ローカルイノベーションのカギとして注目される「関係人口」。「観光以上移住未満」の立ち位置で特定の地域と関わる人たちのことを指します。

未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』の編集長、指出一正(さしで・かずまさ)さんは10年以上前から「関係人口」の広がりをけん引してきました。その間に地域との関わり方は多様化。日本だけでなく海外からもオンラインでつながりをもつケースも生まれています。そんな関係人口の「今」と「未来」について指出さんに聞いてみました。

地方創生の柱は移住・定住から関係人口の促進にシフト

「関係人口とは、旅するだけでは物足りない、でも、移住するまでは心が決まっていないというマージナルな人たち。住んではいないけれど、特定の地域との関わりを深めている人は実はとても多いのです」

こう話すのはメディア『ソトコト』の編集長、指出一正さんです。例えば、大好きなまちがあって地域活動にも参加しているというなら、その人は関係人口にあたります。ほかにも、何度も訪ねるうちに顔見知りができたり、その地域の物産品を取り寄せたり、ふるさと納税をしたりと関わり方はさまざまです。

人口減少・大介護時代の希望「関係人口」の最前線。親の介護もポジティブに? “やわらかいインフラ”が変える未来とは? 『ソトコト』編集長・指出一正さんインタビュー

『ソトコト』(写真撮影/指出一正さん)

人口減少・大介護時代の希望「関係人口」の最前線。親の介護もポジティブに? “やわらかいインフラ”が変える未来とは? 『ソトコト』編集長・指出一正さんインタビュー

指出さんは1969年群馬県生まれ。雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、2011年「ソトコト」編集長に就任。地域のプロジェクトに数多く携わるほか、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部「わくわく地方生活実現会議」委員をはじめ、政府の各種委員会の委員も務める。BS朝日「バトンタッチ SDGsはじめてます」を監修。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)『オン・ザ・ロード 二拠点思考』(ソトコト・ネットワーク)がある。

趣味はフライフィッシング(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

指出さんによれば、そもそも「関係人口」という言葉がメディアに取り上げられるようになったのは2010年代初頭。「定住人口」に対する言葉として編み出された造語です。
「2014年にスタートした政府の地方創生では移住・定住の促進が柱になっていましたが、めまぐるしい変化は見られなかった。むしろ働き方が多様化するなか、移住・定住はしなくても地域に関わってくれる人たちを増やすほうがローカルイノベーションには効果があると考えられるようになったのです。実際、日本にある1718市町村(2024年10月1日時点)のうち、1000市町村以上が関係人口を意識した施策を打ち出すほど広がりを見せているんですよ」

近年、「ワーケーション」「2拠点(多拠点)居住」「マルチハビテーション(複数の拠点で生活や仕事のスタイルを柔軟に組み合わせること)」といったライフスタイルが注目されていますが、これらもまた関係人口にくくることができるのです。

オンラインでもつながれる! 多様化する地域との関わり方

関係人口増加に向けた自治体の取り組みの一つが、指出さんがメイン講師を務める島根県のソーシャル人材育成講座「しまコトアカデミー」です。2012年にスタートしたこの講座は、移住するかはさておき、島根のことを応援してくれる人を育てたいというスタンスが当時としては画期的でした。今年で14年目を迎え、修了生はすでに約600名にのぼるそうです。

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「しまコトアカデミー」は東京、関西、広島・島根の3カ所で開催。座学だけでなく、フィールドワークやプロジェクトの企画・発表なども組み込まれている(画像/しまことアカデミーHPより)

「素晴らしいのは、修了した人たちが今も持続的に島根と関わり、新しいアクションを起こしている点です。例えば、東京から移住したご夫妻は閉館した映画館を『Shimane Cinema ONOZAWA』として復活させています。また、ほかの地域で修業した女性がUターンで『ぷくぷく堂』という愛らしいパン屋さんを開き、その斜向かいに新店ができたりとエリアリノベーションも起きているのです」

指出さんが関わる自治体の講座は現在、20以上にも。講座を受けて2拠点生活を始めた事例もあるそうです。


さらに、秋田県湯沢市の「ゆざわローカルアカデミー」では、湯沢市のリンゴを使ってクラフトビールをつくる活動がオンライン上で生まれました。時期はコロナ禍の真っただ中。しかもメンバーの多くは湯沢市に一度も足を運んだことがないというから驚きです。
「地域との関わり方はこの十数年で多様化し、受け入れる地域の姿勢も柔軟になっています。これからもっといろいろな方法が出てくるでしょう」

