◆大相撲秋場所12日目(25日、東京・両国国技館)
新小結・安青錦が、全勝だった横綱・豊昇龍を切り返しで破り、9勝3敗とした。豊昇龍から2場所連続の白星でトップと2差に迫り、初Vへ望みをつないだ。
安青錦が見せた鮮やかな切り返しに、館内から大歓声が起きた。立ち合い。もろ手突きにひるまず踏み込み、左下手を取ると、頭を下げて食らい付く。豊昇龍の苦し紛れの小手投げを切り返し、背中から土俵にたたきつけた。全勝の横綱を止め、3敗を死守。「信じられない。中に入れて良かった。自分の相撲を取れた」。普段は冷静な21歳も、興奮を隠しきれなかった。
11日目に平幕・正代に寄り倒された。賜杯争いで痛い3敗目も「負けたから自分の仕事が終わるわけじゃない。新しい気持ちで臨んだ」と切り替えた。豊昇龍に初顔合わせの先場所で金星を獲得していたが、そのイメージも捨てた。「横綱なので。精いっぱい自分の力を出すことだけを考えていた」と無心で挑んだ。
序ノ口デビューから新三役場所まで負け越しがないのは、年6場所制となった1958年以降で元横綱・曙と安青錦の2人のみだ。「大横綱。すごい人」。203センチの巨漢で活躍した曙の現役時代の映像は何度も見たことがあるというが、自身は182センチ。小兵力士が曙に挑む姿を参考にする側だった。ただ、その曙でも新小結場所は8勝7敗。
全勝の豊昇龍を引きずり下ろして首位と2差に詰め、大関取りの起点となる三役での10勝に王手をかけた。新入幕から4場所連続の2ケタ勝利を達成すれば、戦後初の快挙だ。九重審判長(元大関・千代大海)も「場所ごとに強くなっている」とうなった。大関候補の呼び声高いウクライナ出身の新鋭が、新三役場所で強烈な存在感を放っている。(林 直史)
◆序ノ口デビューから新三役昇進まで負け越しなし 年6場所制となった1958年以降では安青錦のほかに曙、琴欧州(後の大関・琴欧洲)がいる。新三役場所を曙は8勝7敗(91年春場所)、琴欧州は4勝11敗(05年春場所)。すでに9勝を挙げている安青錦は2人の成績を上回っている。