◆プロボクシング ▽WBA、WBC、IBF、WBO世界スーパーバンタム級(55・3キロ以下)王座統一戦12回戦 井上尚弥―ムロジョン・アフマダリエフ(9月14日、IGアリーナ)

 プロボクシングWBC&IBF世界バンタム級統一王者・中谷潤人(27)=M・T=が今、感じていることを語るコラム「BIG BANG!」。第6回は目前に迫った、スーパーバンタム級の世界4団体統一王者・井上尚弥の防衛戦を大胆予想した。

WBA暫定王者ムロジョン・アフマダリエフと防衛戦(9月14日、IGアリーナ)を行う尚弥と、来年5月に東京ドームでの対戦が期待される中谷は、統一王者の勝利を確信している。

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 こんにちは。中谷潤人です。

 僕の大きな目標の一つが、パウンド・フォー・パウンド(PFP、全階級を通じての最強ランキング)で1位になることです。現在、「THE RING」(米国でも最も権威のある専門メディア)ではPFP7位。評価をもらえており、素直にうれしいですが、目指しているのは1位。遠い距離でも、接近戦でも、柔軟に対応できるようボクシングの精度をより高め、もっと評価をもらえるような試合をしていきたいです。

 来年、尚弥選手との対戦が期待されているというのは日を追うごとに感じています。ただ、お互いが勝ち続けていかないと成り立たないビッグファイトですから、目の前の試合に勝つことにフォーカスすることが大事。大きな試合に行くまでには、一つ一つ、絶対に落とせない。その気持ちは試合に表れますし、僕自身もそこは大事にしている。31戦キャリアを重ねてきて、その思いは変えることはない。

PFP1位になるために、尚弥選手という壁は乗り越えていかないといけないでしょう。

 複数階級制覇にはタイミングというものがあると思います。4階級制覇ができる選手というのはなかなかいないですし、そういうタイミングで尚弥選手と対戦するという形になるという、そんな良い状況って、誰もが経験できることではない。僕にしかできない経験を楽しんでいきたいですね。

 14日は名古屋に行かせてもらいます。尚弥選手、アフマダリエフ選手ともにパワーパンチを持っており、お互いにアクションを増やしていく戦いにはなるでしょう。ただ、尚弥選手は大きな舞台を何度も踏んでおり、その経験から、パンチを当てるタイミングだったり、試合でのひらめきだったり、そういうポイントはより多くなってくるでしょうし、そういうところで相手を上回っていくかなと思います。

 アフマダリエフ選手は体も頑丈で「危険さ」というのはすごく高いと思います。尚弥選手がネリ(メキシコ)やカルデナス(米国)からダウンを奪われたような、交通事故的なパンチを食らう危険性はあると思います。挑戦者を指導するアントニオ・ディアス・トレーナーはカルデナスのジョエル・トレーナーの弟。同じチームの一員として共有されていることがあるでしょうから。でも、尚弥選手がかけるプレッシャーや、流れに対応できる力というのはより優れており、そういうところで差が出てくるのではないでしょうか。

 アフマダリエフ選手が統一王者からプレッシャーをかけられた時にどう反応するか。それでも挑戦者は尚弥選手との対戦をモチベーションにしてきただけに、ドンドン前に行くようであれば、試合は長引く可能性もあります。尚弥選手ご本人が判定までいくことも想定していると話されていますし…。試合にかける思いはファイトに表れますから。

 ただ、僕は判定までいくイメージは湧きません。アフマダリエフ選手もしっかり仕上げてくるでしょうが、尚弥選手のパンチがドンピシャで当たれば絶対、すぐ終わっちゃうとは思うんです…。お互いの仕上がり具合によりますが、中盤から後半までに、尚弥選手が倒して勝つというイメージはあります。

 もし僕がアフマダリエフ選手と戦うとしたら? 結構出入りの多い選手なので、そこはうまくボクシングをさせないよう、常にプレッシャーをかけられる状態にしておいた方がいいかな? アフマダリエフ選手はガッチリした体形で、そう簡単には倒れないという印象。僕なら、腹を狙っていくかな? 身長は僕の方が高いという利点を生かし、自分がプレッシャーを与えていくという構図の方が、うまくボクシングは展開していけるかなと思います。

 尚弥選手との対戦前に、本当は2試合ほど戦いたいのですが、現状では、1試合になりそうな感じはあります。でも、体さえ作れれば、実戦練習でも調整はできます。10日の練習のように、ヘッドギアを外して行えば、より実戦に近い状態でできますから。

フライ級時代、コロナ禍で世界戦延期が続いた時も、延期となったぶんだけスパーリングを数多くできました。実戦練習でも成長できたという経験があります。試合をしなくても、スパーリングで色々なものを駆使して対応できる力をつけることで実戦感覚を落とすことなくできます。そこは柔軟に、自分がどう思うかで調整していきたい。尚弥選手のアフマダリエフ戦で刺激をもらい、ビッグファイトに向けて一つ一つ、進んでいければと思います。感謝! 感謝!(WBC&IBF世界バンタム級王者)

 〇…中谷は10日、神奈川・相模原市のM・Tジムで、本格的なスパーリングを再開した。ジムワークはすでに再開し、後輩の実戦練習相手もつとめてきたが、自身のためのスパーは6月以降では初めて。21年度全日本新人王で日本同級2位・梅津奨利(27)=三谷大和スポーツ=相手に3回打ち合った。次戦は未定も、試合感覚を戻すためにヘッドギアを外して、さらに3回のマスボクシング(軽めのスパー)を敢行。「良い練習ができました。ここからドンドン上げていきます」と手応えを示した。

 ◆中谷 潤人(なかたに・じゅんと)1998年1月2日、三重・東員町生まれ。

27歳。中1からボクシングを始め、中学卒業後、米国で単身武者修行。2015年4月にプロデビュー。16年度全日本フライ級新人王。19年2月に日本同級王者、20年11月にWBO世界同級、23年5月にWBO世界スーパーフライ級、24年2月にWBC世界バンタム級王座獲得で3階級制覇を達成。今年6月には前IBF王者・西田凌佑(六島)に6回終了TKO勝ちして2団体王座を統一した。身長173センチの左ボクサーファイター。戦績は31戦全勝(24KO)。家族は両親と弟。

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