デジタル村民が生み出す移住より心地よい距離感

多様化を象徴する事例には、新潟県の旧・山古志村(現・長岡市山古志地区)の「デジタル村民」もあります。山古志村は2004年に起きた新潟県中越地震で大きな被害を受けた地域。震災時には全国から大学生を中心にボランティアに駆けつけました。そこで生まれたつながりは「関係人口という言葉が生まれる起点になった」と指出さんは近著『オンザロード 二拠点思考』でつづっています。

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2024年12月に発刊された指出さんの新著『オン・ザ・ロード 二拠点思考』(ソトコト・ネットワーク)は今年5月の時点ですでに3刷に!

「『デジタル村民』とは、山古志発祥の錦鯉をシンボルにした『NishikigoiNFT』という電子住民票をもつ、Discord(ディスコード/トークアプリ)上の村民のこと。震災の復旧・復興を契機に地域づくりの機運が高まった村では、『山古志住民会議』が立ち上がり、デジタル村民を募ったのです。
現在、電子住民票をもつ村民は世界中に1700人超(2024年8月時点)。山古志地区の人口は約700人なので倍以上のデジタル村民がいて、伝統行事の牛の角突き大会などで人手が必要なときには“帰省”してサポートに入ります。そんなデジタル村民を山古志地区の人々はどう思っているのか、ある時、聞いてみたことがあります。

すると、『移住してくれるのに越したことはないけれど、お互いが幸せな距離感を大事にしたほうがいい』という答えが返ってきました。
山古志地区のことを絶えず思ってくれる人たちがいて、必要なときに足を運んでくれる。そんな関係性にお互いが楽しさや幸せを感じているというのです。これを聞いて、住むことよりも関わってくれることが大事なんだと実感しました」

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山古志の風景(写真提供/山古志住民会議)

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中越地震から20年。2024年10月23日に小さな山古志楽舎が主催した「山古志の集い」には多くのデジタル村民が集まった(写真提供/小さな山古志楽舎)

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2025年5月に開催した山古志小中学校大運動会では、地域団体や住民、デジタル村民等が運営をサポート。地縁血縁を超えた運動会をつくりあげた(写真提供/小さな山古志楽舎)

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山古志村は平成の市町村合併により長岡市山古志地区に。毎年8月に開かれる牛の角突き大会が年中行事の一つとして継承されている。棚田・棚池を活用して稲作や養鯉も盛んだ。写真は「全国闘牛サミット2024」の様子(写真提供/山古志住民会議)

関係人口がもたらす効果はそれだけではありません。自分たちの暮らしや生活環境がとてもよいものだと実感させてくれるのも関係人口なのです。
「どんなに素晴らしい環境であっても住み慣れた場所ではそれが当たり前になってしまい、『うちの村なんて……』と卑下しがちなんですね。そのとき外から来た人たちが、『標高3000m級の山がこんなにあって、おいしい水が流れているなんて最高じゃないですか』などと客観的に評価してくれると、自信や誇りをもてる上にそれが特別のことだと気づきも生まれます。


さらに言えば、東京など大都市に住んでいる人たちが自分たちの地域に注目して評価してくれていると感じると、大都市との心的距離が近くなって分断感を取り払うこともできるのです」

関係人口はいわば地域の応援団。“推し活”気分で気軽に足を運んだり、もし現地に行く時間が取れないなら好きな地域のことを思い、人に語ったりするだけでも、「地元の人たちには大きな希望になる」と指出さんは言います。

きっかけに多いのは友達の誘(いざな)いとふるさと回帰

では、なぜ関係人口がここまで広がりを見せているのでしょうか。自治体の取り組みに加えて、大きな原動力になっているのは友達の“誘(いざな)い”にあると指出さんは指摘します。
「地域と関わることが楽しいと思った人たちが『一緒に遊びに行こうよ』と仲間を呼び、その輪が波紋のように広がっています。実際、関係人口になりやすいのは、友達に誘われ、たまたまその地に行った人なんです。そういう人たちは予備知識のない状態で行くので、日常にはないまちの景色や体験がドラマチックに感じられ、ファンになりやすいんです」

