J1町田の下部組織は今夏、4つのカテゴリーが海外遠征を実施した。U―14チームはフランスに渡り、昨年7月からアカデミーでのパートナーシップ提携を結ぶフランス1部リヨンのアカデミーの施設を借りて、強化キャンプを行った。

このほど、アカデミーダイレクターを務める菅澤大我氏と田口智基国際部部長が報道陣の取材に応じ、海外遠征の成果と町田アカデミーの今後の展望を語った。

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 リヨンはフランスの名門で、1989年以降36年間1部にとどまり続けている。2025―26シーズンは負債問題を理由に2部降格処分が下されていたが、後に取り消しになったことで今季も1部に残っている。

 2000年代は黄金期を築き、元ブラジル代表MFジュニーニョらを中心に、02―03年シーズンから07―08年シーズンまでリーグ7連覇を達成。フランス1部で最長の連覇記録を保持している。下部組織にも力を入れており、2022年にバロンドールを受賞した元フランス代表FWカリム・ベンゼマ、同FWラカゼットら多くの実力者を輩出している。

 そんなフランスの名門が、なぜ町田のアカデミーとパートナーシップ提携を結んだのか。田口部長は「オリンピックリヨンがアジアでパートナーシップを結べるクラブを探しているところから始まった。その中でアジアのどの国、どのクラブ、と探していく中で、私たちのクラブにたどり着いたのが出発点」と説明した。

 さらに、リヨンはクラブの成り立ちにも着目した。町田は、1977年に町田サッカー協会に所属する小学生たちを選抜して結成したFC町田トレーニングセンターが始まり。そこからジュニアユース、ユースと続き、最後に前身のFC町田トップが89年に創設された。

田口部長も「私たちの成り立ちを深くお話しさせていただき、この成り立ちにすごい共感していだいた。ジュニアの世代を最初に作ったのは、育成を大事にしているオリンピックリヨンにとってはすごい魅力的に映ったのかなと思います」と話した。

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 パートナーシップの一環で昨年8月にU―17チームがリヨンで強化キャンプを実施。今年は2回目となる。今夏にはU―14以外にも、U―18とU―12が韓国、U―13が中国にそれぞれ遠征した。菅澤ダイレクターも「コロナの時期を過ぎてアカデミーも新しい体制になり、国内だけでなく海外に手を伸ばすことで得られるチャンスをずっとうかがっていた。これだけのカテゴリー、選手数が、こういう国際経験ができるのはありがたい」と感謝する。

 東京Vの下部組織で元日本代表FW森本貴幸氏、同MF小林祐希(現JFL岩手)らを発掘、育成してきた菅澤ダイレクターは、町田の下部組織のコンセプトとして「うまい、賢い、タフ」を掲げている。海外遠征ではフィジカルで上回る相手と対戦し、より「うまい、賢い」の部分が磨かれ「単純な手足の長さ、ばね、スピードが全く違う。日本とは異なるところから足が出てきたり、押されたりした時に、どうやって日本人として賢くプレーするか、つぼが分かってきた。どう自分を発揮していくかを学べてきているかなと思います」と手応えを示す。

 まだ課題も多い。

海外遠征を経て「環境面で大きな差をつけられているのはもちろんで、我々は自前のグラウンドがない。海外のチームは少なくとも3面以上は持っている。それにトレーニングジムがあり、食堂があり、寮があり、全てがそろっているのが大きな差」と実感。サッカー面ではテクニックと戦術で大きな成長と手応えを感じているが、「どうしても我々日本人は、人前で人の目を見てしっかりと自分の意見を言い切ることが苦手。ぱっと目を合わせられると、意外に目を背けちゃう。きちっと相手の話を聞いて、自分の意見を伝える。そういったことに関してはまだまだだなと思っています」と明かす。

 町田のユースは都道府県リーグにあたるT1に所属。同じく東京を拠点とする東京VとFC東京のユースは高校年代最高峰リーグのプレミアリーグに在籍しており、有力な選手はその2チームに行く。トップチームはリーグでの優勝争いに加わり、アジア・チャンピオンズリーグエリート(ACLE)にも参戦するなど躍進し、選手層が厚くなっている。その中でアカデミー出身選手はMF樋口堅とMF真也加チュイ大夢がプレーしているが、両選手とも今季の公式戦で一度も出場がない。

 菅澤ダイレクターはトップチームの躍進に目を細めながら「下から育った選手がヒーローになっていくことを目標としている」と言葉に力を込める。

具体的な目標は「まず、トップチームで試合出場する選手が3分の1くらいまで出てくる。その後に選手が海外に行く、そしてトップに上がる前に海外のチームから買われる選手が出てくる。育成して万歳ではなくて、それをちゃんと対価にしていかないといけない」。地道にこつこつと積み重ねる姿勢も強調した。

 「町田を世界へ」。トップチームはそのクラブビジョンを体現しつつある。アカデミーもその勢いに乗り、道を切り開く。(町田担当・浅岡 諒祐)

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