鉄道愛好家の全国規模の親睦団体が「鉄道友の会」です。発足は戦後復興が一段落した1953年で、2021年で69年目を迎えます。鉄道チャンネルをご覧の皆さんは、友の会は知らなくても、会員投票でその年を代表車両を表彰する「ブルーリボン賞」や「ローレル賞」には興味をお持ちでしょう。

湘南電車から特急列車、新幹線へといった鉄道の進歩に歩調を合わせ、友の会は鉄道趣味の普及や社会的認知に大きな役割を果たしてきました。インターネットが万能になった現在、情報は簡単に手に入るようになりましたが、同好の仲間を得たり、研究成果を発表する場として会の役目は変わりません。会の歩みや活動をたどりつつ、2021年1月13日に発表があった「島秀雄記念優秀著作賞」の3部門6作品を紹介しましょう。
全国規模の愛好家組織があるのは鉄道だけ
鉄道、自動車、飛行機、船といった乗り物には、それぞれファンと呼ばれる人たちがいますが、友の会のような全国一本の愛好家団体があるのは鉄道だけです。例えば、自動車にはモータースポーツのファンクラブはあっても、バスやトラックからレーシングカー、軽自動車までとなると、さすがに対象が広すぎるせいか、日本自動車工業会のような業界団体はあれど趣味の組織はありません。
その点、鉄道友の会は、JRでも私鉄でも、SLでも電車でも客貨車でも、日本型でも外国型でも、とにかく鉄道好きなら誰でもウェルカム。鉄道ファンには「鉄道なら何でも好き」という心の広い方が多いようで、そのことが友の会の存立基盤になっています。
国鉄が友の会誕生を主導
1953年ごろの鉄道がどうだったかといえば、経済成長に向けた輸送力整備が進んでいました。象徴といえるのが1950年に登場した「湘南電車」。
初代会長には〝東海道新幹線生みの親〟として今に語り継がれる、元国鉄技師長の島秀雄氏が就任。その後も天坊裕彦氏、八十島義之助氏、馬渡一眞氏と国鉄や鉄道界の重鎮がトップに就きました。2007年から現在まで会長を務める須田寛氏は、ご存じの方も多いと思いますが、JR東海の初代社長として東海道新幹線品川駅開業などに尽力。ご自身も熱心な鉄道ファンで、国鉄(JR)の駅名を全駅記憶しているという逸話をお持ちです。
海外からアドバイスを求められる
現在の鉄道友の会は会員数約3000人。ブルーリボン賞やローレル賞の選考・表彰のほか、会報「RAILFAN」を隔月刊行します。話が後先になりましたが、取材で訪れた東京・市谷の友の会本部で見本誌としていただいたRAILFANには、「京急新町検車区は旧東海道線の線路跡か?」「高輪ゲートウェイ駅付近の昔話」といった、鉄道ファンなら興味を持ちそうな研究成果が並びます。
コロナ前の話ですが、友の会には海外からの来訪者もありました。ドイツの放送局からアドバイスを求められたのが、「新宿駅を紹介したいが、どういう絵(画像)を撮ればいいか?」。台湾の国鉄に当たる台湾鉄路管理局から相談を受けたのは、「台湾でも鉄道友の会のような組織を創設したいが、どのように会員を集めたり運営すればいいのか?」。鉄道の走るところ、必ず鉄道ファンあり。
若手会員の確保が課題

鉄道友の会には北海道から九州まで全国17支部があり、秋田、長野、阪神など県・地域単位の支部もあります。分野別には、「車両記録」「客車気動車」「貨車」「小田急」「東急電車」「西鉄」「無線サークル」の7つの研究会があります。電車がないのに客車気動車があったり、JRや東武、近鉄がないのに西鉄研究会があったりするのは、鉄道ファンの関心の対象を垣間見るようです。
そんな友の会にも課題があります。それは若手会員がなかなか集まらない点で、ベテラン会員からは「会員の平均年齢が毎年1歳ずつ上がっている」の、本音ともジョークともつかないセリフが聞かれます。
昔は友の会に入らないと詳しい情報がつかめなかったのが、今はネットを見れば何でも出ている。「若者の○○離れ」には、旅行やクルマ、スキーなどのほか鉄道にも当てはまるようです。それでも貴重な先輩の話を聞けたり、同じ趣味の人たちと知り合って鉄道への知見を深められる。ブルーリボン賞、ローレル賞に投票できる(ブルーリボン賞は会員投票で決定。ローレル賞は会員投票を基に、選考委員会が選定)、鉄道の見学会、撮影会に参加できるなど特典がいっぱい。鉄道チャンネルで鉄道に興味をお持ちの皆さん、一度「鉄道友の会」のホームページをご覧になってはいかがでしょうか。


島秀雄記念優勝著作賞に「鉄道を支える匠の技」など

ここからはもう一つの本題「島秀雄記念優秀著作賞」のご紹介。初代会長、島秀雄氏の名を冠した著作賞は、名称通り鉄道図書や雑誌記事を対象にした顕彰制度です。2008年の創設から13回目、今回は単行本部門3作品、定期刊行物部門(雑誌記事)1作品、特別部門2作品を表彰します。
単行本部門は青田孝さんの「鉄道を支える匠の技」(交通新聞社)、清水武さん、田中義人さん共著の「名古屋鉄道車両史」(アルファベータブックス)、在羽テヌヒト(ハンドルネーム。本名・田嶋玲)さんの「黎明期の貨車移動機」(交現社在羽製作所)、定期刊行物部門は高田圭さんがレイル109号(エリエイ)に寄稿した「JR奈良線の歴史を探る」、特別部門は岡本憲之さんの「『ニチユ機関車図鑑』(イカロス出版)ほか一連の著作に対して」、東北福祉大学・鉄道交流ステーションの「『むかし、秋保まで汽車が走ってた。』ほか一連の企画に対して」が選考されました。

鉄道を支えるものづくりの現場を取材

各作品を〝1行紹介〟すれば、「鉄道を支える匠の技」はものづくりの視点で鉄道業の現場を紹介。「名古屋鉄道車両史」は、さまざまなルーツを持つ名鉄の車両群をビジュアル重視で網羅しました。「貨車移動機」は、貨物鉄道駅で貨車の入れ替えに活躍する小型機関車のこと。資料もほとんどない中での詳細な調査には感心させられます。
「JR奈良線」は、私鉄の奈良鉄道にさかのぼる沿線の歴史的構造物を現地調査。「ニチユ機関車」の岡本さんは、全国鉱山鉄道や軽便鉄道といったマイナーな鉄道の調査研究をライフワークとします。2007年に開設された東北福祉大の鉄道交流ステーションは、40回近い企画展で鉄道趣味を掘り下げました。
最後に須田会長の年頭メッセージをお届けします。
「2020年は鉄道にとっても大変な年でした。コロナ禍で4、5月頃は新幹線のお客さまが対前年9割減と激減しました。「のぞみ」も、1両数人の乗車というような列車も少なくない状況でした。コロナ禍収束後は、多くのお客さまにご利用いただき経営を建て直さねばなりません。
文/写真:上里夏生