◆テニス ▽ナショナルバンク・オープン(30日、カナダ・モントリオール)

 女子シングルス2回戦が行われ、世界ランキング110位の伊藤あおい(SBCメディカルグループ)が、トップ10と初対戦し、初勝利を飾った。同9位で、2024年全仏、ウィンブルドン準優勝のジャスミン・パオリーニ(イタリア)に、握られたマッチポイントをはね返し、2-6、7-5、7-6の逆転で大金星を挙げた。

「最初はぼろ負けしないように、4ゲーム(だけ)取りたいと思っていた。でもセカンドセットを取ることができて、3セット目もタイブレイクまで行けた。自分らしいプレーができた」。日本女子がトップ10を下したのは、4月下旬に開幕したマドリード・オープン3回戦で、内島萌夏(安藤証券)が同3位のジェシカ・ペグラ(米国)に勝って以来14人目。伊藤は、3回戦で同51位のスペイン選手と対戦する。

 自称「へにょへにょテニス」。棒立ちで、フォアハンドはパワーがないため、相手の球威を利用した逆回転のスライスやチョップを多様。ツアーを統括する女子テニス協会(WTA)が「ツアーでほかのどんな選手とも異なる才能を持つ」と驚く伊藤の異能が、ついに世界を驚かせた。

 4大大会2度の準優勝を誇るパオリーニを相手に、伊藤は、いつものように、のらりくらりとプレーする女子中学生のよう。かとみれば、突然、攻撃したり、ネットに出たりとかく乱し、第2セットの4-5で握られたマッチポイントをはねのけ、2時間27分をかけて逆転勝ちだ。「スライスとか、上のレベルだとあまり見ないタイプだと思うので。逆に希少性がよかったと思う」

 伊藤は、今大会、予選を勝ち上がり、1回戦で同108位のケーティ・ボリネツ(米国)に勝利。

4大大会に次ぐレベルのWTA1000大会で、初の本戦勝利を挙げた。もともと海外遠征を好まないタイプだが、今回は別。「食事がおいしくて。すごい待遇もよくて、WTA1000てすごいなと思っている」と笑いが止まらない。

 人生設計は、「早く大金持ちになって、早く引退して、部屋にこもってゲーム三昧の日々」という独特な発想で、だからプロにもなった。今年から本格的に海外遠征を始めたが、それも、俗っぽく言えば「大金持ち」になるためだ。

 筋トレは大嫌いで、「筋トレするぐらいだったらテニスをやめる」。勝ちたいとは思うが、「勝つために努力はしたくない」。だから「パワーや体力は全くない」し、「走らされたら終わり」。しかし、この日は、世界屈指のストローク力を持つパオリーニのショットに走り回った。獲得した得点は、相手の110点に対し、伊藤は108点。2点負けながら、勝負には勝つ、柔よく剛を制す「へにょへにょテニス」の真骨頂だった。

編集部おすすめ