この連鎖に注目したユニークなプロジェクトとして、指出さんが挙げたのが「超帰省」です。友達が地元に帰省するときに一緒についていくという、関係人口を生む行動が仕組み化されています。
「“地元シェアリング体験”とうたっているように、行ったことはないけれど安心できる友達との関係のなか、観光や旅とは違うローカルな暮らしを体験できるんですね。超帰省アンバサダーと呼ばれる人たちは全国にいて、各地で活動が行われています」

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「超帰省」では生まれ育った故郷でなくとも、帰省したような感覚でまちを楽しめる。案内人となる超帰省アンバサダーは全国47都道府県にいて、観光協会やゲストハウスなどとのコラボレーション企画も実施している。写真は神奈川県小田原市に“帰省”したとき(画像提供/一般社団法人超帰省協会)

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大分県中津市に“帰省”したときは、ゲストハウスでの夕食を参加者みんなで準備。超帰省アンバサダーと一緒に乾杯!(画像提供/一般社団法人超帰省協会)

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新潟県村上市への“帰省”では、参加者みんなで地元名産の鮭の食文化を学んだ(画像提供/一般社団法人超帰省協会)

発起人は、守屋真一(もりや・しんいち)さん、根岸亜美(ねぎし・あみ)さん、原田稜(はらだ・りょう)さんという30代の若い3人。

立ち上げのきっかけには、自分たちの地元の魅力を知ってもらいたいという思いがあったというから、3人もまた関係人口といえるでしょう。このように知らない土地をふるさとのように訪ねたり、その逆に、自身の故郷に仲間を呼び込むケースが相互に生まれているのです。

もちろん、なかには「地元とはしばらく距離を置いていたけれど、そろそろ何かしなければ」と考えている人も少なくないでしょう。
「特に40~60代になると、親の生活が気になってふるさとを意識するようです。このとき勧めているのは、関係人口として地元に関わること。東京に住みながら地元の消防団に入ったという男性もいました。故郷だから帰らなければと思うと息苦しくなるけれど、2拠点居住の延長線上にあれば気が楽になり、新たな発見もある。親の介護といった問題もポジティブに考えられるように思います。
僕自身、東京と神戸の2拠点生活をするほかに、生まれ育った群馬県高崎市との関わりも持っています。父が亡くなる前から介護の手伝いなどで頻繁に戻っていましたし、地元の友達との関係は寸断なく続いています。仕事柄、高崎のエリアリノベーションにも参画して、住んでないけれど思考としては拠点になっているのです」

盛り上がりに欠かせないのは「やわらかいインフラ」

指出さんによれば、今、関係人口が増えている地域には一定の傾向があるそうです。欠かせないのは「やわらかいインフラ」。そのポイントはズバリ次の7つです。

・おいしいコーヒー
・バチバチのWi-Fi環境
・同世代の仲間
・おしゃれな本屋
・盛り上がるブルワリー
・使い勝手のいいコワーキングスペース
・最高のパン

「これらは今の20~40代が求めているものなので、この先、変わる可能性はありますが、盛り上がっているまちには大抵これらがそろっているのです。ただし、おいしいコーヒーといっても単にそれを買えるだけでなく、その場で店主やお客さん同士の会話が生まれたり、イベントが開かれたりと自分から関われる余地がある場所――関わりしろがあることも大切です。そうした場所が地域の人たちの接着面になるのです」

こう聞くと、7つのインフラを集約した施設をつくればよいのでは?と思ってしまいますが、指出さんの答えは「NO」。
「多機能施設にして、『全部ありますよ』としてしまうと、すべてが同じタイミングで加齢していってしまい、にぎわいは長く続きません。“軸ずらし”というのですが、7つの要素が北斗七星のようにバラバラにあって、美味しいコーヒーが脚光を浴びた後にはブルワリーの人気が高まるというように、ローテーションができるようになっているのが理想です。主体も1人ではなくいろいろな人たちが主役になれて、その中でトーンがそろっていると面白い地域になるのです」

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指出さん直筆の“軸ずらし”イメージ図(写真提供/指出一正さん)

