試合後に開頭手術を受けたボクサー2人の死去を受け、試合を管理、運営する日本ボクシングコミッション(JBC)と日本プロボクシング協会(JPBA)が12日、都内で再発防止策を協議し、医療体制を一層充実させる方針を決めた。過度な減量を抑制するための転級命令や尿比重検査、全興行での救急車待機など、安全対策を導入していく。

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 2人のボクサーの命が、同じリングの上で失われた。偶然の不幸と片付ければ、同じ悲劇はまた起きる。今回JBCとJPBAが提示した事故防止対策は、速やかなルール整備と実行が求められる。

 一方で、これらの対策が試合前と試合後の事象に偏り、「試合中」の視点が欠けているとも感じる。

 ボクシングは、頭部への打撃が競技の本質にある。だからこそ、選手本人の申告やレフェリー、セコンドら周囲の目視だけに頼った安全管理には限界がある。科学の力を使い「試合中」の衝撃を数値化できれば、ラウンド間のチェックやレフェリーストップの判断がより的確になるはずだ。

 例えばラグビー界では近年、頭部への衝撃をリアルタイムで感知するセンサーを搭載したマウスピースの導入が進んでいる。センサーが一定基準を超える衝撃を感知した場合は、医療スタッフにアラートが送信される。マッチオフィシャルがフィールドからの退出、検査を促すことができる。脳震盪(しんとう)を見逃さないための仕組みだ。

 システムの導入費用や選手個々の耐久力の精査など、課題はある。

しかし蓄積されたデータは、試合後の長期的な健康管理、将来のリスク評価にも役立つだろう。リング禍は選手生命を奪うだけでなく、競技そのものへの信頼も揺るがす。選手を守ることが、競技を守ることにも直結するはずだ。(ボクシング担当・勝田 成紀)

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