2018年1月1日から2020年12月31日の間に設立され、資金調達を行った国内スタートアップは667社、累計資金調達額は2,094億であった。1社あたりの平均資金調達額は3.1億円となっている。

本記事ではSTARTUP DBを参考に、2018年1月から2020年12月までの設立3年以内で資金調達を実施した国内スタートアップをランキング形式で20社ピックアップした。

サイバーセキュリティサービスを提供するBlue Planet-worksが、累計150億円の調達でトップに

2018〜2020年に創業されたスタートアップ資金調達ランキング

設立3年以内の国内スタートアップ資金調達ランキングでは100億円を超える資金調達を行った企業は4社であった。1社あたりの平均資金調達額である3.1億円と比較してもとりわけ大きい。

ランキングトップは累計で150.4億円を調達したBlue Planet-works。2018年2月に設立された同社は、OSプロテクト型セキュリティプラットフォーム「AppGuard」を開発・提供する日本発のグローバル・サイバーセキュリティ・カンパニーである。

2020年9月には、富士ゼロックス(注1)を引受先とする3億円(登記簿情報より推計)の資本業務提携契約を締結。富士ゼロックスは、サイバーセキュリティ製品「AppGuard」を販売していくにあたり、人的資源の投入、また同サービスを活用した将来の両社のセキュリティ事業拡大に資する協業の可能性を検討することに合意した。

2位にランクインしたのは、2018年1月に設立されたディーカレット。デジタル通貨の取引・決済を担う金融サービス事業を展開しており、これまでに113.8億円を調達している。

また、野村ホールディングスや伊藤忠商事などの各業界を代表するリーディング企業との合弁会社として設立された同社は、国内最大規模のインターネット接続サービスを展開するインターネットイニシアティブの持分法適用会社(注2)である。

2020年4月には、仮想通貨(暗号資産)取引サービス「ディーカレット」の増進に加え、デジタル通貨・決済サービスの拡大に向けた開発・ビジネス推進を目的に、インターネットイニシアティブより27億5,400万円の調達を実施している。

注1:2021年4月1日付けで社名を「富士フイルムビジネスイノベーション株式会社」に変更予定。
注2:投資会社の連結財務諸表に、純資産および損益の一部を反映させる持分法が適用される、被投資会社のこと。

(出典:野村総合研究所

累計109.1億円を調達したSynspectiveは3位にランクイン。データに基づき、着実に進歩する世界の実現を目指し、衛星による観測データを活用したワンストップソリューション事業を行う。

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2018〜2020年に創業されたスタートアップ資金調達ランキング

創業期のスタートアップに最も多くアプローチしている投資家は?

2018〜2020年に創業されたスタートアップ資金調達ランキング

設立3年以内のスタートアップへの出資件数が20件以上の投資家をランキング形式でピックアップした。

設立3年以内のスタートアップにもっとも多く出資したのは、独立系ベンチャーキャピタルのイーストベンチャーズで、投資件数は37件である。日本およびアジア、米国のIT分野のスタートアップ企業を中心に投資を行なっている。代表を務める松山大河氏は、ネットエイジ、eグループなどを経て、エンジェル投資組合クロノスファンドを設立した経歴を持つ。

主なEXIT実績としては、BASE、Gunosy、gumi、メルカリ、ツクルバ、メドレー、Branding Engineerなど。2018年IPO 最もキャピタルゲインを稼いだ投資家ランキングでは、273億円のリターンを獲得し、7位にランクインをした。

また、同社はヤフーのコーポレートベンチャーキャピタルであるYJキャピタルと共同で、創業からシリーズAまでを支援するアクセラレータープログラム「Code Republic」を展開しており、シードラウンドに特化した出資をしている。

 

次いで30件と2番目に出資件数が多かったのはインキュベイトファンドだ。創業期の投資・育成に特化した独立系ベンチャーキャピタルである。 

創業以来総額400億円以上の資金を運用し、関連ファンドを通じて300社以上のスタートアップへ投資活動を行うなど、シード出資に関して国内最大規模の実績を有している。 

また、より創業期に近い起業家との接点として、2010年からシードアクセラレーションプログラム「Incubate Camp」を運営をしている。

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2018〜2020年に創業されたスタートアップ資金調達ランキング
 

表外ではあるが、個人投資家に着目すると、有安伸宏氏、中川綾太郎氏、佐藤祐介氏が10件以上の投資を実施している。いずれも自社のExit経験を持つ起業家で、エンジェル投資家としての一面を見せる。 

この3人から出資を受けているのが、資金調達業務を効率化するサービス「smartround」を展開するスマートラウンド、電動キックボードのシェアリング事業「LUUP」を展開するLuupだ。 

