スポーツ報知では、関東大学サッカーリーグの魅力を伝える企画「かける」を随時掲載する。第5回は流通経大のDF塩川桜道(はるみち、2年)がインタビューに応じた。

悔しさをバネに成長してきたサッカー人生。A代表が参戦する東アジアE―1選手権に、U―20代表の同僚から3選手が選出されたことを刺激とし、28年ロサンゼルス五輪代表入りへ、“唯一無二”の選手に成長することを誓った。(取材・構成=浅岡 諒祐)

 一歩ずつ、夢に近づいていく。E―1選手権には、同世代で共闘する3選手が参加。3年後のロサンゼルス五輪をともに目指す仲間たちの躍進を、塩川は前向きに、そして自分の刺激にしようとしていた。

 「自分と同年代でやっている選手が代表に選ばれるのはすごい。自分はまだ全然現実味がない。焦ってはいないが、3人が入ったことによって目指さなきゃいけない場所とは、もちろん感じる。まだまだ本気でやらないと差は開いていく」

 いつも壁があった。中学入学前。800人以上の志願者が集まった浦和ジュニアユースのセレクションに合格。合格者7人の狭き門を突破したが、厳しい現実が待っていた。

 「技術が全然違ったし、有名どころから来た選手しかいないから、これは厳しいなと。プロに行きたい、高校からまた活躍しようという思いは、全然なかった。『何もできないな…』と、ばかり思っていた。これから本当にうまくなるのか、という感じでしたね」

 3年努力したが、センターバックの3、4番手までで、ユース(高校生年代)にも昇格できなかった。18年度の高校サッカー選手権でDF関川郁万(現・鹿島)らが準優勝した憧れなどもあり、流通経大柏へ進学。今度は、負傷に悩まされた。1年時は右膝のオスグッド(成長期に見られる痛み)や腰椎分離症…。なかなか実力を発揮できず、認められなかった。

 「1年対2年の対抗戦が当時あった。そのメンバーを(選手)投票して選んだ時に、自分は先発じゃなかった。2年だけのメンバーにもいなかった。『俺、できるんだよ』と思いながらも、みんなから外されて本当に悔しかった。

結果で示したい気持ちがあった」

 悔しさを抱えながら鍛錬からは逃げず、身長も180センチ台後半へと成長した。23年2月にU―17高校選抜に選出され、自信を深めるきっかけになった。同年11月にはU―18代表でスペイン遠征に参加。「悔しさをぶつける場所が欲しかった」と進学した流通経大で、思いが徐々に形になっていく。

 「一歩一歩ですけど、一つ一つの目標や、やりたいことができた。ちょっとずつ気持ちも悔しさだけじゃなくなり、本格的にプロ(への道)も見えてきた。(流通経大柏の)1年の時は先輩を憧れでしか見ていなかったが、今は一緒にプレーするのが楽しいし、チームメートとしてやれている。先輩たちに頼られて、逆に引っ張っていけるような選手にならないといけない」

 1月、J1浦和のキャンプにも参加し、プロへの距離も近くなった。ただ、塩川はぶれない。一歩一歩。

 「そんな目立ちたがり屋でもないし、強気なキャラでもない。特に目指している選手、好きなもの、こだわりとかもない。

そのままの自分という感じでやっていく。“唯一無二”でありたいと思います」

 ◆主な流通経大サッカー部OB 森保ジャパンの主力としてA代表通算40キャップを誇るMF守田英正(スポルティング・17年度卒)を筆頭に、E―1選手権の代表に選ばれているFWジャーメイン良(広島・17年度卒)、MF江坂任(岡山・14年度卒)、MF伊藤敦樹(ヘント・20年度卒)、MF満田誠(G大阪・21年度卒)らが日本代表を経験。今季は21人のOBがJ1でプレー。

 ◆塩川 桜道(しおかわ・はるみち)2005年4月25日、埼玉・飯能市出身。20歳。4歳でサッカーを始め、ダイナモ川越東、浦和のジュニアユースでプレー。同ユースには昇格せず、流通経大柏高、流通経大に進学。昨夏パリ五輪では代表チームのトレーニングパートナーを務める。ポジションは主にセンターバック。187センチ、83キロ。

単位も掃除も「全部ちゃんとやりたいタイプ」…こんな人

 「何かと全部ちゃんとやりたいタイプ」と塩川は自己分析する。大学1年時には代表活動でフランスやメキシコなど6度、海外遠征に行ったが、1年で得られる最大の44単位を取得。

「(サッカー以外も)全部やりたくなる。(公欠以外は)1回も休まないように気をつけた。単位も1個でも落とすのは嫌」。高校スポーツ科でも常に学年1、2番の成績を残していたという。

 きれい好きで寮の部屋の掃除に集中するあまり、時計を見たら1時間が過ぎていた、ということもある。授業、寮での生活を始めて大学生活はプラスになることばかりで、塩川は「大学4年間は絶対にいたい。この大学で結果を残すことも大事ですし、自分の財産になる」と力を込める。

 数々のJリーガーを輩出してきた中野雄二監督(62)は、同部のOBである横浜Mの元日本代表DF山村和也(35)と似ていると明かし、「謙虚。決しておごらない」と人物像を明かした。

取材後記 名前の「桜道(はるみち)」は、大人気バスケ漫画「スラムダンク」の主人公・桜木花道と似ている。体格もほぼ一緒だ。しかし、実際は漫画「クローズ」の主人公である坊屋春道が由来だった。

スラムダンクは「読んだことない。みんなにそっち(桜木)だと思われますけど…」。ひそかに持参したスラムダンクのコミック本が日の目を見ることはなかった。

 ただ、「ちょっと読んでみようかと。名前をみんなから覚えてもらえるなら、うれしい」とポツリ。取材の質問にも前向きな回答が多く、撮影時にもヘディングを「どうせならかっこよくしたいです!」と嫌な顔一つせず、30回ほどチャレンジしてくれた。

 本人は「自分とは全然キャラ違いますね…」と言ったが、素直で応援したくなる人柄は桜木花道に通じるものを感じた。(大学サッカー担当・浅岡 諒祐)

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