電子マネー管理やポイント管理、会員管理、メール配信などを含む統合型販促パッケージ「point+plus」を手がけるアララ株式会社(以下、アララ)が東京証券取引所マザーズに上場承認を受けた。承認日は2020年10月14日で、同年11月19日に上場を果たす。
アララは、「アイディアとテクノロジーで革新的なサービスを提供し、便利で楽しい、みんながハッピーになる社会を創る。」というミッションのもと、キャッシュレスのその先を見据えた事業を展開している。2006年8月の設立からおよそ14年での上場となる。
本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部の情報をもとに、同社のこれまでの成長と今後の展望を紐解いていく。
売上高は5年前比で1.5倍に成長し、営業利益は2年で75倍に

上図は、過去5年間の売上高と営業利益の推移である。
売上高は、2015年8月期に比べて2020年8月期では約1.5倍になっており、上下はあるものの売上を伸ばし続けていることがわかる。また、営業利益は、公表されている2018年8月期より3年間で急激に成長しており、前年期を上回る値を持続的に更新している。2019年8月期には営業利益が1億円を突破し、2020年8月期では営業利益1億3,689万円を達成している。
SaaS型サービスを中心に4つのセグメントを展開
同社は、「キャッシュレスサービス事業」、「メッセージングサービス事業」、「データセキュリティサービス事業」、「その他の事業(ARサービス)」の4つの事業を展開している。
(1)キャッシュレスサービス事業店舗や企業向け、ハウス電子マネーやポイント(注1)などのSaaS型サービス「point+plus」 を提供している。
また、サービス利用履歴をもとに、店舗や企業がメッセージングサービスを活用しエンドユーザーと最適なコミュニケーションを取ることができる、統合型販促ソリューションサービスを展開している。
注1:同社の顧客である、スーパーマーケットや小売店、飲食店等の店舗やeコマースサイトを展開する企業が自社で発行する電子マネーやポイントを指す。
(2)メッセージングサービス事業電子メールを適切なタイミングで一斉に大量配信したい企業や団体に対して、SaaS型メッセージングサービス「repica auto-mail」などを提供している。(3)データセキュリティサービス事業
個人情報などの検出や保管場所への移動、削除などの管理を行うことができるサービス「P-Pointer File Security」を提供している。
金融機関や個人情報を多く取り扱う情報通信事業者などが、個人情報の保護に関する法律に基づいてデータを適切に管理することを実現している。
書籍や、新聞、チラシ、ポスターなどに音や映像などのデジタルの付加価値をつける際に活用されるARサービスを提供している。
スマートフォンARアプリ「ARAPPLI」の提供、米国のFacebook社が運営する「Facebook」や「Instagram」のカメラエフェクト「SparkAR」のコンテンツ制作を受託開発している。

