◆世界陸上 第1日(13日、東京・国立競技場)

 オープニング種目の男子35キロ競歩で今大会日本男子最年長の勝木隼人(34)=自衛隊=が2時間29分16秒で初の銅メダルを獲得した。34歳でのメダル獲得は競歩界最年長で、11年大邱大会で男子ハンマー投げ・室伏広治の36歳325日に次ぐ歴代2番目の年長記録。

競歩日本勢の表彰台は6大会連続。1991年以来、34年ぶり2度目の開催となった東京大会で、日本勢のメダル第1号となった。2大会連続メダリストの川野将虎(26)=旭化成=は18位。

 今大会日本男子最年長が、意地の銅メダルだ。ゴールまで約100メートル。表彰台を確信した勝木は力強く両手でガッツポーズし、喜びをかみしめるようにゴールラインを越えた。「メダル獲得という最高の形でレースを終えられた」。コースは15年北京大会以来の競技場発着。大歓声に包まれながらフィニッシュし「これがテレビで見ていた光景かと。これから良い夢として出てきそう」と満足そうな笑顔だった。

 猛暑により、開幕2日前にスタート時間が30分繰り上げの午前7時30分号砲に変更された。スタート時の気象条件は気温26度で湿度は77%。

途中棄権者が10人出た厳しい戦いで積極的に仕掛けた。「誰が行くかと言ったら自分しかいない。僕がしっかり競歩を盛り上げたい」とスタート直後から先頭で引っ張った。約32キロ地点では5位まで後退したが、「最後に上げられる自信はあった」と焦らず、粘り強い歩きで目標のメダルを仕留めた。

 自信の裏側には万全の暑熱対策があった。夏場は涼しい地域に身を移し、スピードを上げた練習をする選手が多いが、勝木は違う。あえて暑い場所で体を慣らすことを優先した。猛暑で有名な埼玉・朝霞駐屯地内にある陸上競技場で汗を流した。「暑い中でも垂れきらない練習をやってきた」と厳しい練習のラストは必ずペースを上げることを意識し、酷暑でも伸びる歩きを磨いてきた。

 東海大卒業後は所属がなく、地元・福岡のコンビニで働きながら一人で競技を続けた苦労人。5歳の長男、3歳の長女の存在が支えで「暑い中でも練習を乗り越えられた」としみじみと明かす。寝る前にいつも「パパ、金メダル取ってね」と言われる日々を経てたどり着いた表彰台。

「ずっと心のプラスになっている。金メダルじゃないから、何を言われるか分からないけど」と笑った。

 自国開催の世界舞台で日本のメダル第1号になった。「やる気、元気、勝木」がモットーのベテラン。地道な鍛錬を積んだ男は、強かった。(手島 莉子)

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