ローカルイノベーションはどの地域でも起こせる

7つのやわらかいインフラを体現している地域として、指出さんが挙げたのは群馬県前橋市です。ここでは2つの流れでまちづくりが進み、「両者がほぼ同じ未来を描いているから強い」と言います。

その1つ、官民一体のまちづくりでは「JINS」(全国展開している有名メガネブランド)の創業者で、前橋出身の田中仁さんや糸井重里さんなどゆかりのある人々が参画して、「めぶく。」をビジョンにグランドデザインを描いています。300 年以上の歴史をもつ旅館「白井屋」を街中の活性化に寄与するためにアートデスティネーション「白井屋ホテル」として蘇らせたことも話題になりました。

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アートデスティネーションとしてリニューアルした「白井屋ホテル」(画像提供/白井屋ホテル、撮影/木暮伸也)

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吹き抜けのカフェラウンジには植物や現代アートを配し、時間によって変容するレアンドロ・エルリッヒの光のインスタレーション「ライティング・パイプ」を眺めながら食事や飲み物などを楽しめる(画像提供/白井屋ホテル、撮影/木暮伸也)

もう一方のまちづくりは、地元大学の学生や卒業生など若者が主体です。
「自分たちのまちを楽しいまちに変えていくための実験的なプロジェクトをジャブのように絶えず打っています。その中心人物の1人が、前橋工科大学の卒業生で前橋市役所の職員である田中隆太(たなか・りゅうた)さん。彼が『マチスタント(まちのアシスタント)』として、まちなかの空き店舗や空き家を店を始めたい若者につなぎ、コピーライターの男性が立ち上げたブルワリーなど面白い店が登場しています。今年2月には大衆食堂だった店舗を使って、朝7時から和定食を食べられる『円』というお店もオープンしました。運営するのは20代の女性。ここができたことで夜の繁華街で働く人たちも仕事の後に立ち寄って健康的な生活を送れるわけです。これこそが包括社会でしょう」

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2023年にオープンしたマイクロブルワリー「ルルルなビール」は、北欧家具のショップだった築50年の建物をリノベーション(画像提供/マチスタント田中隆太さん)

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ビール醸造を手がける竹内ヤクトさんはフリーのコピーライターとしても活躍している(画像提供/マチスタント田中隆太さん)

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女性3人で運営する「円」は大衆食堂「べにや」の建物を継承。看板はそのまま残されている(画像提供/マチスタント田中隆太さん)

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和食の朝定食は栄養バランスも満点だ。夜はナチュラルワインと和の一品料理を楽しめるダイニングとして営業(画像提供/マチスタント田中隆太さん)

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(画像提供/マチスタント田中隆太さん)

ちなみに、エリアリノベーションではどうしても昼のにぎわいにとらわれがちですが、「夜のローカルの盛り上がりも考える時代になっている」とのこと。名付けて「ミッドナイトローカル」。昼とはまた違う人のつながりを生み出しているそうです。

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2023年11月に開催された「ミッドナイトローカル」イベント(写真提供/指出一正さん)

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(写真提供/指出一正さん)

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(写真提供/指出一正さん)

前橋のようなイノベーションは、「どの地域でも起こり得る」と指出さんは断言します。そのためには諦めずに試行錯誤を続けること。すると人が集まり、関係人口と地元の人たちのシナジーが起きるというわけです。

今後の課題はつながらなくても楽しくいられる地域づくり

関係人口が街に与える影響には計り知れないものがありますが、なかには外部からの人の流入に逡巡する地域もありそうです。本音はどうなのでしょうか。
「僕の知る限りでは、中山間地域であっても閉鎖的なところはないですね。ゴミ出しで差別されているといった報道も聞こえてきますが、それはお互いの距離の取り方がわかっていないから起こること。クラスに転校生がくるとみんなそわそわして、最初はちょっと距離を取るじゃないですか。でも、日を追うごとに距離が縮まって、1年もするとすっかりクラスに溶け込んでいる。なかには距離を上手く詰められずに出ていってしまうケースもあるかもしれませんが、そういう人間関係のゴタゴタは都市部でも起こることなんです」

