◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」
陸上の日本選手権(7月)女子100メートル障害決勝は1、2位が0秒003差の大接戦だった。ゴールした8人の選手は輪をつくって結果を待った。
寺田は度重なるけがや摂食障害などもあり13年に一度引退した。当時を「陸上が嫌いになっていた」と振り返り、普通ならアスリートとしてのキャリアは終わりだろう。それでも、結婚、出産を経て17年に7人制ラグビーに挑戦し、19年に陸上に戻った。その年に日本記録を樹立、東京五輪にも出場した。6年のブランクに「厳しい」と言った周囲の声を打ち破り、第一線に戻った姿は、何度でもやり直せることを伝えている。
それだけではない。10代で日本代表に選出された当時、選手間の雰囲気を「悪かった」と明かし、周りに流されず独自の道を進んだ。他選手はライバルではあるが、志を同じにする仲間と捉えて「強くなる雰囲気をつくりたかった」と自身の経験を惜しみなく伝えた。地道に女子ハードル界の風通しを良くし、冒頭のシーンが自然発生的に生まれるまでになった。
レースを制した田中佑美は「当たり前にいい雰囲気をつくってくれた」と感謝した。バトンを受けた選手たちがどんな道をつくるのか。期待して見ていきたい。(陸上担当・松末守司)
◆松末 守司(まつすえ・しゅうじ) 2020年入社。1月から五輪担当。冬季五輪3大会取材。