◆陸上 全国高校総体 第3日(26日、ホットスタッフフィールド広島)

 男子100メートルで、石川・星稜高2年の清水空跳(そらと、16)が10秒00(追い風1・7メートル)の日本歴代5位に並ぶ好タイムで優勝した。U18(18歳未満)の世界最高(10秒06)を上回り、2013年に桐生祥秀がマークした10秒01の高校記録も更新した。

今季日本最高記録で、9月に開幕する東京世界陸上の参加標準記録(10秒00)に到達。名前の通り「空へ跳ぶ」ような歴史的な走りを見せた高校2年生は、世陸の代表入りの可能性が出てきた。決勝は暑さ対策で3組によるタイムレース方式で行われた。

 猛暑の広島で、高校2年生が衝撃の記録をたたき出した。10秒00。表示を確認した清水は目を丸くして喜んだ。「自分でも衝撃のタイム。めちゃくちゃうれしい。伝説をつくったと思う」。父・正雄さんが走り高跳び選手だったことから「自分の足で空へ跳ぶ」と「空跳(そらと)」と名付けられた16歳。「(10秒)0台の景色が見られて良かった」。会場が揺れるほどの大歓声を浴び、両手を高く突き上げ、空高くジャンプして喜びを爆発させた。

 圧巻の走りだった。1組目で同学年の東農大二・菅野翔唯が10秒06(追い風2・4メートル)の好記録。「絶対に負けたくなかった。9秒台を出す。もう一段階ギアが上がった」と心を燃やして最終組に登場した。「今までで一番完璧」なスタートを決めると、得意の二次加速でさらに後続を引き離した。自己ベストを0秒19も縮め、憧れの桐生祥秀が京都・洛南3年時に記録した高校記録とU20日本記録を同じ会場で、12年ぶりに塗り替え「高校記録が出てうれしい」と笑顔。U18世界記録、大会記録も更新した。

 伸びしろしかない星稜の2年生だ。前回大会は1年生で2位と大健闘。さらなる進化のため、意識したのは上半身の動きだ。練習から「肋骨(ろっこつ)や肩甲骨の動きを出すことに集中」と柔らかい動きを意識。

下半身だけに頼らない、体全体が連動した走りでベースアップに成功。昨季は両太もも裏を1回ずつ肉離れするなど悩んでいたけがも「リスクが減った」と好影響をもたらした。

 世陸の参加標準記録にも到達し、初の日本代表入りも視野に入った。「9秒台スプリンターで五輪に出場」を将来の目標にする清水は、東京開催の世陸代表に向け「出られるなら、その景色が見たい」と目を輝かせた。この日、1000分の1単位の記録では9秒995を計測。勢いしかない16歳は「まだ高校生。若さ、フレッシュさを見せつけたい。全てのステータスをマックスまで引き上げたい。高校での目標は9秒台を出すこと」と言い切る。男子短距離界に新たな旋風を巻き起こす。(手島 莉子)

 ◇清水 空跳(しみず・そらと)2009年2月8日、石川・金沢市生まれ。16歳

 ▽競技歴 両親、姉が陸上をしていたことがきっかけで、小学4年生から始める。

石川・長田中3年時に全日本中学校選手権200メートル優勝。昨年、星陵高に進学し、7月にサニブラウン・ハキームの100メートルの高1歴代最高記録を更新する10秒26をマーク。同年の全国高校総体は2位。今年5月に10秒20、同7月の日本選手権で10秒19と自己ベストを更新し続けた

 ▽活発な子ども時代 「階段から飛び降りていたらしいです」。父の胸に「モモンガみたいに」飛び込んでいた

 ▽憧れの選手 桐生祥秀や、山縣亮太。「学生の時からずっと強くあり続けた選手が、全員尊敬している選手です」

 ▽サイズ 164センチ、56キロ

 ◆清水空跳の東京世界陸上への道 男子100メートルの参加標準記録は10秒00(有効期間は24年8月1日~25年8月24日)。現時点でクリアしている選手はサニブラウン・ハキーム(東レ)と清水の2人だけのため、日本陸連が定める日本代表選考基準で世界ランク18位のサニブラウンに次ぐ2番手に浮上した。参加標準記録突破選手(各国3人以内)が出場上限の48人に満たない場合、世界ランク順となる。日本勢では柳田大輝(東洋大)が3番手、桐生祥秀(日本生命)が4番手、井上直紀(早大)が5番手。8月24日までに参加標準を突破する選手が現れなければ、清水が高校生で日本代表となることが濃厚だ。

 ◆陸上の公式記録 1万メートルまでのタイムを争う競技では1000分の1秒単位まで計測されるが、小数点以下3位は切り上げとなる。9秒99が公式記録になるのは9秒990まで。

9秒991から10秒000までは10秒00になる。1000分の1秒は約1センチと換算され、清水は9秒99まであと5センチだった。

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