テキストマイニングツール「見える化エンジン」などを提供する株式会社プラスアルファ・コンサルティング(以下、プラスアルファ・コンサルティング)が東京証券取引所マザーズに上場承認された。承認日は2021年5月27日で、同年6月30日に上場を果たす。
プラスアルファ・コンサルティングは「見える化プラットフォーム企業を目指します。」をビジョンに掲げている。自然言語処理とデータマイニングの技術から成るテキストマイニングの技術をベースに、世の中に溢れる膨大な情報を「見える化」するサービスを中核に事業を展開する。
本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部の情報をもとに、同社のこれまでの成長と今後の展望を紐解いていく。
売上高は4年で2.7倍、経常利益も安定的に増加

上図は過去5年間の売上高と営業利益の推移である。売上高は2016年9月期から2020年9月期の4年で、約2.7倍に成長。営業利益は、公開されている2019年9月期より黒字を継続。2021年3月の時点で10億円を突破しており、更なる増益が見込まれる。
情報通信サービス市場においては、デジタル化シフトが続いており、業務の自動化や効率化につながるソフトウェアの需要は高水準を維持している。同社が事業領域を置いているSaaS型クラウドサービスは、システムの拡張性が高く、導入までの期間やコストなどのハードルが低いため、企業規模や業種を問わず投資意欲が高く、市場が安定的に成長している。
このような経営環境の中で、同社は先進的なテクノロジー活用によるビッグデータを可視化する技術を武器に様々な領域でサービスを展開し売上を拡大。特に、人事情報を見える化するタレントマネジメント分野を中心とした、営業・コンサルタント・開発エンジニアの人員強化や、積極的な宣伝広告などの成長投資の実施が増収増益の要因とみられる。
データの可視化を実現、3つの領域でSaaS型事業を展開
同社は、自然言語処理とデータマイニングの技術から成るテキストマイニングの技術をベースに、世の中に溢れる膨大な情報を「見える化」するサービスを中核として事業を展開している。3つの事業に区分しており、その内容は次のとおりだ。
(1)見える化エンジン事業大量の顧客の声を“見える化”するマーケティング領域のテキストマイニングツール「見える化エンジン」を提供。
BtoC事業者向けの統合マーケティングプラットフォーム「カスタマーリングス」を提供。「カスタマーリングス」は、EC事業者や小売業などの企業を中心として、オンラインマーケティング施策の検討や実行に採用されている。2011年7月のサービス開始以来、累計で592社(2021年3月31日時点)に導入されており、その実績から培ったCRM(注2)ノウハウと、データマイニングなどの分析技術を凝縮したマーケティングオートメーション(注3)を融合させることで、最新のトレンドに合わせて常に進化を続けている。(3)タレントパレット事業
人事情報を「見える化」するタレントマネジメントシステム「タレントパレット」を提供。人材活用による社員パフォーマンスの向上に取り組む人事の企画・戦略において活用されている。社内に散在する社員のスキル、適性、モチベーション、キャリア、人事評価、従業員アンケート、採用情報等の人事情報を集約・分析して「見える化」することが可能だ。最適配置や離職防止、採用の効率化を実現する科学的人事(注4)のプラットフォームとなっている。
注1:NPSとは、「Net Promoter Score」の略。企業やブランドへの愛着や信頼度を数値化する指標。
注2:CRMとは、「Customer Relationship Management」の略。顧客情報や顧客対応履歴を蓄積・活用することで、顧客関係の構築、顧客情報の管理を行う方法。
注3:マーケティングオートメーションとは、獲得した見込み客の情報を一元管理し、主にデジタルチャネル(メール、SNS、Webサイトなど)におけるマーケティングを自動化、可視化する方法。
注4:科学的人事とは、経験や勘ではなく人材データの活用により人事戦略を進める取り組みのこと。

