◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 長嶋茂雄さんが天国へ旅立った。もう1か月近くになるが、突然「どーもー、長嶋です」なんて代打で登場してくれないか、妄想してしまう。

「令和の長嶋番」として取材を続け、驚く逸話の数々を聞く中で、涙が止まらない実話がある。

 6月2日、午後7時前。病室の長嶋さんへ携帯電話が鳴った。米ニューヨークに住む松井秀喜さんからだった。亡くなる約11時間前。付き添う関係者が耳元に電話を近づけた。長嶋さんはまな弟子の声をじっと聞いていたという。残念ながら返答する力は残ってなく、目は閉じたまま。これが最後の“会話”になった。

 この時、奇跡が起きていた。ミスターの病室からは東京タワーが見える。ともに昭和33年デビューの、いわば同期だ。

松井さんからの着信と同時に偶然、東京タワーがライトアップされた。しかも、巨人カラーのオレンジ色。高さ333メートルを誇る昭和のシンボルが、2人の時間を照らしてくれたのだ。

 松井さんの声に励まされた長嶋さんは、もう一度起き上がろうと、頑張ったと聞く。告別式で次女・三奈さんが明かした事実にも驚いた。モニターの脈拍と血圧の数値が0になっても心臓を動かそうと諦めず、山なりの波形が続いたという。見守る看護師、主治医も驚く最期だった。3日午後9時。東京タワーは普段より3時間も早く消灯し、故人を追悼した。

 亡くなる直前まで主役であり続けたミスター。国民的スターの担当として何をすべきか考えた。報道を続けよう。

新聞やウェブ、動画で長嶋さんの魅力をもっとファンに届けよう。それこそ使命だと感じた。(デジタル担当・水井 基博)

 ◆水井 基博(みずい・もとひろ) 2001年入社。巨人取材歴18年。YouTube「報知プロ野球チャンネル」メインMC。

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