完全復活した「投手・大谷翔平」
打者・大谷翔平(ドジャース)については、OPS.952でも「期待ほど伸びなかった」と辛口に評価した。だが、投手・大谷は全くの別物だった。14試合に先発して8勝2敗、防御率1.79。85回2/3で95三振を奪い、WHIPは0.95だった。右肘手術から復帰した昨季は短いイニングから慎重に登板を重ねたが、今季は開幕からローテーションの一角を担った。
最初の10先発は61回で自責点わずか5、防御率0.74。復帰できるかどうかを心配する段階は終わり、リーグを代表する先発投手として、再び打者を圧倒していた。
しかも、打者としてもほぼ毎日出場している。二刀流へ戻るだけでも難しいはずなのに、投手として8勝、防御率1点台。期待以上という言葉でも足りないほどだった。
もっとも、前半戦の最後まで同じ勢いが続いたわけではない。
最後の4先発は24回2/3で12自責点。
大谷にとって後半戦は、この“バッテリー問題”が焦点となる。誰が捕手を務めるにせよ、春先のテンポを取り戻して再び上昇気流に乗りたいところだろう。
エースの貫禄を見せつける山本由伸
大谷とは違う形でドジャース先発陣を支えたのが山本由伸だった。17試合に先発して9勝6敗、防御率2.85。110回2/3で106三振を奪い、WHIPは0.91だった。前半戦最後の登板こそ6失点を喫したが、それまでの安定感が一度の炎上で消えるわけではない。
圧巻だったのは、現地時間6月13日(以下同)のホワイトソックス戦だ。8回2死まで一人の走者も許さず、完全試合まであと4人。失策で完全試合は消えたものの、9回先頭に本塁打を浴びるまで無安打投球を続けた。
山本の強みは派手な快投だけではない。球速だけに頼らず、制球と球種の組み合わせで狙いを外す。
前半戦終了時点ではサイ・ヤング賞争いの中心からやや後退した。それでも後半戦に防御率を2点台前半まで戻せれば、再び有力候補へ浮上する余地はある。
前半戦の9勝は、昨季記録した自己最多12勝まであと3勝。自己最多更新に加え、賞レースへどこまで戻れるかも見どころとなる。
佐々木朗希は才能を証明も、不安定さが最後まで課題…
チームメートの佐々木朗希の前半戦は、山本とは正反対だった。良い時は派手でも、悪い時に踏みとどまれない。春先は制球が定まらなかったが、5月以降は長いイニングを投げる試合が増えた。一時は、ようやくメジャーのマウンドに慣れてきたようにも見えた。
上昇局面の頂点が6月5日のエンゼルス戦だった。7回2安打無失点、自己最多10奪三振。直球も100マイル前後を繰り返し計測し、本来の投球を披露した。
だが、その状態は続かなかった。
前半戦は16試合に先発して3勝5敗、防御率5.33。球威は通用しても、ストライクゾーン内で勝負できなければ、その強みも生きない。
必要なのは最高の球を増やすことではない。調子が悪い日でも四球を抑え、5回、6回まで試合を壊さずに運ぶことだ。好投時の天井より、不調時の床を引き上げられるか。後半戦はそこに尽きる。
今井達也は奪三振能力を発揮も…四球の多さが誤算に
今季唯一の日本人新人投手となった今井達也(アストロズ)も、苦しい前半戦を過ごした。13試合に先発して5勝4敗、防御率6.06。52回で63三振を奪った一方、33四球。9回当たりの与四球は5.71に達した。三振を奪う球は通用したが、その前に自ら走者を出した。
右腕の疲労で負傷者リスト入りした後には好投も見せたが、次の登板へつながらなかった。良い日の今井は十分通用する。悪い日の今井が、先発として計算しにくいのである。
3年総額5400万ドル(約85億円)で迎えられた即戦力だ。後半戦は三振を増やすより、四球を減らし、安定して6回まで投げる試合を増やす必要がある。
菅野智之は打者有利の本拠地で奮闘
一方、数字だけでは評価しにくい前半戦を送ったのが菅野智之(ロッキーズ)だった。腰のけいれんで前半戦の最後に負傷者リストへ入ったものの、16試合に先発して8勝4敗、防御率4.80。84回1/3で23四球と、制球を乱すことなく試合をつくった。
本拠地クアーズフィールドは、標高の影響もあって打者有利とされる。そうした環境を本拠地とするチームで前半戦8勝を挙げた価値は、防御率だけでは測り切れない。
球速で押し切らず、コースと緩急で打者の狙いを外す。力で勝負できないのではない。力だけで勝負しないから、メジャーでも生き残れている。
前半戦終盤には崩れる試合もあったが、2桁勝利は射程圏内だ。腰の状態が戻れば、後半戦もベテランらしく勝ち星を積み重ねるだろう。
日本人投手5人の現在地と後半戦の注目ポイント
主な日本人投手の前半戦は、期待との距離がくっきり分かれた。大谷は先発投手としての完全復活を示し、山本はエース級の安定感を見せた。佐々木は才能と危うさを同時にさらけ出し、今井は球威を結果へつなげられなかった。菅野は、打者有利の環境でも経験が武器になることを証明した。
前半戦の最優秀投手を選ぶなら、大谷か山本か。山本の安定感も捨て難いが、防御率は大谷が1.79、山本が2.85。1点以上の差を無視するわけにはいかず、今回は大谷に軍配を上げたい。
ただし、後半戦の注目は大谷一人ではない。
山本は自己最多勝利を更新し、サイ・ヤング賞争いへ戻れるのか。佐々木と今井は、不調時にも試合を壊さない投球を身に付けられるのか。
期待を超えた投手もいれば、宿題を抱えた投手もいる。その答えを出す後半戦は、もう始まっている。
文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。
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