◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 5月31日の巨人戦(バンテリンD)。お立ち台に上ったのは中日・板山祐太郎だった。

8回に代打で勝ち越しの2点三塁打を放った。「息子が運動会のリレーで1位になったと聞いたので、負けないように頑張った」。勝負師からパパの顔に変わった。

 プロ10年目。5歳の長男と1歳の長女がいる。授業参観や運動会に足を運べたのは1度だけ。一緒に過ごせる時間は少ない。「他の子みたいに、夏休みに遊びに行ったりできなくて…」。罪悪感を消してくれたのは息子だった。

 「幼稚園で『昨日、パパ打ったんだ』って話してるみたいで。そういうのを聞くとうれしい」。球場の観客席にはぶかぶかの帽子をかぶり、タオルを掲げて応援歌を歌う息子の姿がある。

最近は「インフィールドフライって何?」と聞かれてびっくり。長女は野球中継やプラスチックバットを見ると、「パパ?」と聞くようになった。「まだテレビや新聞は理解できないから、下の子の記憶に残るまでは続けたい」。その言葉で、ふと自分のことを思い出した。

 14年前、実家の引越し作業中。タンスから、高校時代に甲子園に出場した父のスクラップ記事が出てきた。私が見たことがあるのは甲子園の砂が入った小瓶だけで当然、当時のことは知らない。白黒写真に添えられた父の健闘を記す文面に自然と笑みがこぼれ、少しだけ誇らしかった。

 年月がたっても、新聞は形として残る。「あと5年ぐらいできたら最高だけどね。必死だよ、パパは」と笑いながらも、板山の目は覚悟に満ちていた。15日は父の日。

将来、子供たちの記憶を彩れるように“パパ”の努力と活躍を少しでも多く記事にしたい。(中日担当・森下 知玲)

◆森下 知玲(もりした・ちあき)2018年入社。西武、ヤクルト、24年から中日担当。

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