◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 サラブレッドが競馬場を駆けるまでには、多くの人の手がかかり、様々なドラマがある。

 8月18~23日に北海道市場で行われるサマーセールには、1462頭がエントリー。

その一頭、レッドルーヴルの2024(父ダノンバラード)は苦境を乗り越え、セリの舞台にたどり着いた。飼養者の(株)奥山ファームは昨年2月10日に繁殖牝(ひん)馬の厩(きゅう)舎が全焼し、18頭のうち17頭が死んだ。熱風に襲われた厩舎から何とか救い出したのが母のレッドルーヴルだった。

 火災から約1か月が過ぎた3月18日に誕生した子供は、自力で立つことができないほど虚弱でスタッフが支えながら母乳を与えた。5日ほどすると「自分で立てるようになって、ミルクも飲めるようになった」と奥山昌志代表。その後は順調に過ごし、すくすくと成長した。「離乳後からグンと実が入って、ここ最近は一段とたくましくなった。人間の手が多くかかったので、すごく扱いやすい。頼りない時期を乗り越えてくれて生命力の強さも感じる」と優しい目線を向ける。

 母は未勝利で挑んだ1勝クラスで初勝利。競走馬だけでなく、繁殖牝馬としての道も切り開いた。荻野極騎手は「格上相手に勝てたように、持っている馬だった」と振り返る。

火災で九死に一生を得た母から生まれた息子も懸命に命をつないだ。奥山代表は「いろんな困難を克服してきた子。いい馬主さんに巡り合えれば」。新たなターニングポイントが刻々と迫っている。(中央競馬担当・浅子 祐貴)

 ◆浅子 祐貴(あさこ・ゆうき) 2024年入社。北海道で競走馬育成に携わる。その後は南関東競馬担当を経験。

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