TBSラジオで金曜午後10時00分~11時30分に放送中の「武田砂鉄のプレ金ナイト」。2月16日放送回のゲストは、内田也哉子さんでした。

TBSラジオ『ACTION』時代の2019年9月にお越しいただいて以来、約4年半ぶりの砂鉄さんと也哉子さん。先日、也哉子さんがご出演されたTBSテレビ『THE TIME,』をご覧になったそうで…

砂鉄:「安住さんが“これから瀬戸内寂聴の枠が空いている”っていうふうに言ってましたね(笑)なるほどそうか、とちょっと思っちゃいましたけど。」

也哉子:「キツめのジョークでした(笑)“ゆっくりと、良いことふうなことを言えばいいんだよ”って言ってたんで(笑)私は元々ゆっくりなんで、たぶんそこで重なったのかなと思いました。」

砂鉄:「確かにそうですよね。ゆっくりだし、声も割と抑え気味にいくと、耳をそばだてて、“今からいいこと言うぞ”っていう(笑)」

也哉子:「話しにくいじゃないですか(笑)」

細い道に消えていった希林さん

砂鉄さんは也哉子さんの母・樹木希林さんの対談集『心底惚れた 樹木希林の異性懇談』の解説を書かれました。

砂鉄:「4年前は書店が樹木希林さんの本だらけみたいになって、樹木希林ブームが起きていて、“いつまで続くの”みたいなことを仰っていたことを覚えていますけど。」

也哉子:「あの時は母が亡くなって。今年に入って7回忌に9月でなるそうで、6年経ったんですけど。それこそ砂鉄さんにもいろんな出ていた本の中の『心底惚れた』っていう、(希林さんが)33歳の時のね、珠玉の対談集っていうのの解説を書いていただいて。その解説が本当に素晴らしくて。

でも面識があったんですね?」

砂鉄:「そうなんです。希林さんが竹中労というね、ルポライターと関係性・コミュニケーションがあったんで、竹中労さんの没後25周年というのが甲府で記念のシンポジウムみたいのがあって。打ち上げでいろいろとお話したっていうのが唯一の機会だったんですけど。希林さんが打ち上げ会場の目の前のホテルに泊まっているってご自身で仰っていて、お帰りになるのかなと思ったら、“私はちょっと”って言って、細い道に消えていったんですね。何しに行ったのかなっていう、未だに謎なんですよ。その背中をすごく覚えています。」

また、希林さんの対談集『心底惚れた』について、こんなこともお話していました。

砂鉄:「30代の希林さんがいろんな業界の大物の人にインタビューをしていくんですけど、とにかく生意気なんですよね(笑)」

也哉子:「冷や冷やしますよね。」

砂鉄:「目上の人に、“あなたは戦争に行ったらまず真っ先にやられると思いますよ”みたいなこととか言っていて(笑)あの突破力っていうのは恐ろしいものがありますけど。」

也哉子:「今回『BLANK PAGE』っていう本ですけども、1人でいろんな人に会いに行ったんだけど、母もそうやって30代の頃やってたんだなと思って不思議な…何十年経て、母と娘の繋がりっていうか。あんな辛辣じゃないですけど(笑)」

砂鉄:「辛辣さはあれなんですけど、希林さんと也哉子さんの相手への突っ込み方として似ているなと思うのは、ちょっと相手を動揺させたときに、ス―っと入り込んでいくっていう感じっていうんですかね。」

次項は也哉子さんの新刊『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』について続きます。

「やっぱり人ってシンパシーの生き物なんだな」

也哉子さんは2023年12月に22年ぶりの単著となった『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』を発売しました。
母・樹木希林さんと父・内田裕也さんを立て続けに喪い、“人生の核心的登場人物を失い空っぽになった私は人と出会いたい、と切望し”、15人との対話を経て綴ったエッセイになっています。

砂鉄:「対談本(『心底惚れた』)の解説に書いたかもしれないんですが、希林さんの言葉がすごくブームだったときに、何か少し違和感があるなと思ったのは、希林さんの言葉を読んで要約すると、“私なんかの言葉に感化されてないで、自分で考えなさいよ”っていうことを結構ずっと書かれてるわけですよね。」

