しかし、正しい食べ方まで浸透しているとは限らない。日本人からすると思いもよらない“トンデモない食べ方”をする人も多いという。
一体、どんな食べ方をするのか。箸などのマナーはどうなのか。パリで人気の日本食チェーン・じんちゃん食堂、じんちゃん横丁(Instagram:@jinchanizakaya)を経営する、カカス・ミヨさんに話を聞いた。
「醤油を入れたら、全部おいしくなると思ってる」衝撃的な食べ方
カカスさん(以下、同):醤油が好きすぎて、なんでもかけてしまうことですね。「醤油を入れたら全部おいしくなる」と信じていて、スタッフに「醤油ください」と頼む方が多いんです。
とんかつソースがかかっているカツ丼にもかけるし、味噌汁にも醤油を入れます。たまにスタッフが止めに入るレベルですね。
あと、日本は箸で人を指さない、箸をご飯に刺さないといったマナーが浸透していますよね。フランスでは料理を待っている間に、箸でコップを叩いてドラムみたいに鳴らす方もいます。
――そもそも、フランス人は箸を使えるのですか?
箸そのものは頑張って使ってくれます。「スプーンいりますか?」と聞いても、「いらない」と。ここは日本人ならスプーンを使うよね、と思うシーンでも、お米一粒ずつ、意地でも箸で食べようとします。
もちろん、中には箸を使わない方もいます。ただ、「口で噛みついてから皿に戻す」という習慣がないので、丼ものでも、フォークとナイフを使って、カツや唐揚げをドンブリの上で小さく切ろうとしていますね。
ちなみに、手で持ってかぶりつく習慣もないので、どら焼きはスプーンを使って、クレープのように食べています。
――他にもフランス人の反応で、ショックを受けたことはありましたか。
味噌汁とご飯を一緒に出されるのを、嫌がられることです。フランス料理は前菜・メイン・デザートの順番なので、彼らとしては、味噌汁をまず「アントレ(前菜のスープ)」として先に出してほしいんだとか。
7年前のオープン当初は、現地の中華系オーナーが経営する日本食風レストランで「味噌汁は前菜として最初に出てくるもの」と覚えてしまったフランス人が多かったんです。
あの時は「日本ではメインと一緒に飲むものだから」と説明しても難色を示されて、苦労しました。今では本格的な日本食レストランが増えてきたこともあって、理解されつつあります。
「週5でサーモン丼、10人同じものを頼む」好きなメニューは徹底的に食す
チキンカツ丼を食べて美味しかったからと、食後に追加でもう一杯頼んだ方がいました。わりとボリュームがあるのに、です。
他にも、唐揚げ丼と単品の唐揚げを頼んだり、サーモン丼と一緒にサーモンの刺身を頼んだり。好きなものを徹底的に楽しむ方が多いですね。
常連さんも、毎回同じものしか頼みません。コロナ禍のロックダウン中にUber Eatsの注文履歴を見たら、あるお客さんが週5でサーモン丼を頼んでいて、利用回数が何百回にもなっていました(笑)。
――さすがに、団体のお客さんの注文の仕方は……。
同じです。10人くらいのグループで、いつも全員「サーモン味噌焼き丼」を注文する常連さんがいます。フランスには、料理をシェアする文化がないんです。自分が好きなメニューがあったら、とことんそれだけを頼むスタイル。
食後のデザートでも、文化の違いを感じます。
お酒の頼み方は豪快ですね。日本では日本酒といえばとっくりやグラスで少しずつ飲みますが、フランス人はワインと同じ感覚。だから、3~4人のグループで頼むなら、ボトルなんです。
夜の22時半でも、ガッツリ丼ものを食べながら、日本酒をボトルで楽しむ方たちがわりといます。あんまり酔っぱらわないから、お酒が強いな、と思いますね(笑)
「定食は不評」自分で好きなおかずを選びたいフランス人
豆腐はあんまり人気がないですね。味噌の味が好きなので「豆腐田楽」にすると食べてくれるのですが、豆腐そのものは、味がしないと思われているんです。
あと、魚の皮は食べてもらえません。焼き魚を出しても、綺麗に皮だけ残ります。ただ、鮭の皮を揚げたチップスは「意外とおいしい」と、食べてくれるんですよ。また、不評だったのは「定食」ですね。
――日本食といえば定食なのに、不評なのですね。
私も、もともと日本の「定食屋」をやりたくて、最初は唐揚げ定食などをメインに出していたんです。でも、「味噌汁はいらないから安くして」「副菜が嫌いな野菜だから、違うのに変えて」という注文が多くて、なかなか大変でした。
フランス人は社食でも自分で好きなおかずを選ぶ文化なので、個人の好みがはっきりしているんです。
だから、思い切ってご飯の上にカツや唐揚げを乗せるだけのシンプルなスタイルにしました。味噌汁も、欲しい人だけが別に頼めるように変更しています。
多様な食文化が共存するパリならではの「ムスリム・ベジタリアン対応」
チキン南蛮ですね。卵とマヨネーズと醤油の組み合わせが、彼らにとっては衝撃的だったみたいです。
スイーツだとわらび餅や、きな粉・黒糖のアイスです。フランスにはモチモチした食感の食べ物がないので、初めて食べたときは感動されますし、きな粉や黒糖も「知ってるアイスが、こんな味があるんだ!」と、新鮮みたいです。
――パリで日本食を提供する難しさを感じることはありますか。
パリは人口の約15%がムスリム(イスラム教徒)と言われていて、宗教上の理由で豚肉を食べられない方がかなり多い。
あと、ベジタリアン対応。これが、なかなか難しいんです。じんちゃん横丁ではうどんを提供しているのですが、たとえ肉や魚が乗っていなくても、出汁にかつお節が使われているとダメなんです。
でも、ベジタリアンのメニューが少ないと、グループの中に1人でもいると「食べるものがないから、他のお店に行こう」となってしまう。だから、丼もので1種類、居酒屋メニューでもいくつか肉や魚を使わないメニューを用意しています。
フランス人の好みに合わせる一方で、「日本に実在するメニューかどうか」という境界線は大切にしています。
以前、カレーにモンドールチーズをトッピングした「モンドールカレー」を出したところ、フランス人の記者から「オーセンティック(本格的)じゃない」と批判されてしまったんです。
たしかに、フュージョン(創作和食)なら、日本人がやる必要はない。他の国の人でも作れますよね。日本人として、きちんと“じんちゃん”らしさを守っていかなくては、と思っています。
日本の味を一方的に押しつけるでもなく、現地向けに原型をなくすでもない。日本の食文化を丁寧に伝え、本物の味を届けながら、パリの人々の選び方にも耳を傾け、日本食を“特別な異国料理”から“繰り返し食べたくなる日常の一食”へ、変えていきたいです。
* * *
取材時のじんちゃん食堂は、フランス人の常連客で賑わっていた。パリの日系レストランは日本人客が多くなりがちなのに、である。
現地のフランス人の友人から「本格的な店だったか教えて。それなら行きたい」と言われた。トンデモない食べ方をしつつも、実は“本物の日本食”を求めているフランス人たち。彼らに愛されるこの店をきっかけに、少しずつ変わっていくのかもしれない。
<取材・文/綾部まと>
【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother
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