地元民とのコミュニティが分かれないようにするには、テーマ決めがポイントだと言います。
「『しまコトアカデミー』で、ある女性が出してくれたのは、草刈りやパンづくりをしながら好きなアイドルグループの話をしようという企画。『まちの課題』でなく『楽しいお題』を中心に人が集まれば自然に打ち解けられるでしょう。あとは、運動会やバーベキューなどみんなで協力して楽しむことを交流のきっかけにするとか。ちなみに、僕が得意にしているのは、イベントとしてスナックを開くこと。店主である僕も飲みながら営業するのですぐに酔っ払い、見ていられなくなったお客さんが店主の代わりをしてくれたり(笑)。そういうゆるさもつながりを生みやすいんです」

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2021年に指出さんがキュレーターを務めた奈良県の奥大和の芸術祭「MIND TRAIL」では、ご自身がスナックのマスターに(画像提供/指出一正さん)

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(画像提供/指出一正さん)

もっとも、コミュニティが分断されたとしても、それぞれが楽しくやっているなら無理につながる必要はないとも言います。
「例えば、高校生と僕ら世代がつながろうとするのは、逆におかしな話だなと思うわけです。混ぜられることが嫌な人たちもいるでしょうし。それよりもそれぞれ楽しくやって、それが一つの地域に同時にあることが多様性じゃないかというのが僕の考えです。

もう一つ、『つながり』という点で最近考えているのは、コミュニティに入れない人たちのこと。つながらないけれど、そこにいたい人たちもいるんじゃないかと。僕だってそう。キャラクター的に『コミュニティの中にいることが好きでしょ』と錯覚されるのですが、本来はひとりで川で釣りしていたり、岩陰で詩を詠んでいたりするほうが好きなんです。例えば、カフェで人々が集う横にいてひとり静かに本を読んでいるような、共同体に入らないけれどまちを愛している人たちも置き去りにしない地域づくりが、次の関係人口の議論にもなってくると感じています」

関係人口はロングテールなムーブメントに

こうした関係人口の未来に向け、今年6月から「日本関係人口協会」が始動したのも大きなトピックです。協会のテーマは「リジェネラティブ」(再生、よりよくする)。指出さんは理事に名を連ね、関係人口に関するトップランナーたちが参画する特別オンラインセミナーなども進んでいるそうです。

人口減少・大介護時代の希望「関係人口」の最前線。親の介護もポジティブに? “やわらかいインフラ”が変える未来とは? 『ソトコト』編集長・指出一正さんインタビュー

「日本関係人口協会」始動(画像提供/指出一正さん)

「協会設立のメリットは地域の境界線を飛び越えて、関係人口の創出に関与ができることです。従来の縦割りでは見えてこない地域の特性を見出しながら、集合知として関わることができるんですね。協会というとガチガチのイメージがありますが、ミーハーなキャラクターの僕が前に出てポップに運営していくつもりです。ライト&カジュアルで地域に関わる人の裾野を広げたいと思っています」

人口減少・大介護時代の希望「関係人口」の最前線。親の介護もポジティブに? “やわらかいインフラ”が変える未来とは? 『ソトコト』編集長・指出一正さんインタビュー

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

関係人口がますます注目されることは間違いなさそうですが、最後にこのムーブメントの今後について指出さんに伺ってみました。
「日本の人口分布を見ると、都市部には人口が増えているまちも多くあります。ヒントになるのはそのまちにないもの。美しい自然、人とのつながり、生きる意味など今の暮らしでは得られないものをほかの地域に求める人たちは変わらずにあり続けるでしょう。そして、地域に関わることで自分の生きやすさを得た人たちが、その喜びを周りに伝えることで関係人口が広がっていく。関係人口は最大瞬間風速ではなくて、ロングテールなムーブメントといえるのです。もちろん、そうなるためにも、僕自身、この言葉をいろんな人に伝え続けていきたいと思っています」

「関係人口」の英訳を指出さんは「Connected mind」としています。心がつながるーーたとえそこにいなくても地域を思う気持ちは一緒だよ、という思いを込めているそうです。コロナ禍を経て、働き方も暮らし方も柔軟になった今だからこそ、手に入れられるつながりが全国各地にありそうです。

●取材協力
ソトコト
日本関係人口協会
指出さんのInstagram
指出さんのFacebook
しまコトアカデミー
超帰省
マチスタント
白井屋ホテル

●著書
『オン・ザ・ロード 二拠点思考』(ソトコト・ネットワーク)

撮影協力:SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)

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