落語家の林家たい平の長男、林家さく平が高座名を「咲太朗」と改め、21日から東京・上野の鈴本演芸場で行われる5月下席から二ツ目に昇進する。このほど、たい平と咲太朗が親子でスポーツ報知の取材に応じた。

 父親譲りの朗らかで柔らかい笑顔が印象的だ。2019年の入門から6年。昇進が決まったことを咲太朗は「全身がワーッと解放されるような気持ちです」と喜んだ。

 落語家になると決めたのは、「人を幸せにしている父の話芸にあこがれた」からだ。大学の卒業式の日、弟子入りを志願した。たい平にとっては「喜びよりも、彼がこれから歩む苦難の道を知っていることによる心配の方が勝った」と想定外の事態だった。「落語家に挑戦したい」と言った息子の言葉には厳しい言葉を返した。「挑戦じゃないだろう。命を懸けてる商売だから、大学生が『挑戦』と言ってぱっと始めるようなものじゃないぞ」

 それでも、親子は師弟にもなった。厳しい師弟の関係を優先し、親子の距離を測りあぐねていた時期もあったが、今は家に帰って「お疲れさまでした」と声をかければ親子に戻る。「お恥ずかしい話、落語家になるまで、落語は父のものしか聞いたことがなかったんです」とはにかむ咲太朗の隣で、「それはうそです。ベッドの下に(柳家)喬太郎のCDがあるのを見たことがありますから」とたい平は笑った。

 二ツ目となるにあたり、高座名を本名である「咲太朗」に改めた。師匠・たい平は「今まで28年間生きてきたものも背負いながら、自分の名前と一緒に生きていくほうがいいのではないか」という思いとともに、「林家一門に入ったからには、30秒に1回は笑わせなきゃという僕の芸風とは、咲太朗は目指すところが明らかに違うように感じている。あえて『平』の字をつけることはないかな」と自らの道を歩みはじめている弟子の背中を押した。

 咲太朗が挑戦したい噺(はなし)は「若旦那や二世が出てくるもの」という。8月の勉強会では二世の職人が奮闘する様を描いた「浜野矩随(はまののりゆき)」を演るつもりだ。

 二ツ目になったら決める出囃子(ばやし)に選んだのは「連獅子」。獅子の親子の情愛を描いた歌舞伎の演目のお囃子だ。「親獅子が子獅子に試練を与える姿が自分自身に重なりました。『連獅子』を見たら『あの二世落語家がいたな』と思い出すきっかけにもなってくださればありがたいです」

 同じ世界に入ったからには、父の存在がいや応なくついて回る。「二世として今は少しジタバタしてみようとも思っています」と咲太朗。それでも、咲太朗が自ら名乗る「二世」という言葉には前向きな響きがある。「僕がここまで育ったのは、この『落語』という仕事のおかげなんだと身を持って感じました。

師匠が家で洗濯をする姿も高座にあがる姿も見られるというのは成長するために良い環境だと思っています。見ている背中が軽いと多分どんどん軽い方に流れていっちゃうのかもしれませんが、師匠は第一線にいる。いい意味で比べられるのは分かっているので、追いつき追い越せで戦い方は常に考えています」。咲太朗は父の背中を見て、自分を知る。いつか、大きく咲くために。(瀬戸 花音)

 ◆林家 咲太朗(はやしや・さくたろう)1997年1月5日、東京都中野区生まれ。28歳。本名は田鹿咲太朗(たじか・さくたろう)。19年、立教大学法学部卒業。同年、林家たい平に入門。20年9月、前座に。25年5月下席から二ツ目。

大学時代はアカペラサークルに所属。

編集部おすすめ