水沼貴史の欧蹴爛漫 035
早くもバイエルンの攻撃に欠かせない存在となりつつあるコウチーニョ photo/Getty Images
新加入コウチーニョが早速フィット
水沼貴史です。早くも数多くの好ゲームが繰り広げられている今季の欧州主要リーグですが、なかでもブンデスリーガは上位7クラブが勝ち点差“3”のなかでひしめき合うなど、序盤戦から群雄割拠の様相を呈しています。
リーグ開幕前のドイツ・スーパーカップでドルトムントに敗れ、ヘルタ・ベルリンとのリーグ開幕戦や第4節のライプツィヒ戦で引き分け止まりと、ロケットスタートを切ったとは言い難い彼らですが、新戦力は概ね良好なパフォーマンスを見せていると私は思います。早くも安定感のある守備を見せているリュカ・エルナンデスとバンジャマン・パヴァールの両DF、リーグ戦で既に2ゴールを挙げているFWイヴァン・ペリシッチも然ることながら、特にバルセロナからのローン移籍で加わったMFフィリペ・コウチーニョの存在感は際立っていますね。彼の加入によりウインガーによるサイドからの崩しに偏りがちだったバイエルンの攻撃にバリエーションがもたらされたように見えます。
敵陣ゴール前中央からドリブルで仕掛け、独力でペナルティエリアへ侵入していくタイプの選手がいないという印象を昨季のバイエルンから受けたのですが、コウチーニョが[4-2-3-1]という布陣のトップ下で起用されるようになってからは、中央からも相手の守備ブロックを崩しやすくなりました。昨季はハメス・ロドリゲス(現レアル・マドリード)やチアゴ・アルカンタラが中央で攻撃のタクトを振るっていましたが、彼らは自らドリブルで仕掛けるというよりかはピッチ全体を俯瞰し、パスで味方のフリーランニングを活かすことが得意な選手です。トーマス・ミュラーがトップ下に入るケースもありましたが、彼もドリブラーと言うよりはフィニッシャーという色合いが強いです。一人で局面を打開できるコウチーニョがトップ下に据えられてからというもの、バイエルンの敵陣ゴール前中央からの攻撃の破壊力は上がったと言えますし、以前よりも自陣に引き籠る相手を苦にしなくなるのではないでしょうか。ドリブルやミドルシュートを得意としながら、状況に応じてフリーな味方を活かすことができるのもコウチーニョの魅力ですね。
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就任2季目のニコ・コバチ監督。新加入ペリシッチ(左)をはじめとするウインガーに縦への突破を徹底させるなど、新たな攻撃の形作りに着手している photo/Getty Images
コバチが植え付けようとしている攻撃とは
バイエルンの今季序盤のゲームを見ていると、コバチ監督がサイド攻撃に関し、新しい約束事をチームに植え付けようとしているように私には感じられます。左利きのロッベンを右サイド、右利きのリベリを左サイドに置き、彼らのカットインから活路を見出すというスタイルをバイエルンは長い間貫いてきましたし、キングスレイ・コマンとセルジュ・ニャブリもどちらかと言えばカットインからのシュートを得意としているイメージが私のなかであったのですが、今季はウインガーが縦へのドリブルを選ぶケースが多い印象があります。
私の推測ですが、コバチ監督がウインガーの選手に対し、極力縦へのドリブルを選ぶよう指示しているのではないでしょうか。ウインガーによるカットインは上手くいけばそのままシュートに繋がりやすい反面、相手選手に突破を止められるとサイドががら空きとなり、そのスペースを使われてカウンターを浴びるリスクが高まるという難点があります。ウインガーに縦へのドリブルを徹底させ、彼らが敵陣ゴールライン付近やサイドの深い位置に侵入できさえすれば、最悪でもDFにクロスを当ててコーナーキックというプレイを選択できますし、仮にボールを失っても敵陣の深い位置であればそこからカウンターを打たれる可能性は低いというのが、コバチ監督の考えなのでしょう。
また、ウインガーの縦方向のドリブルが成功すると自ずと相手の最終ラインが下がりますので、ラインが下がったことによって生まれるバイタルエリアのスペースにマイナス方向のパスを送り、そこにコウチーニョやミュラー、もしくはロベルト・レヴァンドフスキあたりが飛び込めれば、決定機になり得ます。今のところコバチ監督が新加入のペリシッチにも縦へのドリブルを徹底させているように見えますし、右利きのコマンを右サイドで固定し始めたこと一つをとっても、指揮官の意図が透けて見えます。
ではでは、また次回お会いしましょう!
水沼貴史(みずぬまたかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。
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