大人と子供の境界って、どこにあるんだろう。日本初演から今年で45年目を迎えたミュージカル「ピーター・パン」は、そんな永遠の問いに挑み続けている。

 1981年に榊原郁恵(66)が演じて以来11代目となるピーター・パン役は、2023年から主演を務める山﨑玲奈(18)。今年1月に成人した山﨑は、まさに大人と子供の境目を歩んできたといってよい。

 劇中では「大人になりたくない」キャラクターを演じるが、3年連続とあって堂々たるたたずまいだ。6月に制作発表を取材した私の質問に、「3年間も同じ役をさせていただけることはなかなかないので、自分の限界までピーター・パンという役を追求していきたい」と答えていた。その言葉通り、東京公演で喜怒哀楽を全身で表現する姿には自信がみなぎっていた。

 見せ場は何といっても、ワイヤを駆使した大迫力のフライング。劇場を訪れた多くの子供にとっては初めて目にする光景だろう。動画コンテンツやVR(仮想現実)が全盛の時代にあって、ピーター・パンをはじめとするキャストが舞台上空を舞う異空間は、何物にも代えがたいリアルな「没入体験」だ。40歳直前にリスキリング(学び直し)の一環で小学校の教育実習を経験した私も、劇場には学校現場や家庭で実現できない圧倒的なスケールがあるのだと思い知らされた。

 終演後、観客の表情が気になって様子を眺めてみた。会話が弾んでいる。記念写真を撮っている。

歌を口ずさむ人もいる。親子連れが多いなか、若い男性や熟年夫婦の姿も。誰もがそれぞれの余韻を大切にしているように見えた。

 6日に東京公演を完走した本作はこの先、群馬(10、11日)、大阪(17日)、福岡(22~24日)と地方を巡業する。ミュージカルを楽しむという点において、大人と子供の区別はない。ピーター・パンのように少年の心を忘れず、皆で軽やかに世代の垣根を飛び越えていきたい。(堀北 禎仁)

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