メッセージングサービス事業の売り上げが全体の約5割を占める

セグメント別売上高に注目すると、全ての会計期間で「メッセージングサービス事業」の売上が最も多い。次いで、「キャッシュレスサービス事業」、「データセキュリティサービス事業」、その他事業となっている。
「メッセージングサービス事業」にとって主要市場のひとつがData Management Platform(以下、DMP)市場であり、ITR Market View「メール/Webマーケティング市場2020」によると、2019年度の国内DMP市場規模は109億円であり、前年度比28.2%増が見込まれている。また、2023年度には、市場規模が230億円に達すると予測されている。
また、同社が高成長事業として位置付けている「キャッシュレスサービス事業」の市場については、インフキュリオン、カード・ウェーブ編集部発行「電子決済総覧2019-2020」 によると、国内プリペイド決済市場は、2019年は11兆7,958億円、2025年には20兆1,865億円に成長すると予測されている。
今後も、「メッセージングサービス事業」と「キャッシュレスサービス事業」を中心に事業を展開していく予定だ。
リカーリングビジネスの拡大のための4つの開発戦略とは?
同社は、各事業で顧客との年間契約に基づきサービスを提供している。
月額利用料、決済額に応じた手数料、その両方もしくは年間ライセンス料というリカーリングビジネス(注2)による継続的な売上高を得ることを最重要の戦略と位置付けている。
これらの収益が占める割合は、2020年8月期で全売上の約87.3%にのぼる。その他の12.7%は、初期費用、物品販売、受託開発などで構成されている。
同社は上場後における経営戦略として、リカーリングビジネスの拡大のための4つの開発を計画している。
①より大規模なビジネスに対応できるよう、データ処理能力の向上と原価低減を目的としたパブリッククラウドサーバ(注3)を活用したSaaS型サービスへ完全移行するための開発。②サービス連携パートナーなどの他社システムとの連携を容易にし、長期的に顧客がサービスを利用できるような多種多様なAPIの開発。
③効率的な市場シェア拡大を目指したウェブなどによる受発注システムの開発。
④チャージバックなどのサービスラインナップ拡充のための開発。
注2:「繰り返される」「循環する」ことを目的に、一度の取引で完了するのではなく継続して取引をおこない、安定した利益を得ることができるビジネスモデル。
注3:パブリッククラウドサーバとは、広く一般のユーザーや企業向けにクラウドコンピューティング環境をインターネット経由で提供するサービスのことを指す。
ビジネスの多様化と、開発力・保守運用力を持つ人材の採用が今後の成長の鍵
同社は事業上の対処するべき課題として、以下の7つを挙げている。
①成長サービスにおける新たなビジネスモデルによる業績拡大②優秀な人材の確保
③営業力の強化及び拡大
④システムの安定性の確保
⑤個人情報管理体制の強化
⑥内部管理体制の強化
⑦従業員教育などの支援強化
同社が展開する「キャッシュレスサービス事業」は、今後も市場規模が拡大すると予測されており、大手企業の参入などによる競争激化が見込まれている。そのような環境においても継続的に業績を拡大するために、ハウス電子マネーの強みを活かしたビジネスの多様化を検討している。
また、同社の収益の源泉は、サービスの企画・設計を行う企画力であり、その企画を最新のテクノロジーで具現化する開発力と保守運用力だ。サービスの企画・設計は全て正社員で行っており、その開発を担当する人員の正社員の割合は90%以上となっている。そのため、高度な企画力、開発力と運用力を持つ優秀な人材を積極的に採用し、人材の定着率を高めるために、従業員にとって働きやすい環境づくりに取り組んでいる。
さらに、個々の従業員がミッションやビジョンを理解し、委譲された権限を適切に執行し、あらゆる製造原価、販売管理費の投資対効果を最大化させることができるよう、継続した従業員教育を行っている。一人ひとりが、新しい事業を生み出し、自ら起業できる人材を社会に輩出することが、同社の収益拡大につながると考えているようだ。
VCを中心に累計で4億5,900万円の資金調達を実施

これまで5回の資金調達と4回の新株予約権の行使によって累計4億5,900万円の資金調達を実施したことがわかる。出資元は、リード・キャピタル・マネージメントやNTTドコモ・ベンチャーズ、SXキャピタル、大和PIパートナーズが参画している。
また、事業会社としてはエクイニクス・ジャパン、デンソーウェーブも出資している。
2014年10月31日にはキャッシュレスサービス事業の推進を目的とし、デンソーウェーブから出資を受け、協業契約を締結した。直近の2020年9月には、キャッシュレスサービス事業におけるチャージバックシステム(注3)の顧客店舗などへの提供を目的として、東芝テックとの業務提携契約締結に至った。
注3:エンドユーザーが特定メーカーの商品を購入すると、当該メーカーの販売促進費を原資とした電子マネーが当該エンドユーザーに付与される同社システムを指す。
想定時価総額と上場時主要株主
上場日は2020年11月19日を予定しており、上場する市場はマザーズとしている。
今回の想定価格は、1,385円である。調達金額(吸収金額)は12.63億円(想定発行価格:1,385円×OA含む公募・売出し株式数:912,000株)、想定時価総額は84.83億円(想定発行価格:1,385円×上場時発行済株式総数:6,125,400株)となっている。
公開価格:1,400円初値:3,080円(公募価格比+1,680円 +120.0%)
時価総額初値:188.66億円
※追記:2020年11月20日(上場日)

筆頭株主は、同社代表取締役社長である岩井陽介氏であり、28.73%を保有する。次いで、倉庫・運輸関連業を展開するLivioが6.10%、NTTドコモ・ベンチャーズが運営するドコモ・イノベーションファンド投資事業組合、大和企業投資が運営する大和ベンチャー1号投資事業有限責任組合、産業用機器を製造するデンソーウェーブ、環境エネルギー投資が運営するEEIクリーンテック投資事業有限責任組合がそれぞれ5.67%を保有している。
そのほか、岩井陽介氏の資産管理会社であるIWAI GROUP PTE. LTD.や寺田倉庫、ビットキャッシュが大株主に名を連ねている。
※本記事のグラフ、表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考