「ポストシーズンでは先発させられない――」
 ファンからそんな辛辣な声も出ていたカブスの今永昇太が、マウンド上でひとつの答えを示した。

 現地9月16日(日本時間17日)のブレーブス戦。
今永は6回を4安打1失点、8奪三振、無四球に抑え、今季11勝目を飾った。

 試合前の時点で今季両リーグワーストタイの34本塁打を浴びていた今永は、8月30日のレッズ戦では5回6失点、3被弾。その直後に現地ファンからは、「今永は大好きだが、ポストシーズンでは先発させられない」といった声まで上がっていた。

今永が好投で不安の声を一蹴

今永昇太「6回1失点」快投の陰で…9月打率.157・得点圏....の画像はこちら >>
 ファンが不安を抱くのには、昨秋の記憶もある。2025年の地区シリーズ第5戦で、カブスは今永ではなくブルペンゲームを選択。負ければシーズン終了という大一番で、日本人左腕は最後までマウンドに上がることがなかった。

 そして今季も、ポストシーズンでの先発が安泰とはいえない。ブレーブス戦前日には、カブス専門サイト『Bleed Cubbie Blue』が「(ポストシーズンの)3人目の先発を誰に任せるか」をテーマに取り上げ、今永も候補の一人として比較されていた。

 その今永は6回1失点の好投でこれに回答。この日は懸案の一発も許さず、試合後には「今永の先発は大歓迎」「今永を嫌いになんてなれない」と、一転して好意的な声も上がった。

 たった1試合ですべての不安が消えるわけではないが、それでも自らの投球で空気を変えたことは間違いないだろう。

本拠地に響いた「M-V-Pete!」の大合唱

 ただ、この試合の主役は今永だけではなかった。むしろ本拠地リグレー・フィールドを最も沸かせたのは、24歳のピート・クロウ=アームストロング(以下PCA)である。

 3回の43号でビリー・ウィリアムズを抜き、カブスの左打者によるシーズン最多本塁打記録を更新すると、7回には44号を右中間へ放った。
24歳以下の選手として、1955年のアーニー・バンクスが持つ球団記録にも並んだ。

 この日は三塁打を加えた3安打3打点の活躍。スタンドからは「M-V-Pete!」の大合唱が起き、クレイグ・カウンセル監督も、「ファンが将来、子や孫に語り継ぐようなシーズンになる」と称えたほどだ。

 PCAは9月だけでも6本塁打。いまやシカゴの称賛を一身に集めているのが、この男であることは説明不要だろう。

8月は再契約を望む声も…9月に入って急失速した鈴木誠也

 だが、ほんの1か月前にはもう一人の主軸、鈴木誠也にも熱い視線が注がれていた。

 鈴木は8月に月間打率.303、6本塁打、20打点をマーク。月末には24号も放ち、現地ファンからは再契約を望む声も上がり、「PCAとともに打線を引っ張る存在」として大きな期待をかけられていた。

 ところが9月に入ると鈴木のバットが急に鈍くなる。本塁打はいまだゼロで、16日のブレーブス戦も4打数無安打。月間打率は.157、打点もわずか1にとどまる。四球は選べており、出塁まで完全に止まったわけではない。それでも、8月の頃とは景色が随分変わってしまった。


得点圏打率はわずか.071、鈴木からPCAへ移ったファンの視線

 特に走者を置いた場面の数字を見ると、8月との落差は鮮明だ。

 9月は走者ありの場面で打率.143と低調。得点圏に限れば、打率はわずか.071だ。8月はいずれも3割3分を超えていたが、一本が必要な場面で、それがなかなか出ていない。

 ブレーブス戦後は、歴史的な夜を演じたPCAと、好投した今永への称賛が目立った。鈴木に対して批判が噴き出しているわけではない。8月には主軸の一人として注目を集めていたが、少なくともこの夜、ファンの熱気はPCAに集中していた。

鈴木誠也の復調が欠かせない理由

 もちろん、話題の中心から外れたからといって、鈴木の重要性まで薄れたわけではない。むしろ逆だろう。

 カブスはポストシーズン進出へ優位な位置につけている。それでも、まだ出場権は確定していない。まずは残り試合を勝ち抜き、その先の10月へ進む必要がある。ここから先は一つの長打、一度の好機が試合の流れだけでなく、シーズンそのものを左右しかねない。


 今季44本塁打まで伸ばしたPCAの後ろを打つ鈴木が、本来の打撃を取り戻せば打線の怖さはもう一段増すだろう。PCAへの警戒が日に日に強まる今だからこそ、その後ろを任される鈴木の復調が持つ意味も大きくなっている。

 カブスが残りのレギュラーシーズンを勝ち抜き、その先の10月を1日でも長く戦うには、PCAだけに頼るわけにはいかない。鈴木が8月までの打棒を取り戻せるか。そして今永が、この日のような投球を続けられるか。日本人2人の出番は、むしろここからかもしれない。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。

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