TBSラジオから、全国16局ネットでお送りしている「東京ポッド許可局」。マキタスポーツ、プチ鹿島、サンキュータツオが9月16日の放送で話し合っていたテーマがコチラ。

鹿島:いまから伏線を張ろうと思うんですけども…

タツオ:それ言っちゃうの?

鹿島:Twitterで回ってきて「ああ、いいツイートだな」って思ったのがケラリーノ・サンドロヴィッチさん。あの方が「トレンドに『伏線回収』とあり、あるドラマが『伏線回収できてない』とか『伏線回収雑過ぎる』とか言われてる。伏線なんか回収してもしなくてよいのだ。人生も世の中も、伏線なんかわからないし、回収されることも滅多にない。『見事な伏線回収!名作!』みたいな短絡的な評価はとてもつまらない」っていうツイートをされているのを見て、僕はリツイートしてしまったんですね。

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鹿島:許可局でも去年ぐらいですか?「伏線と回収」ってチラッと話しましたよね。『カメラを止めるな!』。あれは別の切り口で語ったじゃないですか。あれを「パクられた」と主張する方がいて。後にクレジットが載るようになったんですが。その負の感情をこれからいかに溜めて昇華するかが見どころだっていう話。その脇の部分で、「そもそも伏線を回収するっていうのが好きだよね」って話しましたよね。

で、改めて本論で「伏線回収論」みたいなのをやりたいなと。まあ、僕はいま、伏線を張っているわけです。

タツオ:それ言ったらもう台無しですけど(笑)

鹿島:でも、そういうことにならない?「伏線回収」って言っていたら、結局はそういう風な台無し感になるというか。で、『カメラを止めるな!』は素晴らしかったじゃないですか。ああいうスッキリ感、「ああ、伏線回収見事だな!」って見方もいいけども、ケラさんが言うように、それだけが物の見方になっちゃうとつまらないなって思ったんですよね。

マキタ:でも一方で、決まると気持ちがいいんだよね。「決まったー!」っていう感じがして。あれがいいんだよね。

タツオ:でさ、伏線回収を気にしちゃうと、リアルタイムで見ながら「あ、これ伏線だな」っていうのがわかってきちゃう。ちょっと敏感になって。「あ、これが伏線だわ」って。で、そういう風に思い始めると、それが回収されなかった分のモヤモヤがたまっちゃうっていうか。

鹿島:それが怒りにっていう…。

マキタ:ただ、こうやってトレンドに上がってくるっていうことは、伏線回収元年なのかね?

今年は、令和「伏線回収」元年!?

鹿島:令和(伏線回収)元年。まあ『カメラを止めるな!』が去年ですから。特にそれを求める…それがいい物語なんだっていうのがあるんでしょうかね?

マキタ:伏線回収「祭」状態というか、いま「伏線回収、伏線回収」って言葉を言いたい人たちもいっぱいいる。

鹿島:それは合理的でいいですよ。つまり「合理か非合理か」っていうことで。僕はこのツイートを見てすぐに思い出したのが猪木とか寅さんなんですよね。だって伏線、回収してないもん。伏線ばっかりで。でも、たまに回収するんですよ。特に猪木とか。「もう!猪木なんかもう見ねえ!見ねえ!」ってたまにその伏線を回収するから「猪木ーっ!(拍手)」ってなる。

本当、悪女の論理なんですよ。

マキタ:自分の中にそういう抗体ができているんだね。

鹿島:もっと自分で考えると、その伏線を放っただけで本人は伏線とも思ってないかもしれない。「回収しない」っていうのはある種の思わせぶりだし。見る側としてはその「思わせぶり」にいかにたぶらかされるかっていうのもひとつの醍醐味だったのかなと思うんですよ。「寅さん、今度こそ結婚するのか?」とか。

タツオ:そんなに全力で見ている人、いるかな(笑)

鹿島:「たぶらかされたい」っていうのもあるじゃないですか。「ああ、こっちが勝手に思っていただけか!」とか「こっちの考えすぎか、うがちすぎか」とか。ところが今は「うがちすぎか」じゃなくて「あなた、伏線を回収してませんよね?」って当事者に言っちゃうっていう。

タツオ:そうだね。本当にそうだ。

◆ビギナーと伏線回収

マキタ:映画だったらさ、年間にそんなに映画見ない人にとってはさ、伏線回収のやつってときめくんじゃない?

鹿島:そうね。

優しいガイドになる。

今年は、令和「伏線回収」元年!?

