阪神の佐藤輝明が、いよいよメジャーリーグに挑戦する。10月19日、球団がポスティングシステムによる移籍を容認すると発表し、海の向こうでも争奪戦への関心が高まっている。

 今季は打率.306、39本塁打、106打点でセ・リーグ三冠王に輝いた佐藤。ヤンキースやフィリーズ、メッツなど複数球団が獲得候補に挙がるなか、佐藤に最も適した移籍先はどこなのだろうか。

三塁の補強事情と視察実績も…本命はフィリーズか

 一つの鍵となるのが守備位置だ。近年は三塁を主戦場としてきたが、外野での経験もある。メジャーでは一塁を含めた起用も考えられるだけに、各球団が佐藤をどう評価し、どんな役割を用意できるかが重要になる。
 まず、本命に推したいのがフィリーズだ。5月にはGMら5人が甲子園を訪れ、試合前の練習から佐藤を視察した。現地メディアでも有力候補としてたびたび名前が挙がっている。

 チーム事情も佐藤の獲得を後押ししそうだ。正三塁手のアレク・ボームは今季、打率.249、15本塁打、OPS.698にとどまり、今オフにはFAとなる。

 ただし、88打点を挙げるなど一定の貢献を見せており、残留の可能性もゼロではない。また、フィリーズが佐藤を三塁手として評価するかも不明だ。それでも、新たな三塁手として検討する余地はあるだろう。


 さらに、佐藤が大学時代に打撃を研究していたというブライス・ハーパーの存在も興味深い。現地では佐藤の獲得が日本市場での存在感を高めるとの見方もあり、球団にとっては戦力以外の魅力もありそうだ。

三塁の打撃力不足に悩むヤンキースが対抗?

 対抗は名門ヤンキースだ。

 こちらはフィリーズ以上に三塁手の打撃力不足が深刻。今季の三塁手全体の打率は.215、出塁率.271、長打率.358と低迷した。

 なかでも主力のライアン・マクマーンは打率.213、11本塁打、OPS.636と振るわず、三塁の攻撃力向上は課題の一つとなっている。

 現地メディアでは、佐藤を三塁の補強候補に挙げる記事が相次いでいる。本拠地ヤンキー・スタジアムも、左打ちの佐藤にとって魅力的な環境だろう。

 右翼ポールまでの距離は約96メートルで、甲子園の95メートルとほぼ同じ。しかし、右中間は甲子園の方が深く、引っ張った大飛球がニューヨークでは本塁打になる場面も考えられる。

 もっとも、球場との相性だけで活躍が約束されるわけではない。佐藤は今季39本塁打を放った一方、164三振も喫しており、メジャーの速球や変化球への対応は未知数だ。

 加えて、マクマーンには来季も1600万ドルの契約が残っている。
三塁の攻撃力改善は急務でも、佐藤を起用するには既存戦力との兼ね合いも生じる。

佐藤は過去に外野起用にも前向きな姿勢

 では、佐藤自身は守備位置にどこまでこだわっているのか。

 昨年は三塁守備の向上に力を注ぐ一方、外野を含めた複数ポジションへの対応にも前向きだった。外野の方が運動量は多いとしながらも、複数ポジションを守れることの重要性も認めている。

 三塁への思いは強くても、外野という選択肢を捨てているわけではない。

ロイヤルズは外野手として獲得を目指す可能性も

 そこで大穴として名前を挙げたいのが、ア・リーグ中地区のロイヤルズである。

 実はロイヤルズも、佐藤への関心を具体的な行動で示している球団の一つだ。8月にはGMら4人が来日し佐藤を視察。勝負どころでの打撃を高く評価したと報じられた。

 しかも、来季に向けた補強課題の一つが、中軸を任せられる外野手の獲得だ。三塁にはマイケル・ガルシアがいる一方、今季主にレフトを守ったアイザック・コリンズは打率.213、6本塁打、OPS.641と振るわず、佐藤が左翼の定位置を争う余地はありそうだ。

 ただし、チームの現状は厳しい。2024年には86勝を挙げてポストシーズンに進出し、2025年も勝ち越したが、今季は69勝93敗で地区最下位に転落した。

 救援陣の防御率は5.07でメジャー29位に沈み、投手陣の立て直しが急務となっている。
それでも、球界屈指の遊撃手ボビー・ウィットJr.を中心に、ジャック・カグリオーンら若い野手がそろい、再浮上を目指す土台は残されている。

 もちろん、資金力ではフィリーズやヤンキースに及ばず、投手補強にも費用がかかる。高額契約をめぐる争奪戦では不利になる可能性が高い。

村上宗隆の決断に見る「再建途上の球団を選ぶ魅力」

 ただ、佐藤が球団の知名度や現在の強さだけで移籍先を選ぶとは限らない。そこで参考になるのが、昨オフに村上宗隆がホワイトソックスを選んだ例である。

 村上が加入したのは、長く低迷していた再建途上のホワイトソックスだった。今季は35本塁打を放ち、チームもポストシーズン進出を果たしている。

 村上自身、入団時にはこれから勝てるチームになるという期待を語っていた。もちろん、村上と佐藤では打撃スタイルも守備適性も異なり、同じようなパフォーマンスを発揮できる保証はない。それでも、すでに優勝を争う強豪だけが移籍先の選択肢ではないことを、村上の決断は示している。

 ヤンキースやフィリーズでは毎年のように優勝が期待され、地元メディアの視線も厳しい。阪神で重圧を経験してきた佐藤でも、言葉も文化も異なるメジャー1年目から結果を求められる負担は小さくないだろう。


 一方、ロイヤルズなら若い主力とともに上を目指す立場になれる。こちらも結果を求められることに変わりはないが、チームが強くなる過程で中心選手を担うという魅力はあるはずだ。

 現時点では、視察実績と三塁の補強事情からフィリーズを本命に推す。ただ、佐藤が何を優先するかによって、答えは変わってくる。

 日本で三冠王に輝いた佐藤にとって、次の目標はメジャーで結果を残すこと。その第一歩となる球団選びで、どんな決断を下すのか注目したい。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。

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