「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)「現場にアタック」

政府は来年度から、特定技能という一部の外国人労働者について、無期限で日本で働けるようにする方針だと、今月報じられました。今よりも外国人労働者を積極的に受け入れるという形ですが、外国人労働者については、その待遇の悪さが問題となっています。

中でも問題なのが技能実習生。劣悪な環境で働かせるなどの人権問題が度々話題ですが・・・

そんな中、この問題の改善に熱心に取り組む企業がありました。

はじめは「外国人、安く使えますよ」

ベトナム人の実習生を受け入れている建設会社、久健興業の山口 健(たけし)さんのお話です。

「5年前「外国人安く使えますよ」と聞いた。人手不足も深刻な問題だったので、丁度良いねって軽い感じ、最初は。ただ、最低賃金を使ってやろうという会社や、ベッド・冷蔵庫・道具等をリースだから天引きする会社があった。てなると、手取り4万円しか残らない。

でも来てしまったからにはやるしかない。ちゃんとこの子達のことを真剣に考えてあげなきゃいけないと思った。僕、北海道の鳶組合の理事をやってて、賃金のばらつきがあったら失踪の原因にもなるんで、ある程度の一律性だとか、環境が良くなるような取り組みはしましたね。」
(久健興業株式会社 山口 健さん)

山口さんの会社では、従業員50人のうち、24人のベトナム人技能実習生が建設現場で働いています。最初は、単価も安く、外国人雇用が流行っていると聞いて、軽い気持ちでベトナムに行ったそうですが、現地の希望者と面接をしたときに、「チャンスをつかみたい」と言われて、自分の態度を恥じたそうです。

そこで山口さんは、北海道鳶土木工業連合会の理事や、技能実習生の受け入れ窓口である、北海道の「監理団体」の理事に就任。業界全体でルールを変えるために、賃金や条件の見直しを行い、来日1年目は日当7500円、2年目は日当8000円、3年目以降は日当8500円以上と規定し、技能に応じて給与を渡せるように自ら改革しました。

(北海道の最低賃金は時給889円、日当およそ7100円よりも高い水準です)

待遇改善のおかげで、山口さんの会社では、「労働環境の不満」を理由にした失踪は、これまでゼロ。実習生の中でも久健興業は評判で、現地での面接も希望者が殺到するそうです。

来日5年目の実習生。日本人並みの給料に

実際に、久健興業で働く来日5年目の実習生、ベトナム人のタインさんにもお話を伺いました。

「だいたい、日本人と同じ給料をもらう。毎月、25万~30万位。

お父さんとお母さん、奥さんと子供2人、毎月8万~10万円位送ってあげる。あとは貯金。社長は本当優しい。他の友達の会社は、いじめてるとか、給料安いとかいる。我慢できないから、会社辞めた。どっか行った。」
(ベトナム人 技能実習生 タインさん)

タインさんは、半年間、日本語を学んでから来日しました。

足場を組んだり舗装したり、久健興業の中でもリーダー格で、後輩の指導も行い意欲的に働いています(この日は、北海道から名古屋に出張に行く直前に取材に応じてくれました)。

ただ、別の会社で働く友人の中には、失踪した人も…。でも、なぜ「失踪」してしまうのか。

技能実習制度の運用には基本的に、「受入企業」、ベトナムの「送り出し機関」、日本の「監理団体」が介在しているので、本人が転職を望んでも、合意がなければ成立しません。そして、高確率で合意は得られないので、事実上、合法的な転職が適わず、失踪してしまうということです。

実際、昨年の国内の技能実習生の失踪者は、6000人近くいて、満期の3年または5年を迎える前に、失踪する人は、毎年増え続けているようです。

ベトナムに帰った後も職く場をサポートしたい

ということで、まだまだ課題多い制度と言えそうですが、久健興業の山口さんは、実習期間を終えた後のサポートにも、乗り出しています。

「ある程度技術もついて、お金も貯まって、帰った時に、この技術を使える仕事あるのかな。ベトナム行っても稼げるのかなって考えたときに、厳しい。だから、僕らの会社がベトナムで支店を作って仕事をいただければ、また再雇用、現地採用したい。技能実習制度のあり方って、そこまでやらないとゴールにならない。表面上、3~5年、稼がせました。

技術継承しました。そんな簡単なものではない。帰った後どうなってるの?お金あるの?仕事あるかい?っていうのを、最後まで面倒見てあげなきゃいけない気がする。」
(久健興業株式会社 山口 健さん)

技能実習制度の建前は、「技術継承」=日本の技術を学ぶための制度ですが、テイのいい労働力として使われているのが実態。働かせるだけ働かせてあとはサヨナラでは、無責任ではないかということで、山口さんは、すでに、ベトナムで支店を作るための交渉などを始めています。