―[今野忍の政治裏読みガイド 永田町[壁耳]ノート]―

朝日新聞政治部記者として、菅義偉元首相や岸田文雄元首相の”番”を担当してきた今野忍氏が、永田町の裏側に迫る。今回は、2023年秋頃から浮上し、政界を揺るがす金銭スキャンダルに発展した”裏金問題”、9月の内閣改造で入閣した”裏金議員”に隠された意図を読み解く。

9月改造人事で唯一の「初めて」”裏金大臣”誕生

第2次改造内閣で”裏金大臣”誕生。元朝日新聞記者が裏金問題の...の画像はこちら >>
9月の内閣改造で、ひとつ「初めて」があった。簗和生農水相、関芳弘文科相の2人はいわゆる「裏金議員」。事件が発覚してから裏金議員が大臣になるのは初めてだ。

高市総理の説明は「2回の衆院選を通じて国政に送り出していただいた」。要するに「禊は済んだ」と。でも世論調査じゃ7割が反対だ。

そもそも裏金事件って何だったのか。自民党には派閥という社内サークルみたいなものがある。派閥は年に1回、パーティを開く。パー券は一人2万円が相場。議員はそれをノルマつきで売らされる。

ここからがミソ。ノルマより多く売った分は、サークルが議員にこっそり現金で「ご褒美」と戻していた。
キックバックだ。その現金を「派閥からの寄付」として帳簿に書いていれば違法ではなかった。ところが、政治資金収支報告書に書かなかった。載っていないから自由に使える。だから「裏金」なのだ。

‘23年、私は朝日新聞の政治部で、自民党担当のサブキャップをやっていた。秋頃、派閥パーティ収入の記載漏れがちらほら報じられ始めて、私は周りに「これ、リクルート事件並みになるよ」と言っていた。でも、反応は鈍かった。

同年12月、私はほぼ毎日、岸田文雄総理に電話を入れていた。官房長官も政調会長も安倍派(清和会)。その「5人衆」を一気に切って政権は持つのか。ある日、総理は電話口でこう言った。


「国民の政治不信と怒りがすさまじい。やるなら一気にやるしかない。このままでは政権がもたない」

この「一気に」で、私は一斉更迭を確信してデスクに電話した。そして12月19日。東京地検特捜部が安倍派の事務所に乗り込んだ。

自民党の調査で、帳簿に書いていなかった議員は85人にのぼった(先に立件されて離党した3人は別)。検察が立件したのは12人で、うち議員は4人。残りは秘書や会計担当だ。

不記載額3000万円あたりが目安とされ、それより少ない議員は不起訴。党の処分は39人。残る46人は、お咎めなしだったが、’24年の衆院選では46人が立候補し、12人が非公認、28人が落選した。

安倍元首相亡きあとに「4人」が集まってキックバック復活

私は「禊にはグラデーションがある」と思っている。
額だけじゃない。事情もバラバラだからだ。某ベテラン議員は帳簿にちゃんと書いていたのに、派閥の事務局に「あなただけ書かれたら困る」と止められた。今回入閣した関さんに至っては、安倍さんに「キックバックはやめるべき」と訴えた側でもある。

じゃあ、この仕組みを考えたのは誰か。私もさんざん調べた。’00年代の初めには始まっていて、少なくとも森派の時代にはあったようだ。岸田総理(当時)は森喜朗元総理に電話で確かめたが、結局わからずじまい。そのあとの会長、町村信孝、細田博之、安倍晋三の3氏は、3代続けて亡くなっている。真相はもう闇の中だ。

転機は’22年4月。総理を辞めて派閥の会長に戻った安倍さんが「今のやり方にいろいろ問題があるんじゃないか」と、キックバック廃止を決めた。
そこに集まった幹部は塩谷立、下村博文、西村康稔、世耕弘成の4氏。ところが7月、安倍さんが亡くなる。すると8月、派閥の元会計責任者によれば、同じ4人が集まって「還付やむなし」と再開が決まった(4人は否定している)。

だから私は、85人をひとまとめにしない。2回の選挙をくぐった議員は、少なくとも有権者が判断した。その意味で、私は「禊派」に近い。ただし、再開を決めた幹部たちには、ほかとはケタ違いの説明責任があると考えている。

最後に、政治記者としての見立てをひとつ。高市総理は今回、裏金議員を大臣に2人、副大臣と政務官に10人起用した。散り散りになりかけていた旧安倍派は、無派閥で党内に基盤のない高市さんにとって来年の総裁選の「高市票」になりうる。禊人事は「恩を売る人事」にもなっている。

第2次改造内閣で”裏金大臣”誕生。元朝日新聞記者が裏金問題の実態と人事の意図を明かす
今野忍●1975年生まれ。アクセンチュアを経て、朝日新聞記者に。'09年に政治部配属となり、菅義偉や岸田文雄の番記者などを経験。’26年に独立
「壁耳」とは?
政治記者が稀に行う、壁に耳を押し当てて非公開の会議・会合の内容を探る取材手法。
「聴診器を使う先輩もいた」(今野氏)という

―[今野忍の政治裏読みガイド 永田町[壁耳]ノート]―

【今野忍】
1975年生まれ。アクセンチュアを経て、朝日新聞記者に。'09年に政治部配属となり、菅義偉氏や岸田文雄氏の番記者などを経験。’26年に独立
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