タレントパレット事業が収益の柱、売上の約5割を占める

カテゴリー別売上高は、2021年3月期時点でタレントパレット事業が5割を占めており、見える化エンジン事業が3割、カスタマーリングス事業が2割となっている。
新規顧客を獲得するための活動としては、マス広告やWeb広告などによるオンラインマーケティング、展示会へのイベントへの参加がメインだ。同社サービスに関心をもつ顧客を集客し、サービス説明やデモを実施しながら受注を獲得している。
また、コロナ禍おいて、一部の業種での解約や、展示会などのイベント縮小があったものの、営業活動をWebセミナーなどに切り替え、オンラインでのサポート充実に活動をシフトした結果、事業への影響は軽微となった。
タレントパレット事業は、導入企業へのコンサルティングを通じて蓄積された分析ノウハウや活用方法などをサービス強化に結び付けている。足元では「採用管理機能」「後継者育成機能」「組織診断機能」などのサービス強化を図るほか、Webセミナーの積極開催などの施策により引き合いが増加している。これにより、2021年3月期における売上高は1,405,194千円、利益は708,866千円となった。見える化エンジン事業では、ツール単体だけでなく、分析ノウハウや分析結果の活用方法などをコンサルティング事業として提供し、受注案件の大型化が進んでいる。2019年の国内SaaS市場は6,016億円、今後も堅調に推移する見通し
同社の属する国内ソフトウェア市場は、富士キメラ総研「ソフトウェア ビジネス新市場2020年版」によると、2019年度において1兆3,744億円に達し、うちSaaS市場は6,016億円と全体の43.8%を占めている。また、同市場の成長は今後も堅調に推移する見通しで、2024年度には国内ソフトウェア市場は1兆9,889億円の規模に達すると予測されている。
システム導入期間の短期化や導入コストの低減を図れること、API(注5)連携による他システムとの連携が容易であることから、国内ソフトウェア市場の中でも特にSaaS型サービスが市場の成長を牽引している状況にある。
同社の事業領域であるテキストマイニングツール分野、CRM分野およびHRテック分野においても、企業のデジタル化シフトによる働き方の見直しや業務の自動化・効率化などへの取り組みが続いており、それらを支援するソフトウェア(特に同社が手掛けるSaaS型クラウドサービス)については需要が維持され、いずれも市場拡大が見込まれるものと予想されている(出所:同上)。
2020年3月以降については、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて経済活動全般において停滞が見られた。同社においても、観光、旅行、レジャーなどの一部業界の顧客から解約や値引き要請などが若干発生したものの、全体に占める割合は小さく影響は限定的となっており、現状では、コロナウイルス感染拡大以前と変わらず、顧客数の増加と低い解約率を継続している。
注5:APIとは、「Application Programming Interfaceの略。ソフトウェアからOSの機能を利用するための仕様又はインターフェースの総称で、アプリケーションの開発を容易にするためのソフトウェア資源のこと。
HR分野への本格展開、コンサルティング力強化を進める
同社は今後の新たな分野での事業展開を見据え、また既存事業の基盤強化を図るために以下の戦略を進めていく方針だ。
①タレントマネジメント領域への積極投資とHR分野への本格展開働き方改革や労働人口減を背景に、人材活用の質的向上や効率化を目指した人事系ソフトウェアの需要が拡大している。同社はタレントマネジメント領域へ積極投資を行い、HR分野へのサービス進出を積極的に進めたいと考えている。
具体的には、人材情報プラットフォームに蓄積された情報やデータ分析結果を活用することが軸だと考えられている。既存の人事分野の業務(人材紹介・採用、研修・育成、福利厚生・イベント、ヘルスケアなど)において、精度の高い採用手法や社員教育の効率化手法などを開発し、より実効性の高いサービスの展開を図っていく予定だ。②ビッグデータと分析テクノロジーのプラットフォーム戦略
同社は、様々なデータソースや分析機能をワンストップで取り扱えることで、サービスの付加価値が向上し、顧客にとっての魅力が更に高まると考えている。このため、サービスが取り扱うデータ種類の拡充を図るとともに、顧客の利用シーンに合わせた豊富な分析機能を用意することを継続して推進する予定だ。③コンサルティング力強化による高付加価値化と大型案件創出
同社では、コンサルティング業務を通じて、顧客業界の市場特性や課題解決に直結する分析などの知識や経験が蓄積されている。これらの知見を活かして、新たなサービス開発につなげるほか、高付加価値のコンサルティングを提供し、大型のソリューション案件の創出を推進する。
サービスの付加価値創出と認知度向上&マーケティング強化が今後の成長の鍵
同社は、主な経営指標として売上高、営業利益、営業利益率を重視している。
さらに、経営方針および経営戦略を実行していく上で、優先的に取り組むべき課題として以下の6つを挙げている。
①優秀な人材の確保②サービスの付加価値創出
③認知度向上とマーケティング強化
④情報管理体制の強化
⑤システムの安定的な稼働
⑥社内管理体制の強化
SaaS型サービスは、導入費用の低さや導入までの期間の短さから認知度が高まっており、今後も成長が継続すると予想されている。一方で、新規参入者や競合事業者が参入してくることで、今後はサービス提供者が増え、価格競争が進むものと同社は考えている。このため、顧客ニーズに合わせてサービスを進化させるとともに、新機軸のサービスを取り入れ差別化を図る方針だ。
また、今後は更に顧客基盤を拡大させるため、サービスの認知度を一層高めることが不可欠だとしている。幅広い顧客層にリーチするため、新しいマーケティング手法を取り入れるほか、マス広告などのメディア活用も取り入れる方針だ。
野村キャピタル・パートナーズへの51億円超の株式移動を確認
2019年3月に野村キャピタル・パートナーズは、野村キャピタル・パートナーズ第一号投資事業有限責任組合を通じ、プラスアルファ・コンサルティングの普通株式を取得している。
プラスアルファ・コンサルティングは新たに社外取締役を受け入れ、野村キャピタル・パートナーズは同社への顧客企業の紹介などを通じて成長の後押しを行い、2019年時点において、将来のIPOも視野に入れる方針を示していた。
発表当初、取得額と出資比率は非公表であったが、新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部より、2019年3月11日付けで同社代表取締役社長の三室克哉氏や取締役副社長の鈴村賢治氏をはじめとした既存株主から野村キャピタル・パートナーズへの株式移動があったことが明らかになった。確認できた限り、その総額は51億5,200万円にのぼる。
また、プラスアルファ・コンサルティング側は、同株式移動は資本政策の一環だと位置付けている。
想定時価総額と上場時主要株主
上場日は2021年6月30日を予定しており、上場する市場は東証マザーズとしている。また、野村証券が主幹事を務める。
今回の想定価格は、1,940円である。調達金額(吸収金額)は211.77億円(想定発行価格:1,940円 × OA含む公募・売出し株式数:10,916,300株)、想定時価総額は、776.97億円(想定発行価格:1,940円 ×上場時発行済株式総数:40,050,000株)となっている。
公開価格:2,300円初値:2,720円(公募価格比+420円 +18.26%)
時価総額初値:1089.36億円
※追記:2021年6月30日

筆頭株主は同社代表取締役社長の三室克哉氏で、全体の36.51%の株式を保有。次いで、野村キャピタル・パートナーズが運営する野村キャピタル・パートナーズ第一号投資事業有限責任組合が34.18%の株式を保有している。
同社取締役副社長の鈴村賢治氏は21.93%の株式を所持しており、ヴァリューズの取締役社長である辻本秀幸氏は1.21%の株式を保有している。その他、同社の取締役と従業員が名を連ねている。
※本記事のグラフ、表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考