マキタ:たぶんすごく嬉しいと思うしね。ただそれ一辺倒だと…別に伏線回収しない映画なんていっぱいあるわけだしね。「伏線回収」だけがいちばんの価値ではないよね。あとはもっと言うと、物語とかお話が好きな人ってビギナーが多くない?お話云々じゃなくて、行間とか一瞬の情動みたいなものがある瞬間を読み込める人は、ある程度、見込んできたり、ライブとかを見てきた人とかじゃないと、小さいところだけどそれがすごいんだっていう風に思えないんじゃないかな?

鹿島:どうですか?タツオとか、小説とかでストーリー重視みたいなのもいいんだけども、そうじゃなくて関係がないその描写を味わおうみたいなこと、言ってなかった?

タツオ:言ってた。一時期、割と盛り上がった運動があったんだけど。やっぱりちょっとマイノリティなのかもしれないですけど。物語というよりは、単純に言うと「構造」なんだよね。構造に納得がいくっていうことだと思うんです。だから、納得したいんだよね。で、自分が納得できない部分とか、「あれはなんだったんだろう?」っていう部分を許せないと思うんだよね。

鹿島:「許せない問題」はあるな。

「面白い・つまらない」とは別に「許せない」。

タツオ:ミステリーなんかは、まさに伏線を張って回収するっていうのがメインじゃないですか。だけど登場人物たちがムダな会話をしているんです。「今日、どんな肉を食べるか」とか「その肉ってどうやって調理したら美味いのか」みたいな。でも実はその会話の中にそれぞれの登場人物が深く描かれていたりとか、「ああ、この人ってこういう時こういうことを言うんだ」っていう情報が入っていて、造詣がより深まったりするんですよね。

今年は、令和「伏線回収」元年!?

タツオ:あるいは、この3人ってこういう関係性なんだな、みたいな。でも、単純にミステリーだけ楽しいんだったら、そこの描写はいらないっていう問題になるじゃない?でも、実はその贅肉こそが小説を小説たらしめてる部分で。意外とそれに割く時間が、もう無いのかもしれない。だから俺、「物語が好き、納得したい、伏線回収イエーイ!」とか言ってる人って、つまんない人だと思うんだよね!つまんないよ、それ。

マキタ:出たよ…(笑)

鹿島:だから「短絡的な評価はとてもつまらない」っていうのをケラリーノ・サンドロヴィッチさんもおっしゃっているんですよ。

タツオ:でも、ドラマとかネタってフィクションですけども。そのフィクションに伏線回収っていう概念を持ち込むのがどうか…ってちょっと思うの。

というこは、フィクションって作っている人がいることはわかっている。それに対して「伏線回収がどうの…」って俺、野暮だと思うんですよね。むしろ伏線回収って実際に生きている中で自分で「ああ、これ伏線回収だな。俺、生きていて良かったわ。10代の頃の俺に教えてあげたいわ…」って。

鹿島:「回収されないであろう」っていう前提があるから、回収した時の面白さ、楽しさ、びっくりがあるわけですよね。

マキタ:ああ、それはあるな。

タツオ:だから昔は「これは伏線だ」と思って意識してなかった行動だったりとか言ったこととか趣味とかね。でもそれが10年、20年経った後に「ああ、これ回収できたわ。10代の時の自分に教えてあげたいわ」って思えたということが大事なわけであって。

鹿島:だから実は「回収」っていうのは時間がかかるよね。10年、20年、30年、人によっては40年…「ああ、あの時のメンバーが集っているよ。ああ、ありがとう!」って、その時の自分とも折り合いがつくというか。「ああ、長い間見ていてよかった」みたいな。だから、伏線回収を短い作品の中にミステリー以外でも、お笑いのネタにでも入れたのは、新発見かもしれないけどね。で、それで沸き立って「この伏線回収がすごい、すごい!」って言うようになったのかも。

◆恋愛と伏線回収

タツオ:「あの時、ああ言ったのって、もしかして俺のこと好きだったのかな?」「でもあの時はこう言っていたから違うかも?」って思ったりすることも含めての伏線回収じゃん。でも、全ての発言に意味があるっていう強烈な、もう宗教みたいだよね。思い込みがあるから。

今年は、令和「伏線回収」元年!?

