東京・歌舞伎座では「秀山祭九月大歌舞伎」(24日千秋楽)で「通し狂言 菅原伝授手習鑑」が上演の真っ最中だ。「学問の神様」として知られる菅原道真(菅丞相=かんしょうじょう)を演じる人間国宝・片岡仁左衛門(81)に話を聞いた。

この役は仁左衛門の当たり役で、至芸とまで言われる。しかし、本人から出てくる言葉には慢心のかけらもない。また仁左衛門を一番近くで見てきた長男・片岡孝太郎(57)に、今回の舞台に向き合う父から感じ取ったものを尋ねてみた。(その2)

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 今月の孝太郎は「道明寺」の立田の前、「寺子屋」では戸浪と、女形の大役を演じている。昼の部はダブルキャスト・Bプロで菅丞相を初役で勤める松本幸四郎(52)と共演し、不思議な感覚にとらわれたという。

 「菅丞相を父の後の世代で誰がされるのか、とは思っていました。幸四郎さんとは『女殺油地獄』のときにも思いましたが、今回も一瞬、父に見えたんですよ」と驚く。「メイクとか父に似せたりしてるの?と聞くと『いいえ』と。父に教わった役であっても最終的には役者自身のフィルターを通して表現されるもの。そう思うと“父に見える”ことのすごさを感じますね」

 仁左衛門の長男として、相手役として父親の演じる姿を誰よりも多くそばで見てきた。「今回、父は自分の菅丞相づくりだけではなく、周りの役に関する伝授にすごく重点を置いている気がします。それも全ての役に関してです」といい、「父の菅丞相は、これは親子なので当たり前かもしれませんが、祖父(13代目仁左衛門)にさらに似てきたんじゃないか、と重なって見える時がありますね」。

この人ならではの“分析”がある。

 「これは家族から聞いた話ですが、父が自分の出演のない日に幸四郎さんの菅丞相を見て新しい発見があったのか『こうしなきゃ』みたいなことを話していたらしいんです。出ない日が体のエネルギーチャージだけでなく、父にとっては役をより深く考える時間にもなっているんだ、と思いましたね」(内野 小百美)

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