国内でのツアー大会はなし
コロナの影響は小さくない


現地8月29日、いよいよUSオープン2022の本戦がスタートする。そこで、同大会に出場する日本選手のサポートを務める日本男子ナショナルコーチ、高田充氏にインタビューをお願いした。
今回は、ダニエル太郎(エイブル/世界ランク95位)選手の練習後にお時間をいただいている。

【画像】USオープン男子シングルスドロー(組み合わせ)

Q. 今年最後のグランドスラムとなります。昨年もお話を伺いましたが、この1年間というスパンはどう感じていますか?

「本来は、(東京)オリンピックが終わってから、若手にシフトする予定でした。オリンピックが延期になったことで、私も岩渕(聡監督、2022年シーズン限りで退任)もその着手が伸びることになりましまた。その影響で資金面も含めて若手育成に充てるところが、オリンピック代表選手育成中心になることが多かったなと感じています。

昨年秋から綿貫(陽介/フリー・同242位)担当となりましたが、太郎とも連絡は取っていて大会が一緒になれば、今回のようにサポートすることもあります。基本は、選手が100位以内に上がるまでのサポートが前提です。

今回、USオープン予選に若手が入れなかったのは、ここまで来る資金力をナショナルとして援助できなかったことも影響していて、そう考えるとコロナの影響は大きいと思っています。現在は来年に向けて動き出しているところです」

Q.世界的に見て、昨年はイタリア勢の台頭などがありましたね。“日本男子の今”はどう感じていますか? 

「アジアでの大会がゼロだった期間があったことは、かなり影響が大きいですね。日本を一度離れると入国が困難になるのもそうですし、海外遠征を廻り続けるのは資金的にも限界がある。そういう意味ではイタリアはチャレンジャー大会がずっとあるし、フランスも同様。
アメリカも増えてきています。アジアはやっと今年の終盤から開催されることになります。言い訳に聞こえるかもしれませんが、この差は大きかったと思います。(チャレンジャーなどの大会に)出場すれば、もっと日本人選手にも活躍するチャンスはあったはずです」

Q.ここ数年、高田さんが感じでいる世界のテニスの流れを教えてください。

「パワーヒッターが多くなってきたと感じています。打って粘れるヤニック・シナー(イタリア/同13位)のような若手が出てきていて、世代交代が進んでいる感じはありますね」

「スペシャルなものを持っていないと」
海外選手とは立ち向かえない


Q.海外選手というサイズ的に勝る選手が多いです。その中で、西岡良仁(ミキハウス/同55位)選手のようにその不利を感じさせない選手もいますね。

「パワー、身長と外国人と比べるというより、どうやって戦うかだと思います。緩急を使う、ライジングなどで早い展開にするとか何かスペシャルなものを持っていないといけません。日本人選手でも、スペシャルなものを持っていて、感覚的にも優れている選手はいます。それがこれからの課題でもありますね」

Q. 日本人ジュニアは世界的に見ても技術レベルが高いように思いますが、自分なりのスペシャルを作ることは、幼い頃からの練習環境が影響するものでしょうか?

「技術って何か? と言われた時にフォームの形が安定しているとかではなく、ゲームの中で、相手がこの場所に打ってきたボールに対して、スピンで返したり、嫌なところにスライスで返したりするというのが、大事な“技術”なんですよ。そこの考え方は違うなと思います。


例えば、ベースラインから2mの位置でクロスへ打つ技術とかではなくて、そこでスピンで打つ技術があるか、フラットで打つ技術があるか!?  例えばヨシ(西岡)は走らされても、フラットでクロスへ打つ技術を持っています。だから左右に振られても、相手は容易に前に出てこられない。それができないと相手はネットへ出きます。だけどヨシはそれをさせないわけです」

Q.そういう世界の状況を鑑みた時に、日本のコーチや指導者に伝えたいということはありますか? 

「型にはめることは悪いことではないと思っています。どうしても難しくはなるのが練習環境ですね。一概に変えられるものではないし、その中でどういう風にしていくかという工夫が必要だと思っています。

今までの固定観念のような技術ではなくて、例えば圭(錦織圭/フリー・同370位)から聞いた話だとコーチは自由にさせてくれたと言っています。IMGで圭たちを見ていた米沢(徹コーチ)さんがいた時に、練習に参加したことがありますが、こういうふうに来たらこう打つといった技術練習を結構やっていました。インサイドアウトからドロップショットを打つとかゲームに使う技術練習ですね。それはあっていいと思うし、そのジュニアに合ったプレイスタイルを14歳ぐらいまでに作りあげられるか。コーチたちがいかにその子を伸ばしてあげられるかですね」

Q.ツアーでは、メンタル面での浮き沈みが激しくなることもあるかと思います。西岡選手も年始には苦しい時期もあったと思いますが、どう乗り越えるべきといった筋道はあるものでしょうか?