スマートラウンドは、三菱商事、Harvard Business School、米国独立系VCであるGlobespan Capital Partnersを経てロケーションバリューを起業、NTTドコモにロケーションバリューを売却したのち、Googleに入社した経歴を持つ砂川大氏が代表を務める。2018年5月に設立された同社は、累計で1億5,500万円を調達している。

 

Luupは、東京大学を卒業後、戦略系コンサルティングファームにて上場企業のPMI、PEファンドのビジネスDD(デューデリジェンス)を担った岡井大輝氏(以下、岡井氏)によって2018年7月に創業された。その後の2019年5月、岡井氏は国内の主要電動キックボード事業者を中心に、新たなマイクロモビリティ技術の社会実装促進を目的とする「マイクロモビリティ推進協議会」を設立し、会長に就任している。

同社はこれまでに9億500万円を調達しており、日本での電動マイクロモビリティの社会普及に尽力している。

  

出資件数の多い事業会社&CVCランキング

2018〜2020年に創業されたスタートアップ資金調達ランキング
 

設立3年以内のスタートアップに対して、7社以上の出資を行っているCVCと事業会社をランキング形式にしてピックアップした。 

ランキングのトップ5に位置するのは、CVCのサイバーエージェントキャピタル、FGN ABBALab、PKSHA Technology capital、事業会社であるアカツキ、DMM.comだ。

サイバーエージェントキャピタルは、日本・米国・中国・台湾・インドネシア・ベトナム・タイでシード・アーリーステージのスタートアップを支援するベンチャーキャピタル。国内トップクラスのシェアを誇るインターネット広告事業を展開するサイバーエージェントのCVCであり、近年ではビザスク、 BASE、SansanなどのIPO実績を有する。

 

FGN ABBALabは、2019年9月に福岡地所とABBALabが共同で設立したCVC。福岡から「ユニコーン企業」が絶えず生まれるスタートアップエコシステムの形成を目指し、その地域に根ざしたアクセラレータープログラムを展開している。ファンドの設立に当たり、孫泰蔵氏がファウンダーを務めるMistletoe Venture Partnersや西日本シティ銀行からの出資、協賛を得ている。

 

2位にランクインしているのは、モバイルゲーム事業とリアルな体験を届けるライブエクスペリエンス事業を展開するアカツキだ。同社は、2018年11月に設立した投資ファンドである”Heart Driven Fund”を運営しており、同ファンドを通じた出資を活発に行っている。また、アカツキ出身の片石貴展氏が代表を務めるyutoriにも株主として参画しており、ZOZOグループへのM&Aを成功させた。

 

DMM.comは出資件数8件で4位にランクイン。会員数3,400万人を突破する総合エンタメサイト「DMM.com」を軸に、40を超えるインターネットサービスを展開する。直近では、マンガに特化した機械翻訳サービス「Mantra Engine」の研究開発を行うMantraや慶應義塾大学生専用の時間割アプリ「Penmark」を運営するペンマークに出資を行っている。

 

関連記事:「40以上の事業を持つ強みを生かせ」DMMがCVCをつくる理由

2018〜2020年に創業されたスタートアップ資金調達ランキング

事業会社とスタートアップの資本業務提携に注目すると、2020年12月にDMM.comは、地理空間情報のアプリプラットフォーム「mapry」を運営するマプリィと資本業務提携を締結している。マプリィは、一次産業やレガシーな産業をアップデートしていくことで新しいビジネス、市場の開拓を進めている。DMM.comは、林業や森林管理分野におけるテクノロジーの活用による生産性向上に向けた同社の理念に賛同したとのことだ。

さらに、表外ではあるが、出資件数5件で7位にランクインしている電通グループは、2020年11月に量子コンピュータのソフトウェアを開発するエー・スター・クォンタムと資本業務提携を締結。量子コンピュータを活用したテレビ広告枠の組み合わせ最適化と運用の高速化により、新たなマーケティングソリューションの開発・実装を目指している。

大手企業とスタートアップの連携は、リスク許容の度合いや市場規模の過小評価によって実現が難しい場合が往々にして存在する。 

しかし、日本が事業創造を推進していくためには、大手企業がスタートアップの知見を採り入れ、スタートアップが大企業の支援を受けるというように、互いが手を取り合い経営を支えることで、事業の成長速度や規模が大きく変わる。スタートアップが成長の種を提供し、それを大企業が多様な経営資源で後押しすることは提携におけるひとつの手である。

STARTUP DBは、今後も成長産業の情報プラットフォームとして、様々な観点からスタートアップの動向に注目していく。

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