沖縄県では、低所得や賃貸物件の空室不足などの事情から、住まいに困っている人が多くいます。1986年に「住まいに困る人を減らしたい」と家賃債務保証をスタートさせた不動産会社のレキオスは、沖縄の住まいの支援を牽引する存在として現在も奔走しています。
レキオスが取り組み続ける「沖縄の貧困」問題。賃貸稼働率は99%超の市も
沖縄県というと、国内外から多くの観光客が訪れる華やかで自然豊かな観光地を思い浮かべる人が多いかもしれません。都市部では近年、宿泊施設や商業用地の需要が増え、不動産価格は高騰し、それに伴って家賃も急上昇。沖縄県は借家率も高く、賃貸物件の空室も少ないことから、低価格の民間賃貸住宅が圧倒的に不足しています。沖縄県内の賃貸住宅の稼働率は90%を超え、石垣島市や宮古島市などのリゾート地では稼働率99%を超えるところも。

沖縄県内の家賃水準は地域差が見られるものの、上昇が続く。この資料では2022年(令和4年)までなので、2025年現在ではさらに上昇していると推測される。生活保護の住宅扶助(単身世帯)の上限3万2000円(那覇市)で入居できる物件は限られるだろう(資料引用元/沖縄振興開発金融公庫レポートNo.192)

沖縄県内では賃貸住宅の稼働率は90%を大きく超える。空室が少ないため、住まいに困っている人たちが新たに借りられる部屋もほとんどないのが現状(資料引用元/沖縄振興開発金融公庫レポートNo.192)
一方、実際に生活している県民の暮らしを見ると、沖縄県民の一人当たりの所得は全国平均の7割程度。失業率も全国平均を上回っており、生活に困窮している人が少なくないことがわかります。行政の支援策は、生活保護を受給する人に対する住宅扶助(単身世帯)の上限が3万2000円(那覇市)と賃貸相場に比べてかなり低く、公営住宅も空きのない状況で、住まいの事情は決して良いとは言えません。
「安心して暮らせる社会をつくりたい」家賃債務保証会社としてスタート
このような中で40年近くもの間、沖縄県で住まいに困る人たちを支援するためのさまざまな事業を展開してきたレキオスの前身は、1986年に創業した「沖縄信用保証」という家賃債務保証会社でした。
「創業者の宜保文雄(ぎぼ・ふみお)は母子家庭で育ち、母親が住まい探しに苦労する姿を間近で見てきたことから、『誰もが安心して暮らせる社会を実現したい』との思いで会社を立ち上げました。当時は家賃債務保証の仕組みがまだ一般的ではない時代。住まいに困っている人や連帯保証人を立てられずに賃貸住宅を借りられない人たちを支えるべく、事業をスタートしました。『安心して借りたい入居者』と『安心して貸したい家主』双方に寄り添い、信頼関係を築くことにこそ、レキオスの居住支援(住まい確保に困っている人たちへのサポート)の原点があります」(レキオス・下地さん、以下同)
その後も、現場に寄せられる相談に応える中で、入居者総合保険、24時間対応のコールセンター、通信など、事業の幅を広げてきました。中でも現在の居住支援の礎となったのは、2008年に関わり始めた、障がいのある人たちの地域生活を支える「居住サポート事業」です。障がいのある人が自立して社会で暮らそうとしても、貸主は家賃滞納や生活トラブル、緊急時の対応といった不安から障がいのある人に貸すのをためらう傾向があります。
「貸主の不安を軽減するために、私たちがすでに提供していたサービスを活かせると気付いたのです。部屋探し、貸主との調整、契約支援、入居後のサポートまで一体化した居住支援モデルを構築し、浸透させていきました」

暮らしのさまざまなトラブルに対応する24時間対応の「レキオスホットライン24」。入居者と貸主双方の不安を解消するために2003年に事業開始。今でこそよく見られるサービスだが、当時としては画期的な取り組みだったと言える(画像提供/レキオス)
さらに2014年からは、住まいの確保に困っている人たちの受け皿である公営住宅の指定管理者として暮らしの課題に取り組むことに。「暮らしの課題に触れる中で、民間賃貸住宅における支援の在り方についても考える機会が広がった」と言います。2021年には県の指定を受け、住まいの確保に困っている人の民間賃貸住宅への入居を支援する団体である「居住支援法人」としての活動を本格化しました。
現在、レキオスで居住支援に従事しているのは、宅地建物取引士の資格を持つ2名と、福祉分野に精通している専門員2名の計4名。ただし、居住支援は単なる1事業ではなく、創業時からレキオス全体で共有してきた理念の核です。そのため専任担当に限らず、全社員が「安心して暮らせる住まい」を支える意識を持ち、居住福祉の視点を重視した人材育成にも注力しています。

