◆第70回有馬記念・G1(12月28日、中山競馬場・芝2500メートル)

 今年の有馬記念・G1(28日、中山)では、大ヒットドラマにちなんだ企画「有馬のザ・ロイヤルファミリー」で連日、特集する。第1回はメイショウタバルで、同一年春秋グランプリ制覇を目指す武豊騎手(56)=栗東・フリー=にスポットライトを当てる。

「日高の馬で有馬を勝つ」の言葉を残して今夏、逝去した先代オーナー・松本好雄氏の思いを継承し、新たな伝説をつくる。

 夢を乗せて、手綱を執る。武豊にとって、メイショウタバルは縁の結晶。管理する石橋調教師、生産した北海道浦河町の三嶋牧場、そして、今年の8月29日に逝去した先代の松本好雄オーナー…。数十年来の絆がある。宝塚記念に続くグランプリ制覇を目指し、有馬記念へ。「今年、有馬がメイショウさんの馬っていうのもね。思うところはみんなありますよ」。天に向けて、静かに思いをはせた。

 「日高の馬で有馬を勝つ。オーナーの遺言やからね」。松本好雄さんの有馬記念への熱意を、武豊はドラマ「ザ・ロイヤルファミリー」に登場した馬主・山王耕造(※)のセリフに重ねる。

 宝塚記念の4日後。函館滞在中だった武豊は、思い立ってタバルの故郷である三嶋牧場に向かった。「お礼に行こうかと思って(牧場に)電話したら、『メイショウさん、ちょうどいますよ』って言われて」。導かれたような再会。「もう、言葉がなかった。涙、涙して、何を言うわけでもなく」と、感無量の喜びを分かち合った。

 その夜は、浦河の小さな中華料理店を貸し切って祝勝会。松本好雄さんを慕う他の牧場の関係者も集まる、温かな宴席だった。今後のローテーションに話題が及んだとき、武豊の頭には「凱旋門賞にも行きたい」という希望もあった。しかし松本さんが発したのは、「俺は有馬が好きやな」。その言葉で皆の志が一つになった。秋の大目標が、暮れのグランプリに決まった瞬間だった。

 日高地区の生産馬が有馬記念を勝ったのは、17年のキタサンブラックが最後。これも武豊の手綱だった。今年勝てば、自身は5勝目で単独トップに立つ。それでも「あんまり勝ってないんだけどね」と涼しい顔。「だって2着ばっかりで、8回ある。鼻差負けも2回あるしね。(勝利数の)倍やで」。勝利の美酒より多く、苦汁をなめてきた。「あんまり勝ってない」と考えるのは謙遜ではなく、本心からだ。

 昨年、武豊が騎乗予定だったドウデュースはレース2日前に出走を取り消し、ラストランも幻になった。同日に自身も体調を崩し、その週は土日とも騎乗を見合わせ。また、メイショウタバルは登録していたものの、賞金が足りず除外になった。

人馬ともに、24年の“リベンジ”をかけた一戦でもある。

 今春のドバイ・ターフからコンビを組み、今回で4戦目。長所も短所もつかんでいる。「条件はいいよね、やっぱり。距離は分からないけど、折り合いがついたら。(前走の天皇賞・秋の)東京の2000メートルよりはいいんじゃないかな」と、粘り強さを生かせる舞台設定に自信。「1周半の競馬がどうか」と懸念しつつも「天皇賞・秋で、ああやって、ゆっくり走れたからね」と、折り合い面の成長も認めている。

 今年の有馬記念は、5年ぶりに中央競馬の開催最終日に行われる。レジェンドも「めっちゃ盛り上がるやろな」と胸の高鳴りを隠さない。亡くなったオーナーのために、悲願の有馬記念を勝つ―。その夢はまさに、“リアル・ロイヤルファミリー”。25年を締めくくる祭典に、ドラマよりドラマチックな結末が待っている。

(水納 愛美)

 (※)人材派遣会社・株式会社ロイヤルヒューマンの創業社長で、有名馬主。典型的なワンマン社長だが、業界の先行きを見通す力に長(た)け、人とのつながりを大事にする一面を持つ。原作者の早見和真さんは執筆の際、10人ほどの馬主を取材。本紙のインタビューに、そのうちの1人が松本好雄前オーナーだったと明かした。

 ◆日高地区 北海道で馬の一大生産地として知られ、浦河町、新ひだか町、日高町、様似町、新冠(にいかっぷ)町などを指す。ノーザンファーム(安平町)を筆頭とする社台グループが躍進するなか、「ザ・ロイヤルファミリー」のドラマで昔ながらの伝統がある日高の馬が注目を集めてきた。今年の有馬記念ではメイショウタバルの他にエルトンバローズ、コスモキュランダ、マイネルエンペラーが出走予定。

 ◆「ザ・ロイヤルファミリー」 作家の早見和真氏が競馬の世界を舞台に描いた小説で、原作は19年に新潮社から出版された。2019年度JRA賞馬事文化賞、第33回山本周五郎賞を受賞し、今年10月から放送されたTBS系日曜劇場でドラマ化。馬主が主人公の血と夢の「継承」がテーマで、俳優・妻夫木聡が主人公の大手税理士法人に勤める栗須栄治を演じ、20年間に渡る壮大な物語が好評を博した。

編集部おすすめ