TBSラジオ「コシノジュンコ MASACA」毎週日曜夕方5時から放送中!(5月15日(日)放送分)
中澤きみ子さん
長野県上田市出身。5歳からバイオリンを始め、新潟大学卒業後にザルツブルグ・モーツァルテルム音楽院に留学。
JK:今日は私のジャケットを着ていただいて(^^)
中澤:すごくいいでしょう? 私の形を作ってくれちゃう。
JK:着こなしもいいですよ! ふだんもバイオリンを弾くときも着られるように、これは袖がぴらっと開くのよ。
中澤:バイオリンっていろいろ制約があって、肩のあたりにキラキラがつかないとか。襟が立ってるのもダメですし。でもジュンコさんの服は弾いてても心地がいいんです。ふつうはジャケット着てると弾けないんですけど、先生のお洋服はジャケット着て弾けるんですよね!
JK:うれしいですよね、プロからそう言っていただけると。でも確かに、右手と左手で動きが全く違いますもんね。あとはやっぱり肩。肩にびろっと白いハンカチかなにか敷くのはあんまりよくないわよね。だから肩パッドを入れると安定するんですよ。
中澤:そう! 左の肩に楽器が乗るんですよ! とってもいい薄さで、日本人的ななで肩がきゅっと引き締まって。
JK:演奏会に行く時も、「聴きに行く」じゃなくて「見に行く」って言うでしょう? 前に大きい人がいると、今日はついてないなぁって(^^) みんな一生懸命見て、それで耳に入ってくる。全身で聴くんですよね。だから見せるって大事ですよね。
中澤:それがLIVEなんですよね。
出水:今日は「津波バイオリン」をお持ちいただきました!
中澤:忘れもしない、11年前の3.11、未曽有の東北大震災。そのちょうど2日後ぐらいにTV画面を見てたら家やいろんなものが流れていく中、アナウンサーの方が「瓦礫が流れていく」って言ってるのを聞いて、「瓦礫じゃないのよ、これはみんなの思い出が流れてしまってる」って思って。
JK:瓦礫の山って本当にゴミ扱いだけど、思い出がいっぱいで、あの中にいっぱいあるよのね!
中澤:そう。何か思い出に残したいと思って「バイオリンになる木はないの?」って主人に訊いたんです。その時返事はなかったんですけど、でも1週間後に彼は東北に出かけていき、流れ着いた木を全部トントン叩いて、「これならバイオリンになりそうかな」っていう木を見つけてきて。帰って来てから何やら夜になるとこもって作ることになり・・・。
JK:ご主人はバイオリンをおつくりになる楽器製作者なのよね。
中澤:主人の知り合いの中国人の画家さんが。胡弓の演奏者でもあるんですけど、描いてくださって。ただ音を出すのは難しかった。振動が今までとは違うので、いいバイオリンにするまでには時間がかかりました。
出水:木の種類もふつうのバイオリンとは違う?
中澤:違います。彼は今までイタリアかクロアチアから取り寄せたバイオリン用の木で作っていたのが、初めて日本の木で作ったんですよ。だから最初に弾いた時は弾き心地がよくなかった。それに流れ着いた木だから、強いんですよ! 強さのほうが先に立って、美しい音になかなかならない。それで毎日愛でて愛でて、1年2年3年経ち、共鳴くださったバイオリニストさんが弾いているうちに、気持ちがこもっていって、どんどんすっごいい音になったんです!
JK:ストラディヴァリウスなんて300年とかだもの、それと同格ってわけにはいかないわね。
中澤:でもみんなの気持ちが違うんでしょうね。東北の思いに寄せるから、この10年でこんなにいい音になったんですね。
JK:気持ちが入ると木も生きてくるんですね!
出水:陸前高田の「奇跡の一本松」の枝の部分も使っているんですよね?
