◆新国立劇場「国立劇場九月歌舞伎公演」(27日千秋楽)

 “鴈治郎はん”をご存じか。歌舞伎ファンなら先刻ご承知、映画「国宝」を見た方なら吾妻千五郎を演じた上方歌舞伎の大物役者。

重厚な存在感で多彩な役柄をこなす4代目中村鴈治郎(66)である。

 今月は「仮名手本忠臣蔵」の二段目で大名・桃井若狭之助、九段目で家老・大星由良之助の2役をともに初役で勤めている。二段目、九段目の上演は久しぶりだ。

 若狭之助は恥辱を受けた高師直を討つ決意を示す。颯爽(さっそう)とした姿で登場。師直を斬る愛刀を抜いて思い入れの芝居。「おのれ、師直!」「真っ二つ」。真意を明かす力強い声は凄(すご)味があり、舞台に緊張感が漂った。

 由良之助は雪だるまを転がす“雪転(こか)し”の山科閑居の場。遊興に耽(ふけ)って花道での帰り、酔態に愛嬌(きょう)、色気があった。この場は貫目とどっしりした雰囲気を描く。中村梅玉が演じる加古川本蔵が力弥の槍(やり)で刺されて「こりゃ力弥、早まるな」。

次に苦しい息の本蔵の告白を聞き入る芝居に節度があっていい。討ち入りへ向かう覚悟の性根がある。

 曽祖父の初代は“鴈治郎はん”と呼ばれて大阪の顔だった。祖父・二代目、父・三代目(坂田藤十郎)は人間国宝となった。関西の名門、成駒家の御曹司も襲名から10年。「国宝」では歌舞伎の全場面での責任を負ったという鴈治郎はんの舞台を、追い続けてはいかがかな。(演劇ジャーナリスト)

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