「人によって違うので、乗り越え方というのはないと思います。
8月、ワシントン大会(ATP500)では準優勝と結果を残しましたが、それまでにきっかけは掴んでいたはずですし、試行錯誤を繰り返していたと思います。技術的な問題とかではなく、そこに辿り着くまでの積み重ねで良くなった時にポンと抜けられるように準備しておくこと。プレーが大事なのかもしれないし、メンタルかもしれない、例えば休憩かもしれない。人それぞれだと思います」

「数年後、常に4、5選手が100位以内に入ることが目標」日本男子ナショナルコーチ高田充氏が語る[USオープン]

ワシントン大会で準優勝を果たした西岡良仁(写真:Getty Images)

Q.サポートする立場ですが、ずっと帯同するわけではない。選手との距離感というのは、難しいですよね。

「そうですね。例えばヨシとは今、ずっと一緒にいるわけではないし、ワシントンでは2回戦まで一緒にいましたが、いい距離感が取れていたと思います。選手とずっとよい距離感で居続けるのは大変だと感じています」

錦織圭選手については
「心配しています」「チームの力が必要」


Q.日本人選手としては、錦織圭選手について現状をどう捉えていますか?

「心配しています。ケガから復帰したティエム(ドミニク・ティエム/オーストリア・同211位)も勝てない時期が続きました。ツアーから長期間離れて、復帰後の試合勘や自信もそうですが、ケガで試合に出られないというのは不安しかないはずです。誰かの活躍やランキングが上がってきたことに関しても気にはなるし、前のレベルまで戻れるのかも不安になるので、(サポートする)チームの力が必要になってきますよね」

「数年後、常に4、5選手が100位以内に入ることが目標」日本男子ナショナルコーチ高田充氏が語る[USオープン]

高田氏が心配と語る錦織圭。いい形でのカムバックに期待したい

Q.ありがとうございます。
いい形でのカムバックを願いたいと思います。最後に、今後の目標をお聞かせいただけますでしょうか。


「この10年間というスパンでは、100位以内のランキングになる選手が増え出した時代です。それを続けていきたいですね。島国であること、そしてテニス人口を考えるとヨーロッパのようにたくさんの選手は出ないかもしれない。その中で、2年後、4年後には常に100位以内に入る選手が4、5人いることが目標で、以前からですが、デビスカップで優勝を狙えるチームを作ることが自分の役割だと思っています。

USオープンもそうだし、チャレンジャー大会もそうだし、まずそこに選手がチャレンジしないことには始まりません。歴史もあるし、身近に(100以内に入る選手が)いることが大事。(練習コートにいるマッテオ・ベレッティーニ/イタリアを示して)彼という存在が、みんなを引っ張っているということがあります。今は西岡などが100位に入れるということを証明していることは大きなことです。それがどんどん増えていってほしいですね」

Q.その道のりは簡単ではないですね。

「簡単ではないですね。
例えばイタリアなら1時間の飛行機の移動で試合ができる。アメリカもフューチャーズがあって大学テニスにも世界中からプロになりそうな選手が集まってくる環境があるから、高いレベルの中でプレーできますしね」

Q.逆に考えると、この条件の中で日本のテニスはよくやっているとも言えますね。

「そうですね。だからダメとかではなくて、その中で何ができるかですね。この中で良い道を探していくことです。ジュニアたちも南米に3ヵ月のツアーのような長期遠征を組んでいたりします。そういう中でやっていた選手が、プロになる過程でチャレンジャー大会にチャレンジし、相対することになればまた変化が起きると思います」

Q.日本人の持つ正確性やマジメさといった特性をアドバンテージとして活かせるでしょうか。

「そうですね。そこにパワーヒッターと対戦した時にどうするのかという経験をしていけば、対処法が分かります。日本人の中で通用しているパワーもここでは通用しないとなった時にどうしていくか経験していくことは大事です」

Q.サポートする側の力も大事ですね。

「そこまで潤沢に資金力があるということではないので、こういう活動をしているということを明確に出し、サポートしてくださるスポンサーの皆さまにご理解していただくということを今後も目指していきたいですね。この2年間は楽天ジャパンオープンもチャレンジャーも国内でできませんでした。
これだけの方々が観戦に来られることは選手にとっても励みになりますよね」

Q.ツアー選手育成への熱い思いをお聞かせいただき、ありがとうございました。
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