぶつけられるかもしれない…」と西田さんは恐怖でいっぱいでした。

なぜ自分が狙われたのか?

 走行中、西田さんは「もしかして、コンビニを出るときに何かやったのか…?」と、後続車の怒りの原因を必死に思い出そうとします。

「駐車の仕方が悪かったかな…とか、そんな小さなことを考えました。頭の中は混乱状態でした」と西田さん。

 しかし、冷静に状況を判断しても、片側一車線の道路では追い越しも難しく、回避行動を取る余地はほとんどありませんでした。前方に止まる車もなく、逃げ場のない恐怖の時間が続いたといいます。

「心の中では『どうか抜いてくれ…』と祈るばかりでした」と西田さん。後続車は一向にスピードを緩める気配を見せず、まさに追い詰められた状態だったそうです。

ドラレコの緊急通報ボタンが救世主

黒塗りのアルファードにあおり運転された男性が「極限状態で思いついた」対抗策。「相手は検挙されたそうです」/運転者の3人に1人が経験、“逃げ場のない15分間”を生き延びた一手
※画像は生成AIによるイメージです
 そんな中、西田さんの目に飛び込んできたのは、愛車のドラレコに付いている“緊急通報ボタン”。

「正直、うろ覚えだったんですが、加入していた自動車保険のサービスで、緊急時に何とかしてくれるというのを思い出しました」と西田さん。震える左手でボタンを押すと、車内の音声ガイドが作動し、すぐに状況が保険会社に伝わったとのことです。


「本当にその瞬間、『助かった…』と思いました。正直、田んぼに突っ込んでしまおうかとまで考えていましたから」と西田さん。恐怖と緊張で体が硬直する中、緊急通報の作動は精神的な支えとなりました。

15分後、黒塗りアルファードはミラーから消えた

 その後約15分間、緊張のドライブが続きましたが、バックミラーに変化が現れます。黒塗りのアルファードが徐々に減速し、どんどん遠ざかっていったのです。

「遠ざかっていくのを見たときは、本当にほっとしました」と西田さん。しかも同時に、赤色灯のような光も見え、どうやら警察が現場に向かってくれたことが分かったそうです。

 翌日、保険会社から連絡が入りました。「ドラレコの緊急通報ボタンを押したことで、警察に通報され、相手は検挙された」とのこと。西田さんは、必要であれば最寄りの警察署に出向き、被害届を提出してほしいと案内されたそうです。

「毎月の保険料は少し高かったのですが、加入していて本当に良かったと思いました」と西田さん。思わぬあおり運転被害に遭遇しましたが、迅速な対応とドラレコのおかげで安全に解決できたといいます。

若手ドライバーの恐怖と教訓

 西田さんは今回の経験を振り返り、「運転歴が浅いと、こういう状況に遭遇したとき本当に冷静になれない」と語ります。

「後続車の動きが怖くて、とにかく無事に走り切ることだけを考えていました。
ドライブが楽しいものから、恐怖体験に変わった瞬間でした」と西田さん。

 しかし、ドラレコと緊急通報ボタンがあったことで、最悪の事態を避けることができたと強調します。「こうしたサービスは、若手ドライバーには心強い味方だと思います」と笑顔で話してくれました。

 今回の件は、あおり運転がもたらす危険と、テクノロジーの力による状況回避の両面を示すエピソードとなりました。西田さんは、「今後は、同じような危険に遭遇したら、ためらわずにドラレコを使おうと思います」と語っています。

 片側一車線での恐怖の15分間。若手ドライバーが経験したスリルと、緊急通報システムの威力。西田さんの体験は、現代ドライブの教訓として多くのドライバーに参考になることでしょう。

<TEXT/八木正規>

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■加害者が失うもの——「妨害運転罪」という重さ

今回のエピソード、西田さんを煽った黒塗りのアルファードは、後日、検挙されたという。

2020年6月、改正道路交通法によって新設された「妨害運転罪」は、それまで明確な罰則がなかったあおり運転に、はっきりとした刑罰を与えた。通行を妨害する目的で危険な運転をした場合、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。さらに、著しい交通の危険を生じさせた場合は5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金へと跳ね上がる。

そして、それ以上に重いのが行政処分のほうかもしれない。
違反点数は一発で25点(重大ケースは35点)。これは免許取消に直結する数字で、しかも欠格期間は2年(重大ケースは3年)。つまり、その間は免許を取り直すこともできない。

黒塗りのアルファードにあおり運転された男性が「極限状態で思いついた」対抗策。「相手は検挙されたそうです」/運転者の3人に1人が経験、“逃げ場のない15分間”を生き延びた一手
※政府広報オンラインより
通勤、営業、配送、引っ越し、家族の送り迎え――車が前提になっている生活を送っている人にとって、2年間ハンドルを握れない代償は、罰金や拘禁刑の数字以上に大きい。一瞬の苛立ちで追い越し車線に出て、後ろからベタ付けする。たったそれだけで、その後の人生設計が大きく狂う可能性がある。

ハンドルを握ったときに失うかもしれないものは、思っているよりずっと重い。

■それでも、ハンドルを握る人へ

西田さんが恐怖の15分間を耐え抜けたのは、運がよかったからでも、運転技術が優れていたからでもなく、冷静に、制限速度を守って走り続けたからでした。もし似た状況に遭遇したら――サービスエリアや人目のある駐車場へ避難し、車内で110番通報、ドアはロックして車外には出ない。警察庁が示しているのは、そんなシンプルな手順です。

怒りや恐怖でハンドルを握る手に力が入る瞬間こそ、深呼吸ひとつ。それが、自分と、後ろの誰かの人生を守る、いちばん確かな対抗策なのかもしれません。


(出典:政府広報オンライン「あおり運転は『妨害運転罪』として厳罰化されています」)

<再構成/日刊SPA!編集部>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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