俳優で歌手の上條恒彦(かみじょう・つねひこ)さんが22日に長野県内の病院で老衰のため死去した。85歳だった。
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上條さんは松本白鸚が主演した「ラ・マンチャの男」に77年から最終公演の23年まで46年間にわたり948回、出演した。最終公演を控える22年にインタビューした。当時81歳。白鸚との関係を率直に語る上條さんの謙虚な人柄が印象に残っている。
上條さんの方が2歳年上だが、共演し始めた当初、白鸚(当時は市川染五郎)は雲の上の存在だった。「近寄りがたい存在でした。これ以上は踏み込んではいけない、バリアがあった。小さい頃から修業を積んでこられた歌舞伎の御曹司に対して、私は百姓のせがれ。根本的に違います」。自分を卑下するわけではなく、たたき上げの人生を誇りに思っている様子だった。
関係が変わり始めたのは、白鸚が81年に市川染五郎から松本幸四郎となり、高麗屋を背負うようになった頃だ。「白鸚さんはバリアをご自分の方から外された。すごくうれしいことでした」。公演の打ち上げでは、ワインを酌み交わし、語り合うようになった。
自宅のある長野・八ケ岳で畑を耕し、農薬を使わずにこだわって育てた大根を毎年、白鸚の自宅へ送っていた。「役者に大根を送るなんて、最初は失礼かなと思ったんですよ。でも、白鸚さんは『大根はいろんな調理法があって、役者に大事な野菜なんですよ』と喜んでくれました」とうれしそうに語った。苦楽を共にして成熟した大人同士の関係性がまぶしく見えた。(有野 博幸)
松本白鸚(長年、舞台「ラ・マンチャの男」で共演)「残念です。長い間、ラ・マンチャの牢名主の上條さんとは一緒に戦ってきました。舞台を離れても、いつも優しく励ましてくれました。さみしいです」