也哉子:「私自身もそう言われて育ったし。」

砂鉄:「そう考えると、喪失でさえも“あなたで受け止めなさいよ”、“あなたで考えなさいよ”っていうことを渡されてるわけですよね。」

也哉子:「そうなんです。だからこそ、きっと私が命を閉じるまで終わらないクエスチョンというか、自問自答という感じですかね。」

砂鉄:「自問自答をするために、外に人に会おうと今回は思われたわけですよね。周りにスタッフがワーッと居るわけじゃなくて、一対一で迫ろうっていう。

それは迎え撃つ側もいつもと違う感じの構えを…ある意味、緊張状態を作る。その状況を作ろうと思ったのは何か理由があるわけですか?」

也哉子:「人と出会うときに第三者の目があるっていうことで、少し自分がカッコつけようとしてしまったり、あるいはうまくまとめなきゃとか、何か別の気が入ってしまうことによって、2人だけの滞留が始まらないなっていう。本当にシンプルに2人きりで会うことが一番、その時自分が欲していた形態でしたね。」

砂鉄:「それが実際に始まってみると、思いも寄らぬところに行ったり、ぐるぐる回って、どこかに辿り着いたりみたいなことの繰り返しですね。」

也哉子:「そうですね。あっという間に3時間4時間とか経っちゃって、帰る頃には真っ暗だったって(笑)申し訳なかったなってお相手の方に思いつつ。私が意図せずとも持っていた心の影みたいな、闇みたいなものを相手の方が察知して、ご自身の中の日陰になってる部分を慈しむように差し出してくださるこの現象って、面白いって言ったら変なんだけど、やっぱり人ってシンパシーの生き物なんだな、掛け合う生き物なんだなっていうことを噛み締めたし。死というもの、あるいは人との別れみたいなものが自ずとテーマになっていったんだけども、いろんな死の捉え方があったので、私の40何年生きてきた中での小さい心で感じてる死と、また全然違う死の捉え方があっていいっていうことも教えていただいて。

とても大きな扉が開いた。」

「違いこそ味わい深い」

ゲストコーナーの終盤では、也哉子さんのパートナーである本木雅弘さんとのお話に。
2023年12月に発売された『週刊文春WOMAN 2024創刊5周年記念号』では、はじめての夫婦対談『内田也哉子が聞く、本木雅弘「婿の言い分」』が掲載されました。

砂鉄:「今出ている『週刊文春WOMAN』で、パートナーの本木雅弘さんとの超ロング対談っていうのをやられていて。夫婦対談っていうのは多々ありますけれど、こんなに緊張感のある対談も珍しいってぐらい。張り詰めたという雰囲気ではないんですが、互いが互いの尊重はすごく伝わるけれども、1つ1つの言葉を絶対に見逃さないぞという、この感じがすごいですよね。」

也哉子:「しつこいんですよ、お互いに。見逃さない感じがね。」

砂鉄:「ヘマをしないために互いにかしこまり続けて、すごい関係性だなと思った。」

也哉子:「(笑)雑誌の対談だからと思われるかもしれないけど、実はそうではなくて。

あの状態が日常茶飯事なんですよ。」

砂鉄:「“雑誌だから緊張しちゃいますね”なんていう感じでかしこまってんなと思ったら、ずっとこの感じで続くっていうところがすごいですよね。」

也哉子:「“私もひと恥かきましょう”って言って出てきてくれて。ずっと避けてて本当に初めての夫婦対談だったんですけど。嫌だ嫌だと言いつつ、出るならとことん晒したいっていう。私の夫の本木ってとってもノーマルな部分と、エキセントリックなまでにアブノーマルっていう、この両方がいつも同じぐらいのさじ加減であるので、共同生活者としては、とても苦しみをはらんでいる(笑)」

砂鉄:「そのバランスが50:50ならまだいいんですけど、150:150みたいな感じありますよね(笑)でもお二人の話を聞いていてすごくいいなと思ったのは、お互いの価値観の違いっていうのを縮めようとしないっていうところがすごく素敵だなって思ったんですよね。僕、芸能人の方が離婚するときに“価値観の違いが理由です”っていうのを聞くと、“価値観って違うんじゃないの”って。“合っていたらちょっと気持ち悪くないか”って思ったりするんですけど、この価値観の違いが鎮座してる感じっていうんですかね(笑)それはすごいなと思って。」

也哉子さんと砂鉄さんは夫婦に関して、こんなこともお話していました。

也哉子:「当たり前だけど夫婦って他人同士で、唯一約束を結んで、家族のように振舞っているだけで、いつ解散になってもおかしくないっていう緊張感を持っていると、今一緒にいることが尊くなりません?」

砂鉄:「そうですよね。僕も妻とナイス他人だと思ってるんで(笑)一心同体というよりも、まさにこの本(『BLANK PAGE』)のテーマでもあるけど、一対一の感じ…対の部分は大事じゃないすかねと思ってるんですけどね。」

也哉子:「違いこそ味わい深いっていうことですよね。」