◆世界陸上 第3日(15日、国立競技場)

 男子棒高跳び決勝でアルマント・デュプランティス(25)=スウェーデン=が、6メートル30の世界新記録で大会3連覇を飾った。今大会最注目の「新鳥人」は、自身が今年8月に出した従来の記録を1センチ更新。

今大会初となる世界記録で、満員の国立競技場を熱狂で包み込んだ。

 陸上界のスーパースターが世界に衝撃を与えた。この日9本目となる最後の試技。デュプランティスは、バーに触れながらも6メートル30を人類で初めて飛び越え、約5万人の大喝采を一身に浴びた。「想像以上に素晴らしい。皆さんに世界記録を届けられて本当にうれしい。歓声もすごかった。ありがとうございました」。14度目の世界新でV3。大勢のカメラマンに囲まれながら婚約者と抱き合い、熱いキスを交わした。

 新鳥人は「不可能だと思っていることを、やってのける人が好きなんだ」と、投打二刀流でメジャーを席巻するドジャース・大谷翔平投手(31)の大ファンだ。大谷が生まれ育った日本で、21年東京五輪に続き世界の頂点に立った。

 米国人の父は棒高跳び、スウェーデン人の母は七種競技の選手という陸上一家に生まれた。米国で育ち、家の庭には棒高跳びの練習施設があった。20年に初めて世界記録を更新して以降、1人で塗り替え続け、その回数は既に13度。「鳥人」セルゲイ・ブブカ(ウクライナ)の17度にも迫ってきた。「必ず記録を追い越せる自信がある。気にしていない。父親の方が記録を気にしている」と笑う。

 今季も「すべてが自分の思い通りに進んでいる」と危なげなく勝ち続け、世界記録は3度塗り替えてきた。8月12日に1センチ更新し、人類初の大台6メートル30に到達した。新鳥人は「(6メートル30は)自分にとって乗り越えるべき大きな壁だ」と大谷同様に、人類初の偉業の達成に照準を定めてきた。

 国立での世界大会は無観客で開催され、自身初めて世界一となった東京五輪以来だ。野球好きのデュプランティスはこの日の跳躍の合間に、いたずらっぽい笑顔で打席に入る前の元米大リーグ・マリナーズ外野手・イチロー氏のルーチンを披露し、場内の喝采を浴びた。

「大勢の観客が背中を押してくれた」と今大会の主役がその真価を見せつけた。

▽男子棒高跳び決勝

〈1〉アルマント・デュプランティス(スウェーデン)6メートル30=世界新

〈2〉カラリス(ギリシャ)6メートル00

〈3〉マーシャル(オーストラリア)5メートル95

 ◆アルマント・デュプランティス

 ▽生まれ。1999年11月10日、米ルイジアナ州出身。25歳。国籍はスウェーデン。男子棒高跳び選手

 ▽五輪 21年東京、24年パリで金メダル

 ▽世界陸上 19年ドーハ銀、22年オレゴン金、23年ブダペスト金、25年東京金

 ▽世界記録 25年8月12日に自身7度目の更新(屋外)。25年東京世陸で通算14度目の更新。歴代最多通算17度世界記録の鳥人ブブカの最高記録は6メートル14

 ▽アスリート一家 4人きょうだいの3男。米国人の父・グレッグさんは元棒高跳び選手。スウェーデン人の母・ヘレナさんは元七種競技選手とバレーボール選手、次兄アントワンは19年MLBドラフトでメッツの12巡目指名され、現在マイナーリーグ選手

 ▽大谷翔平ファン 次兄の影響でアルマント本人は大谷翔平のファンと公言している

 ▽婚約者 昨秋に北欧のファッション誌に婚約を発表。お相手は当時交際4年のスウェーデンのモデル、デジレ・イングランダーさん(24)。プロポーズの様子の動画も公開された

 ▽インスタ フォロワーは148・4万人。

 ◆1991年東京世界陸上の世界記録 男子100メートルでカール・ルイス(米国)が当時世界新記録の9秒86で優勝した。男子400メートルリレーでも米国が37秒50を世界新を記録。男子走幅跳ではルイスが8メートル91(追い風参考)の世界記録で跳躍。だが、その直後にマイク・パウエル(米国)が8メートル95と塗り替えて金メダル。この記録は、34年たった現在も破られていない。

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