本メディアをご覧のみなさまの多くは、エンジェル投資家という言葉を聞いたことがあるだろう。しかし、彼らがどんな人物で、具体的にどのような業務を行なっているのかと聞かれると、実は正確に知らない、なんてことはないだろうか。
エンジェル投資家とは、スタートアップに個人で投資を行う人のことを指しており、その多くは事業を成長させた経験を持つ起業家によって構成される。
スタートアップが著名なエンジェル投資家に投資をしてもらうことは、資金を調達するだけでなく、自社の広報にもつながり、上場や売却といったEXITを経験している起業家からのアドバイスを受けることもできる。そのため、資金調達手段のひとつとして浸透している。
同じくスタートアップに投資をするベンチャーキャピタル(以下、VC)と大きく異なる点は、投資担当者だ。VCで働いている人は、投資を主軸として活動しており、コンサルタントや金融会社で経験を積んできた人が比較的多い。
一方で、エンジェル投資家の多くは起業家として成功し、多額の資金を得ている。自分たちで事業を創ってきた人も多い。この経験があるからこそ見える視点がある。孤独とも言われる起業家の境遇を経験したからこそ、起業家の苦悩や苦労に対する共感もできる。これまで歩んできた道のりが違うため、VCとは異なる視点で投資を実行していると考えられる。
エンジェル投資家もリターンを一定求めて投資を実行していることが多い。つまり、著名なエンジェル投資家からの資金調達に成功するということは、成功した起業家からほかのスタートアップと比較して、事業の成功する確率が高いと認められているということなのだ。
これは、大きく成長する可能性を持つスタートアップの情報を見つけたいときに「どのエンジェル投資家が投資をしているのか」という視点を持つことによって、簡単に探せることを意味している。新規事業のリサーチや転職の際など、より効率的にスタートアップの情報を探す時にぜひ参考にしてもらいたい。
しかし、エンジェル投資家全員を覚えることは難しいため、今回はその中でもとくに投資家としても実績を残している人をランキング形式として8人ピックアップした。
以下のランキングは、STARTUP DB、ANGEL PORTを参考に、個人として10社以上投資をしているエンジェル投資家の中で、EXIT件数が多い順に並べたものである。

dely株式会社は連結子会社化されたため、EXITと判断。第1位:EXIT 6件

投資件数:53
M&A:4(Increments / ラップス / 3ミニッツ / dely)
IPO:2(PKSHA Technology / イグニス)
在学中にEC事業を経験した後に、Googleに入社し広告製品を担当。その後、フリークアウトに創業期から参画し、イグニスにも社外取締役として参画。同時期にその2社を上場へと導いた経験をもつ経営者。heyの代表取締役としても現在は活躍中。第2位:EXIT 5件■川田尚吾
投資件数:20
M&A:2(バスケット / Quipper)
IPO:3(ウォンテッドリー / フリークアウト・ホールディングス / はてな)
マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、DeNAを南場氏と共に創業し、取締役COOとして東証一部への上場を導いた人物。現在はエンジェル投資家として活動している。
投資件数:16
M&A:0
IPO:3(みらいワークス / エルテス / ZUU)
学生時代からオークション事業を立ち上げた後、オークファンを設立。同社を東証マザーズに2013年に上場させ、現在も代表取締役を務めている。■木村新司
投資件数:17
M&A:0
IPO:3(gumi / ウォンテッドリー / Spotify)
ドリームインキュベータにて活躍した後に、アトランティスを創業。2011年に同社をグリーへと約17億円で売却した経験をもつ。その後はグノシーの代表取締役を務め、Anypayを創業。現在は自身のファンドも設立しており、国内外問わず投資している。■福島良典
投資件数:17
M&A:3(Candle / 終活ねっと / dely)
IPO:0
東京大学大学院在学中に「Gunosy」のサービスを開発し、2012年にグノシーを創業。2013年にIPA未踏スーパークリエータにも選出され、2015年に同社をマザーズ上場、2017年に東証一部への市場変更に導いた経営者。現在は同社のブロックチェーン事業を展開する、LayerXの代表取締役を務める。■有川鴻哉
投資件数:12
M&A:3(Candle / 終活ねっと / dely)
IPO:0
女性向けのキュレーションメディア「MERY」を展開していたペロリの創業メンバーで、デザイン、SEOの部署を管轄していた人物。現在はHotspring社を創業し、「ズボラ旅」を展開しており、現在はエンジェル投資家としての活動を休止中。第7位:EXIT 2件
■有安伸宏
投資件数:16
M&A:1(Conehito)
IPO:1(マネーフォワード)
新卒でユニリーバ・ジャパンに入社し、2007年にコーチ・ユナイテッドを創業。
投資件数:42
M&A:2(葵 / Loco Partners)
IPO:0
リクルートにて新卒入社、サイバード、現KLabの取締役として活躍。2009年にコロプラを設立し、取締役副社長に就任。2012年東証マザーズIPO、2014年東証一部上場へと導いた。現在はドローンファンドのパートナーやリアルテックファンドのクリエイティブマネージャーなども務めており、多数の投資経験を持つ。
エンジェル投資家という観点からみたスタートアップ

エンジェル投資家のEXIT件数がVCと比較すると多くないのは、投資フェーズと期間が関係している。
エンジェル投資家はあくまで個人として投資を実行するため、VCほど大きな額を拠出する事はできない。すなわち、事業がまだ未熟な段階において投資をすることが多く、投資対象企業の不確定要素も大きい。
また、ランキングに登場した川田氏以外のエンジェル投資家は2011年以降にEXITを経験しており、直後に投資を開始したと考えても、まだ8年しか経過していない。投資先の多くが現在も成長過程にあるため、今後はよりEXIT件数が増えると考えられる。
一方で、不確実性が高い時期に投資しているにも関わらず、投資先が短期間でEXITしているエンジェル投資家は極めて高いパフォーマンスを出しているといえる。
今回の情報をもとに、今後は「どのエンジェル投資家が投資をしているのか」という視点を持ちながら、スタートアップを見てほしい。そうすれば、より効率的にスタートアップの情報を得られるはずだ。