中澤:一本松の芯の枝の部分を、表板と裏板をつなぐ「魂柱」という部分に。それがないと、鼻が詰まったような音しか出ないんです。
JK:これは奇跡の一本松バイオリンですよ! しかも弾いて初めて生きるんですね。
中澤:もしこれが100年生きたとしても、100年前の悲しい出来事をこのバイオリンが語ってくれる。人の命は尽きていくものだけれど、バイオリンが300年も400年も語り継いでいってくれたら・・・。
出水:いろんな人の手を経ることで音がよくなっていくっていうのは不思議ですね。
中澤:日本の木だから、日本らしい繊細な音も出せるんですよね。違います。やっぱりこのバイオリンは日本の曲を弾くときが合うんです。本当に不思議ですね!
JK:音色がそうなんですかね? すごい発見!

出水:ふだんご使用されているのはストラディヴァリウス。
中澤:私が持っているのは1716年製作のもので、名前とかは不明で、イタリアの貴族の方がずっとお持ちでこの世に出なかったものが、私がイタリアの教会で演奏したときに「あなたに貸与したい」と突然言われて・・・それまで私もストラドには到底手が届かないと思っていたのが、貸していただけることになって。
JK:ストラディヴァリウスって何億って感じじゃないですか! いつも思うんですけど、弓も?
中澤:弓は自前ですけど、今まで持っていた弓が合わなくなり、それから自分もストラドに合う演奏家にならなきゃいけないっていうことをものすごく実感したんです! ものすごくプライドが高くて、「あなたになんて弾かれてたまるものか」って。だから怠けてると鳴らない。その代わり、練習すればするほど全部要求に応えてくれる。偉大なる楽器です!
JK:そんなに違うもの?!
中澤:違います! ただし勉強を続けなければならないし、自分がアイデアを持たなければ、楽器からは出してくれないですから。そこは自分自身も高められます。
JK:立派なパートナーですね(^^)
出水:日本ってヨーロッパとは湿度も気温も違うから、その辺も気を使われるのでは?
中澤:そうですね、でもやっぱり大したもので、ストラドは日本に来ると程よく湿気を含んで日本の家屋に合う。向こうに行ったら、乾燥して向こうの家屋に合うんです。ヨーロッパから帰ってくると、まだ日本仕様になっていないストラドを弾くと「あれ?」ってなる。日本仕様にどんどん変わっていくんですよ。それと共演者が日本人かそうでないかによっても変わる。
出水:本当に命があるかのようですね~!
JK:サントリーホールでね、ストラディヴァリウスだけのコンサートを見たんですけど。
中澤:うちの息子が企画しまして。アジアでは初めて、世界では2回目のストラド展をやりました。21台のストラディヴァリウスを集めて・・・あれはみんな眠れませんでしたね! 警備員の方だって眠れなかったんじゃないかしら(^^) 前日に人間付きでいろんな国から来て、翌日ぱっと展示会が開いた時の感動ったら! 私は気が小さい方なんですけど、初めて息子を大したもんだなと思いました(^^) 毎日々々順番にストラドを使って演奏会。贅沢な1週間だったと思います。
出水:音楽活動50年の集大成のコンサートがあるそうですが、どんな内容になりますか?
中澤:歳がバレますけど(^^;)もう半世紀がたってしまいました。
JK:私が衣装を作らせていただいて。自分が出るような気分になってます(^^)
中澤:ジュンコ先生のドレスがすごく楽しみです! やっぱりプロとして着るので、ちゃんと弾きやすく、それでいて紀尾井ホールに合ったドレスが出来上がりつつあります。なので音だけでなく、見る方も楽しんでいただけたらと思います。
出水:ご自身が弾かれてきた協奏曲を演奏するんですね?
中澤:はい、何かと思い出深い3曲を並べました。指揮者はこの春まで藝大の学長を務めていらした澤和樹先生。先生がロンドンに留学されてきたときからずーっとお付き合いをしていて、ご一緒に演奏させていただいたこともありましたし、私の生徒たちも藝大でお世話になりましたし。
JK:澤先生も私のジャケットをお持ちになっていて、「勝負服」だって言うのよ(笑)
中澤:やっぱり出て行った時のドレスって、みなさん楽しみですもの! ウィーンからは私の長年の親友のコンサートマスターも来ますし、チェロのトップも来てくれます。
OA曲
M.からたちの花/中澤きみ子(生演奏)