レキオスでは住まい探しに困っている人たちに必要なサービスという視点から、さまざまな事業をグループ内の8社で分担。事業基盤を支えつつ、社会課題の解決を継続している(画像提供/レキオス)
「長生きしてごめんね」家賃債務保証会社だからこそキャッチできる、住宅喪失のアラート
レキオスが日々、住まいの確保に困っている人たちと向き合う中で実感するのは「住まいは人の暮らしの根幹に深く関わるもの」だということです。
ある日、家賃滞納の連絡を受け、下地さんが高齢の入居者を訪ねた時のこと。玄関先でかけられたのは、こんな言葉でした。
「長生きしてごめんね」
続けて「ここまで長生きするとは思わなかった。貯金も尽きて家賃の支払いも厳しい」と話すその表情には、長生きしたことへの自責の念と諦めが滲んでいました。
実際、生活保護の申請を勧めても「迷惑をかけるようで申し訳ない」とためらう人も多いそう。下地さんは「人生100年時代と言われるようになり、戦後を支えた世代が最期まで安心して暮らすには、まだまだ制度に課題を感じる」と語ります。

人生100年時代。
下地さんによれば、家賃滞納は「住宅喪失のアラート」。家賃の滞納が続けば、まず家賃債務保証会社であるレキオスに連絡が行きます。単なる家賃保証業務にとどまらず、滞納の背景にある事情に寄り添い、面談を重ねながら生活状況を把握することもレキオスの業務の一環です。

滞納は住宅喪失のアラート。少しでも兆候が現れれば入居者を訪問し、どのような問題を抱えているのかを探り、安定した生活を取り戻すために伴走する(画像提供/レキオス)
住まいの「確保」だけでなく、「喪失させない」ための支援の行方
那覇市の地域包括支援センターでは、生活保護を受給する人を含む住まいに困っている人からの相談が年々増加しています。特に、高齢者から寄せられる相談は深刻さを増している状況です。こうした課題に対応するため、那覇市とレキオスが連携して2023年に「住まいサポート事業」を立ち上げました。
現在、レキオスから2名のスタッフを那覇市役所に派遣し、ケースワーカーや他の居住支援法人らと連携しながら必要な支援をコーディネート。それぞれの強みを活かした役割分担によって入居支援にとどまらず、入居後の生活も見据えた包括的な居住支援を目指しています。また、必要に応じて関係機関の支援制度・窓口へつなげたり、社会福祉士など専門知識を有する職員による個別支援を行ったりと、安定した日常生活へと立て直すために伴走的な支援も行っているそうです。
「私たちの実感では、滞納の約9割が経済的な困窮に起因しています。例えば、生活保護を受けながらも金銭管理が難しく滞納に陥る方もおり、代理納付制度が導入されていない世帯では住宅喪失のリスクが高まるのです。
居住支援の現場では『住まいの確保』が中心となっていますが、『住まいの喪失を未然に防ぐ』ことこそが、私たち家賃債務保証会社として最も重要な使命だと痛感しています」

家賃債務保証を通じて、誰もが安心して入居できる仕組みの普及に尽力してきた功績が認められて、社会貢献支援財団の第56回社会貢献者表彰を受賞した。「住まいを喪失させないことこそが私たちの重要な使命」と下地さんは言う(画像提供/レキオス)
制度の隙間、行政担当者の入れ替わりを埋め、支援体制を推し進める
今から15年以上前の2008年当時、自立支援法の改正を受けて那覇市でいち早く障がい者の居住サポートを事業化できたことを振り返ると、下地さんは「市の担当者の尽力によるところも大きい」と言います。
「私たちのような民間企業が制度を使う側として自治体の関係部門の知識アップや連携の活性化を図りつつ、熱量のある自治体担当者と共に居住支援を推し進めていくことが今後の鍵となるでしょう」
また、物件の不足については「住宅セーフティネット制度で求めている基準全てを満たさなくても、住まいとしての安全性を確保した上で改修して物件を提供できれば、解決方法が見出せるのではないか」とも。
現場では、課題を抱える人がいても、適切な支援につながれず埋もれてしまうケースが後を絶ちません。「制度を案内しても、本人が動けない」「支援を望まないことで介入できない」といったジレンマに直面することもあります。
そうした“届かない声”に応えるため、下地さんが次なる展望として思い描いているのが、主に入居後の支援を行う、ベテランのケアマネージャーなど、ソーシャルワークに長けた人たちによる支援体制の構想です。
必要に応じて現場を訪問し、支援や制度への橋渡しをする“つなぎ役”となることで「暮らしを守る最後の砦になれるのでは」と考えています。
「民間の立場からこそ築ける信頼関係と調整力を、地域の支え合いの仕組みへとつなげていきたい──それがレキオスの次の挑戦です」

下地さんが大学生に地域福祉のコミュニティや居住支援について講義を行う様子。行政や賃貸管理会社の担当者を対象とした勉強会も開催しているという(画像提供/レキオス)
このように、沖縄には地域独特の事情から他の地域と同じようには居住支援を行えない苦悩があります。住まい探しに困っている人たちへの支援がなかなか進まない状況の中、日々寄せられる相談に向き合っている居住支援の現場では、同じところで足踏みをしているようなもどかしさもあるかもしれません。
しかし1986年の創業から、沖縄の居住支援を牽引してきたレキオスは、ここで紹介した以外にも多くの福祉的な事業に取り組んできました。このノウハウや経験、そしてそれに基づくアイデアは、沖縄における居住支援をさらに前進させるエネルギーになるでしょう。
●取材協力
レキオスグループ