鹿島:恋愛の場合は終わった後に逆に回収するパターンもあるじゃないですか。「じゃあ、あの時のあれ、返して!」とか。「あの時、いくらかかっていくら貸したよね?」とかって、そういう本当の「回収」があるじゃないですか。じゃあ、なんでそれまでは回収しないでよかったのか?お互いにムダな時間をある意味で腑抜けて過ごしてたからだよね。それがパッと醒めた時に「じゃあ、返してくれる?時間もお金も指輪も…」みたいな感じて取りにくるのかもしれないよね。

タツオ:でも鹿島さんの言っていること、本当にそうだわ。伏線回収って心の余裕がある人じゃないとできないし。

鹿島:「たぶらかされてる」っていうのを楽しんでないとダメだよね。

タツオ:ムダな時間が必須だわ。だから「全くムダなく、すぐに伏線回収してほしい」っていう人は「フリオチだけでいいよ」みたいなことを言っているのと同じ。

鹿島:「今日、デート3回目ですよね?よーし!じゃあこれから…」って(笑)

タツオ:それはダメだろ(笑)

鹿島:そこまで行くとバカっぽくて楽しいですけどね。

タツオ:「この間、ご飯を食べましたよね?で、前回はキスしましたよね?よーし!じゃあ今日は…!」って(笑)

鹿島:「今日はワイン、高い方を飲むんですね?よーし!」

タツオ:下品(笑)でもそれ、言っていることは変わらないからね。

鹿島:だからマニュアル本とか、あったじゃないですか。それに沿っていくって、回収の論理ですよね。

今年は、令和「伏線回収」元年!?

タツオ:本当にそうだわ。やっぱりムダをいっぱい経験して心に余裕がないと伏線回収できない。

鹿島:だからそういう時にフラッと現れるモテる男でも女でも…ムダな香り、余裕があって。それで持っていかれちゃうんですよね。

◆アニメでの伏線回収事情

マキタ:アニメってその伏線回収ブームみたいなの、あったの?それよりも今は文芸性が高い、行間があるみたいなものとかっていうのが流行っているの?

タツオ:両方ある。だけど、物語味わわせ系のやつはすごい難しい。パターンも出切っているし。2クールとかもできないし。

マキタ:よくさ、「フラグ」って…「死亡フラグ」とか。あれってアニメの人たちが考えた言葉なんでしょう?それも、物語のパターンで言うと「もうこの人、死ぬパターンになってるよ」っていう、それはもう伏線回収の鑑賞をし慣れすぎていて。もう見る側がそれを分かった上で……っていう理屈でしょう?

タツオ:で、作る側はそれを分かっていて。予定調和よりも、ちょっと早めに死ぬんだよ。

マキタ:そのオフェンスとディフェンス、なんなんだよ!行くところまで行ってるよ。

今年は、令和「伏線回収」元年!?

タツオ:早いんだよ。「このタイミングで死ぬんだ…」みたいな。だから『まどかマギカ』とかはそうだったと思うんだよね。だいたい主要人物って最速で7話ぐらいで死んでいたんだけど、まどマギは1クールの3話で死ぬ。「はええ!このタイミングで、まさか!」みたいな。

マキタ:ああー、それはガラパゴスだわ。えらいところまで行ってるわ(笑)

タツオ:読み合いみたいな。だからフラグをフラグと思わせないような仕掛けっていうのが巧妙に発達してはいる。一方で日常系っていう、何もお話が展開しない、時間もなんなら進んでないみたいな。でもこれ、小説って言ったら「日記がいちばん面白い」みたいなことと結構似てるんだよね。日記って別に伏線回収とか、ないじゃん? で、前日にあったことと翌日にあったことの関係性があんまりなかったりだとかさ。

鹿島:ただ、その日記を読んでいったら読み手が「あれ?これとこれ、つながってるじゃん!」っていう。そういう楽しみ方ってあるよね。

タツオ:そうそう。だから俺、鹿島さんがやってるたとえば首相動静をチェックするとか。あれって読む側が自分で「伏線だ」と思って、「こっちで回収してるわ」っていう。そういう読み込み方の面白さだと思うんだよね。

鹿島:僕は安倍首相がこの6年間、7年間。第二次になってからの首相動静を全部チェックして。首相が見ている映画だけを注目したんですよ。映画だけに注目すると、なかなか面白いことがわかりましてね。2日前に見た映画に影響された内容の答弁を国会でしているとか……。

タツオ・マキタ:フハハハハハッ!

タツオ:それ、超単純だよ(笑)。

鹿島:『噓八百』という映画を見た後で「真っ赤なうそ、うそ八百だ」みたいに言ったりとか。

◆9月16日放送分より 番組名:「東京ポッド許可局」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20190917000000

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