◆世界陸上 第3日(15日、国立競技場)

 世界陸上の男子3000メートル障害で8位入賞した三浦龍司(23)=スバル=が、小学1年生から中学卒業まで通った地元の島根・浜田市の「浜田ジュニア陸上教室」の上ケ迫定夫さん(71)が、当時感じていた三浦の強さやポテンシャルを語った。陸上の基礎を教えて3000メートル障害へのチャレンジを勧めたのも上ケ迫さん。

同種目の第一人者となった教え子への思いや期待感を語った。(取材・構成=手島 莉子)

 小学1年生で母に連れられて教室に足を踏み入れたのは「他の子と変わらない」普通の少年、三浦。陸上を始めると、ポテンシャルがずば抜けていた。バネのある動きに加え、「ロードレース大会に出すと、記録が異次元でした。次に出会えるか、出会えないかわからないような逸材です」。1種目に決めつけず、様々な種目に挑戦するのがこの教室。三浦もハードルや投てき、短距離から長距離までこなし、陸上の基礎を培った。

 成長にも貪欲だった。小学校4年時に「上半身が弱いから、一番良いのは鉄棒だよ」とアドバイスすると、母と一緒に自宅の庭に鉄棒を制作。「普通、鉄棒を作ろうって思う? 思わないよね」と上ケ迫さんも衝撃を受けたという。グングン進化する三浦の存在や子どもたちの声もあり、週1回だった教室は、週3回にまで増えた。三浦を京都・洛南高に送り出すまで上ケ迫さんは近くでずっと、成長を見守ってきた。

 今年7月、三浦は自身の日本記録を6秒48も上回る8分3秒43をマーク。海外レースで日本時間では早朝も配信でばっちり観戦。「本当に驚いた。いきなり(8分)3秒台。今はずっとダイヤモンドリーグに出ているけど、そこに出ることも大切。あの舞台だったからこそ、(記録が)出たんじゃないかな」とうれしそうに振り返る。教室の子どもたちが出した大会の記録は全てノートに残しており、三浦の分を見返すときは「改めてすごいなって。自分でやったことのようにうれしいよね」とほほ笑んだ。

 取材での三浦は常にどんな質問も、さらりと的確に答える。実は教室での「アドリブ」で鍛えられた部分もあると言い、「帰省して練習しに来てくれるときはみんなの前ですぐに(話を)振ります。だんだん上手になっている」と笑顔。教え子の大舞台、世界陸上は現地で応援し「一番はけがをしないこと」と上ケ迫さん。

たくさんのエールを受けてまだまだ三浦は強くなる。

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 中学時代は教室のみんなでチームを組んで駅伝も走ることもあった。1区を任されると、先に走っていた別部門の高校生を抜き去って全体1位で帰ってくるすさまじさ。現在地元の小学校教諭で、同教室のコーチもしている橋ケ迫(はしがさこ)樹さんは三浦と同級生で当時2区を担当。「(頭一つ)抜けていました。2区の僕は『先頭で来ますよ』って係の人に言われて、高校生が来るんだなあって、ボーっと待っていたらあいつが来たから、やべえって」と衝撃の速さだった。三浦が活躍を続けるからこそ、橋ケ迫さんは小学校でも陸上教室でも、より熱を持って子どもたちに指導する。「活躍してくれているのに、こっちが盛り上がっていないとダメですよね」。浜田市を活気づけながら、友人を心から応援し続けていく。

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