陸上女子1500メートル、5000メートル代表の田中希実(ニューバランス)をサポートする“チーム田中”のトレーナーの中野喜文さん(55)は、昨年のパリ五輪前からサポートを始め、田中の父である健智コーチ(54)らと共に今季も多くの海外レース、合宿に帯同。近くで見ているからこそわかる田中の強さを語った。
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田中に初めて出会ったのは、昨年6月のケニア合宿だった。中野さんの治療院にケニアの陸上選手も訪れていたことから、勉強のために渡航。そこで田中が合宿をしていた。「スポーツ選手のチャレンジとして、強いところにわざわざ身を投じてチャレンジするって美しい」。標高2400メートルの高地で「普通は高地順化するのに時間がかかったり、苦労する。でも希実ちゃんを見ている限りでは、へっちゃらだった」とまずはその、タフさに驚いた。
中野さんはこれまで自転車競技のトレーナーとして、長く欧州のさまざまなチームで経験を積んできた。「陸上も持久系スポーツという点において、コンディショニングなど共通点もあります」。“チーム田中”から打診を受け、自身の経験を生かしながら田中をサポートすることを決めた。世界大会は昨年のパリ五輪が最初で、その後のダイヤモンドリーグなどにも帯同。今シーズンも海外を中心に20レース以上をこなす田中に帯同し「家族の一員になったみたい」と笑う。
今季新設されたグランドスラム・トラックには、日本人でただ一人参戦した。
19年ドーハ世界陸上で初の世界大会代表入りを果たし、常に日本トップを走り続けている田中。これまで、長く競技から離れるほどの大けがはしていない。背景には、健智コーチが考える「絶妙なさじ加減の練習の質や量が大きく関係していると思います」。中野さんがケアをしていても、練習過多を感じることはなく、本人も「体の状態は、細かすぎるくらい僕に伝えてくれます」。徹底した管理が鍵を握っていた。
13個の日本記録を保持するなど、今や日本に敵なし。ただ「世界のレベルはどんどん上がっている」とチーム一丸で、さらなる飛躍を求めている。「彼らのチャレンジは日本陸上界にとって価値のあることだと思う。応援しています」と中野さんは力を込め、「でも世界陸上が終わったら少し、一段落してくれたらいいなって思います」とほほえんだ。まだまだ貪欲に成長を求めていく。