1998年6月5日、FIFAワールドカップの本大会直前でメンバー外となったカズこと三浦知良が残した当時の有名なコメントだ。
28年が経過した今大会でも、直前でキャプテンの遠藤航がメンバーから外れる事態に見舞われた。
指揮官が総動員するレジェンドたち
試合終了も迫る後半43分、コーナーキックに小川航基が頭で合わせて同点へと追いついた。軌道上で鎌田大地に当たって公式記録は鎌田の得点になったものの、小川のヘディングシュートは、遠藤、南野拓実、三笘薫ら、そしてこれまで日本代表を支えてきた吉田麻也、カズなどといったレジェンドたちも小川の背後から後押しをしていたように見えた。ある意味で日本に根づいている友情・努力・勝利を体現したかのような熱いゴールだった。森保一監督は今大会に臨むにあたり、日本サッカー界が積み上げてきたものを総動員しようと試みている。南野や吉田の帯同もその一環だし、直前で中村俊輔をコーチに就任させたことも同義である。これまで経験したすべての事象を糧として、優勝を目指している。明確な方針が存在するからこそ、遠藤の離脱という想定外の出来事を突破力へと昇華させることができたに違いない。
激闘のオランダ戦で見えた収穫は?
実際の試合内容を振り返っても、両チームが持ち味を発揮したハイレベルな攻防が展開された。オランダの先制点となったフィルジル・ファン・ダイクの打点の高い一撃は、ファウルの成否を巡る議論はあるものの、相手の死角を突いてスペースを生み出す名手ならでは。対する日本の1点目となった中村敬斗の股抜きシュートも同様で、自身の得意パターンを大舞台で完璧に再現してみせた。オランダの2点目こそ日本の守備組織をこじ開けられた形だが、相手の戦術が結実した結果にほかならない。それでも日本の2点目は、囮の動きやブロック、的確なフィニッシュと、組織の連動が呼び込んだ見事な崩しによる得点といえる。全体の流れを踏まえると、逃げ切りに失敗したオランダに対して、日本は土壇場で相手の思惑を打破した「勝ちに等しい引き分け」の印象を色濃く残す。インタビューで勝利と言い間違えるほど歓喜に浸る選手が見受けられた点には一抹の不安を覚えるとはいえ、「悔しさが残る」「最低限の成果」という冷静な自己評価も聞かれた。次戦に向けて手綱を締め直す姿勢からは、チームに備わる成熟度が伝わる。
「チュニジア新監督」ルナール氏とは
初戦で貴重な勝ち点1を確保した日本は、日本時間21日13:00(現地時間20日)にチュニジア代表との第2戦を迎える。対戦相手のチュニジアは初戦のスウェーデン戦で1ー5と大敗を喫し、本大会中という異例のタイミングでサブリ・ラムシ監督を解任した。日本側からすれば相手の出方が読めず、より難しい局面になったといえる。指揮官交代による一時的なチームの活性化を危惧する声も上がるが、過度な心配は不要とみている。新たに就任したのは、2026年4月までサウジアラビア代表を指揮していたエルヴェ・ルナール監督。2022年大会でアルゼンチンを撃破した「白シャツの魔術師」の招聘に警戒感を強める意見も散見される。しかし、いかに優れた名将といえど、1週間足らずの準備期間で、新しい戦術を浸透させるのは不可能に近い。現にルナール監督は、代表の誇りを選手たちの魂に訴えかけ、巻き返しへの檄を飛ばすアプローチに終始している模様だ。
ただ、組織が良い状態だった頃の記憶を呼び覚ます手法は有効に働く。チュニジアにとっての成功体験とは、堅守を誇った予選の戦い方だ。
日本と引き分けた際の戦術を使うのか
具体的な構造を予測すると、基本布陣には使い慣れた4バックの採用が有力視される。安定していた予選期のシステムであり、ルナール監督の趣向とも重なるためだ。一方で中盤から前線の構成は流動的で、4ー2ー3ー1や4ー4ー2など柔軟に形を変える特徴を備える。注目すべきは、ルナール監督が過去に見せた対日本シフトの再現性だ。2025年3月25日に対戦して0ー0で引き分けたサウジアラビア戦を振り返る。当時のサウジアラビアは4ー4ー2を基本としながらも、守備局面では前線の一枚をスライドさせ、右MFを最終ラインに下げて5ー4ー1の可変システムを構築した。今回も右サイドの守備タスクを増やし、実質的な5バックでスペースを消してくる狙いが透ける。右サイド側にユーティリティ性の高い人材が揃う事情に加え、チュニジアの司令塔である10番ハンニバル・メイブリが中央や左寄りに位置する関係上、右側に防波堤を築く計算は理にかなう。
攻撃の局面では、やはり高精度のキックを備えるハンニバルがタクトを振る。彼を起点にサイドの広大なスペースへ素早く展開し、鋭いクロスからゴールを強襲するのがチュニジアの黄金パターンだ。サイドバックが高い位置を取る日本の背後を突くため、従来の手法をさらに研ぎ澄ましてスピード重視の奇襲を狙うに違いない。
もっとも、これらは不確定要素を孕む推測に過ぎず、最終的な最適解はピッチ上でしか判明しない。決勝トーナメント進出に向けて勝利が絶対条件のチュニジアが、リスクを排除した徹底的な専守防衛に舵を切る選択肢も十分に考えられる。事前のスカウティングが無効化される以上、日本に求められる要素は高度な現場対応力だ。相手のボールの集約先や狙い所、守備の綻びをピッチ内で迅速に見極める眼が試される。不透明な状況下でキックオフを迎えるため、臨機応変なゲームコントロールと素早い意思統一が不可欠となる。2026年大会から導入されたハイドレーションブレイクも有効に活用し、抜かりのない調整を期待したい。
日本代表にとっての懸念材料は?
一方で、揺るぎない事実も存在する。指揮官の交代によって選手の個の技術が突如として向上する現象は起きない。初戦の大敗時に比べて攻守の切り替え(トランジション)の鋭さや組織の連動性が高まる可能性はあるものの、根本的なスピード不足や連携の粗さは急には隠せない。特に後方からのビルドアップにおける技術的ミスや、パスの過程でボールウォッチャーになる悪癖は顕著だ。一歩間違えれば致命傷になりかねないハンニバルにボールが渡る前に、前線からのハイプレスをハメにいく戦略は極めて有効と言える。日本代表にとっての懸念材料は、ケガだ。
オランダ戦は勇気や忍耐力が試された試合だったが、チュニジア戦では臨機応変にチームの意思を統一できるかが肝。団結力が試される試合になりそうだ。
<TEXT/川原宏樹>
【川原宏樹】
スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる
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