◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 ラーメンをすする音が聞こえる。「あ、すいません。

ラーメン食ってました。よろしくお願いします」。お笑いコンビ「ちょんまげラーメン」を取材した録音の冒頭部分を聞き、吹き出してしまった。原稿を書く前にこれほど笑ったのは初めてだ。

 声の主、田渕章裕はラーメンなど食べていなかった。インタビューの冒頭、私が「録音を回していいですか?」と断りを入れた際に返ってきたボケだ。「後で録音を聞いた時、『ラーメン食べとったな』と記憶を改ざんしてください」と田渕は笑った。

 お笑いを担当するようになって感じるのは芸人の気遣いだ。テレビと違い、映像が残るわけではない新聞のインタビュー取材でも、田渕のように場を盛り上げたり、和ませたりする。こんな気遣いを当たり前のように見せる芸人が多い。記者を一人の観客として見立てているように感じることが何度もある。

 双子漫才師「吉田たち」を取材した際もそう。

双子だから正直、区別がつかなかったらどうしよう…と心配していた。だが、兄・ゆうへいが最初の質問に答えた後、録音機に向かって「あ、ゆうへいです」と付け足し、不安は吹き飛んだ。2人は声も似ている。以降、同じ順番で質問に答えれば、録音を聞き返した際にも間違えることはない。

 取材が終わり、ゆうへいは「聞き直してどっちか分かりますか」と再度、気遣ってくれた。私が「間違えないように書きます!」と言うと「間違えたって全然ええですよ」と笑った。笑いのプロたちの気遣いを、私も参考にしたい。(芸能担当・瀬戸 花音)

 ◆瀬戸 花音(せと・かのん)2020年入社。将棋担当を経て映画・演劇などを取材。

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